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ついに処置の日。上手くいけば金輪際このオオカミと会うことはないだろう。失敗なら、オオカミと死を共にするのみ。
彼女には一度も言っていないが、しかし僕は死ぬのもそれで良かった。「死」は怖い。けれど言わば彼女に殺されるのであれば、最後に隣にいるのが彼女であるのなら僕は恐怖をも受け入れる覚悟があった。僕が笑って死ねば、彼女はきっと僕を忘れて生きてくれる。人を死なせてしまった、そんな苦しみを感じずに歩いてくれる。
「それじゃあ、もう一度言うわよ。私を信じて。私も君を信じる」
結局、処置の担当は彼女になった。倒れた次の日には目を覚まして心配をかけたと謝りに来た。
ごめんね、少し疲れてたみたいなの。
彼女はそう言った。それが嘘なことくらい僕がわからないはずないのに。
誰にでも言えないことがある。僕も彼女に「処置が失敗して死ぬことになっても大丈夫だから」と言ってないし。同じように彼女も僕に言ってないことがある。それだけのことだ。
「ゆっくり目を閉じて。大掛かりな方法を使うし時間がかかると思うわ。それに次目を開けるのはいつになるかわからない。でも安心して、目が覚めるまで君の側にいるわ。だから、信じて」
小さくなってしまった彼女は何処かへ消えていた。いつも通りの彼女。
本当に?
ずっと喉の奥に詰まっていたものが、落ちた。
まさか、あなたは。言葉はもう彼女に届かなくて僕の意識の糸は切れてしまった。