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 部屋を出たのは二人なのに戻ってきたのは彼女だけだった。


 「あの男の人はどうしたの」


 「彼は関係者ですら無いわ。私のただの同僚ね」


 「なぜ彼は大声をあげていたの」


 「あなたにする予定の処置に納得いかなかったみたいよ。危険すぎる、って。私だってこんな方法しか採れないのは悔しいわよ」


 「でも、僕はあなたを信じてる」


 「彼も君の同意があることを伝えたら引き下がったわ。仕方なくといった感じだったけど」


 「僕のオオカミは危険なんでしょう、それ相応の覚悟がいるよ。早く行動するほうが良いに決まっているしね、いつオオカミが僕を食い千切るかわからないもの」


 「彼は今すぐオオカミが暴れる心配はなく、検査を続けたり処置方法を考える時間を延ばすほうが安全だと考えているみたいよ。それについての根拠もあるし、他の仲間も賛成だったみたいで彼は代表して私に文句を言いに来たってわけ」


 根拠がある。それなのに彼女だけが反対している。黒い針が疑問の形を成して突き刺さってくる。


 「どうしてあなたは賛成しないの」


 「当然、それが可能性の話でしかないからよ。根拠があってもオオカミが予想外の動きをしないなんて言いきれないでしょう」


 それに。


 彼女はたった三文字だけ呟いて話すことをやめた。


 何だか彼女、こんなに小さかったか──。


 「あなたを信じている。これは確かな事実よ。でも、それでも話せないわ。それが理由であなたの処置に手を抜くなんてことはないから、信じて」


 もちろん信じるに決まっている。ずっと言っていることだし、彼女もわかっているはずだ。だからこそ、彼女が何度も自分を信頼してくれと言うのは何かが彼女をそうさせている証拠だった。不安とか、恐怖とか。もしくはそれらの根底にある何か。


 そんな彼女を感じたからこそ、はっきりと言わねばならない。


 「信じているよ。これからも、信じるよ」


 彼女はやっと、柔らかい笑みを浮かべてくれた。そして全身の力を抜いていった。


 いや、力は抜けていった。


 彼女は僕の部屋で倒れ込んだ。

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