アイスボックスクッキーの思い出【おまけ】
私の作ったクッキーの盛られている皿を目にした黒髪のウサギ耳少年・ヒューバートは嫌そうな顔をした。
失礼な孫だな。
「ばあちゃんのクッキー、一人、ノルマ1枚か~」
「こら! 何を言っているんだ、ヒュー!」
ヒューバートのげっそりとした呟きにクールビューティーな黒髪黒眼の男が叱りつける。
しかし、同じ部屋にいる子どもたちやそのハーレムメンバーと孫たちの表情は苦笑いやら、ヒューバートと同じ表情だ。
失礼だな、ヲイ。
特にハーレムメンバー。
本人が嫌がっても勝手にまとわりついて離れない、ハーレムメンバー。
お前らを身内認定してあげている私の優しさに少しくらい感謝してもおかしくないよね?
何気に、私に嫌われていいと思ってんの?
「だってさ~。ばあちゃんのクッキー、ほんとにまっずいんだもん。父さんもそう思わないの?」
孫よ、言いたい放題だな。
「男だったらどんな食べ物も食べ物であるかぎり、文句を言わずに食べるものだ。毒が入っていたり、腐っていないんだから、食べ物を粗末にしてはいけない」
息子よ、それはフォローになっていないし、そんな言葉では何の効果もない。
そこは「食べることのできない人もいるのだから、ありがたく頂きなさい」だ。
「作り手に感謝しろ」とか、もう、「材料を作った人に感謝しろ」でもいい。
仕方ないか、修行馬鹿の聖騎士だし。
「トラパネーゼ伯父さんなんかリビングデッドに食わせてるぜ。オレの分も食ってくれねぇかな」
ヒューバートに指さされた先にいるのは死霊術師で動く死体やら死霊に好かれてハーレムができているが、生身のお相手を募集中の不憫な息子トラパネーゼがいた。
「食べてくれるのはありがたいけど、キミの気持ちには応えられないから」
ヲイ。
そして他のリビングデッドたちが私のクッキーを我先にと手を伸ばして食べていく。
ああ。私のクッキーが。私の家族への愛情表現であるクッキーが減っていく。
「だから、やめてくれ! こんなことされても、私は生身の人間が好みであって、キミたちは無理なんだ!」
トラパネーゼは叫ぶがリビングデッドたちは言うことをきかない。
この状況は身に覚えがある。
ハーレムメンバーが言うことを聞かずに暴走することなんかよくあることだよね、と思いながらいつの間にか腰に回されていた手を引っぺがす。
「アルゲティ」
腹黒神官が蕩けるような笑顔で私を見ていた。
メガネがないのが残念なクールビューティーは酷薄な印象さえあるおじさまになっていた。
悪いがそんな表情をされても誤魔化されない。
いったい、何年の付き合いだと思っているんだ。
「何ですか、ナギサ様?」
「ボディタッチ禁止」
「気にしないで下さい」
「いや、そこは気にするとこだよ! 私は大いに気にしている!」
「なら、いいじゃないですか」
「いや、良くないから。良くないから言ってんの!」
いつになっても安定のセクハラ魔人だ。
「相変わらず、マズッ。進歩しないのかよ。どうしてここまで進歩しないのかソッチのほうが気になるぞ」
鬼畜戦士、お前が食べているクッキーはいつ取ったんだ?
私のクッキーはリビングデッドたちがすっかり平らげてしまったのに。
歳をとっても、金髪イケメンはイケメンのままだった。
それどころか、おじさま属性が付加されている。
元々、王子様らしいからそれなりに威厳があったが、今じゃ立派な獅子だ。
お前も腹黒神官もどうして、無駄にイケメンなんだ?
歳をとったのなら、さっさと魅力も減れよ!
何、倍増しているのさ!
「クサナギ家伝統のアイスボックスクッキー、追加分です」
と、すっかりオカンな方向にいってしまった魔術師が山盛りのクッキーが載った大皿を手に部屋にやって来た。
私はセクハラ魔人から逃げるべく、台所に戻る気弱ワンコの後に付いて行くことにした。
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「いいですか。クサナギ家の一員としてやっていく為にはこのアイスボックスクッキーを作れるようにならないといけません。作れないと樹氷月の14日に大切な相手に気持ちを伝えることができなくて大変です」
台所に集まっている子どもたちやそのハーレムメンバー、孫たちは真剣な顔で魔術師のアイスボックスクッキー教室に参加している。
いや、それをお前が言うな、気弱ワンコ。
そもそもそのレシピは私のものだ。
何で、お前が布教しているんだ。
それに何か間違っている・・・。
微妙に違う。
微妙に。
その光景は突っ込みどころだらけだった。
異世界の我が家では樹氷月の14日に気弱ワンコが作ったアイスボックスクッキーを家族と食べる風習ができていた・・・。
『トラディショナル・レシピは基本のレシピですから、分量の比率と作り方さえ間違えなければ誰でも作れるものなんですよ』
無理だよ、貝原。
何年たっても、私のアイスボックスクッキーはまずいと言われているよ。
・・・そういえば、作れるとは言っていたけど、貝原は美味しくなるとは言っていないことにようやく気が付いた。




