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緊急依頼から三日が経った。
大きな被害はなく、今は国から調査が入っているらしい。
何だか、普通に依頼を受けるのが久しぶりに思えるわね。
目の前のギルドの扉を眺めてそんな気分になった。
一応昨日も来てはいるけれど、ギルド長のグスタフに報告やら何やらをして、それだけで終わってしまった。
あの骨についても話したが、前例は無いみたいだった。
本当に何だったのかしら?
「よっ、元気か!」
扉の前で立ち止まっていると、後ろからガイルの能天気な声が聞こえた。
こいつは相変わらず元気ね。
昨日だって、私の話を聞いたグスタフやロイドたちは揃って険しい顔をしていたというのに、ガイルだけは「難しいことは分からん」と笑っていた。
依頼の時のあの頼もしさは奇跡だったわね。
「あんたこそ、怪我はいいの?」
「おう!もうばっちりだ!」
ガイルが肘を曲げて腕をぐっと持ち上げた。
私が廃鉱山を出て村に戻ったとき、ガイルたちはかなり消耗しながらも、最後まで村を守り抜いていた。
「俺たちだけじゃ無理だっただろうけどな。【蒼銀の剣】の奴らがいてくれてよかったぜ」
「蒼銀……?」
「ああ、ケインたちのパーティの名前だよ。有名なんだぜ?」
……へえ、知らなかった。
でも、確かに実力者がそろってたわね。
ケインはもちろん、ルイスの魔法とフィオナの支援もかなりのものだった。
ザックも私より若いのに斥候と戦闘を十分にこなしていた。
「今度会ったときは、もう少し落ち着いて話をしてみたいわね。パーティのこととか聞きたいし」
「お?フレアもパーティ組む気になったのか?」
「違うわよ。レオたちのお手本になるかと思っただけよ」
レオ、ダン、ミアの三人もそろそろパーティとして安定してきている。
ソロの私だと見えない部分もあるはずだ。
「なるほどな、たぶん色々教えてくれるぜ」
「どういうこと?」
「村を出る前にちょっと話したんだが、蒼銀の奴らもお前に興味ありそうだったぜ。ケインの奴は褒めちぎってたし、ルイスってやつも魔法談義したいとかなんとか言ってたな」
「へえ」
それは面白そうだ。
「あと、ザックはなんつうか……」
ガイルが腕を組んで目を瞑ったかと思えば
「まだまだ若えな!」
と、豪快に笑い飛ばした。
……どういうことかしら?
ずっと立ち話をしていてもきりがないし、とりあえずギルドの中へ入る。
ギルドの中はいつも通りだった。
誰かが依頼書を取り合っていて、酒場からは朝っぱらから笑い声が聞こえてくる。
三日前まで村一つが危険に晒されていたなんて、嘘みたいね。
「じゃ、俺はギルド長に呼ばれてっからまたな」
そう言い残して、ガイルは奥の階段を上っていく。
さて、私も依頼を探そうかしら。
冒険者たちに混ざって掲示板を眺める。
討伐、護衛、採取。
いくつもの依頼書が乱雑に貼られている。
その中で、端にあった一枚の紙に目が留まった。
【条件:Sランク以上】
……Sランクか。
そういえば、今回の件も昇格の検討材料になるらしい。
別にランクなんてどうでもいいんだけど。
上がれば上がったで、面倒なことも増えそうだし。
依頼内容に軽く目を通したが、今の私には関係ない。
その近くにあった、手ごろそうな依頼書を剥がして掲示板を離れる。
「やあ、フレア」
声をかけられて依頼書から顔を上げると、目の前にアルジャンが立っていた。
「あら、偶然ね。あんたも依頼受けに来たの?」
「あー、いや、その」
何だか煮え切らない態度だ。
アルジャンは一瞬目を伏せた後、私を見た。
「フレアを待ってたんだ。無事だったかちゃんと確認したくて」
「……ふん、私が怪我なんてするわけないでしょう」
思ってもみなかった言葉に、何だか落ち着かない。
私は少し顔をそらした。
私の言葉を気にした様子もなく、アルジャンが私の持っていた依頼書を覗き込んだ。
「今日は討伐に行くのか。俺もついて行っていいかな?」
さっきまでの歯切れの悪さはどこへ行ったのか。
もう、いつものアルジャンに戻っていた。
「別にいいけど、二人で行くほどの難易度じゃないわよ?」
「かまわないよ、ありがとう」
アルジャンは嬉しそうに笑った。
……そんなに私と一緒に行きたかったのかしら。
一瞬、妙な考えが頭をよぎる。
……。
私はアルジャンから顔をそらすと、そのまま踵を返した。
「それじゃあ、さっさと行くわよ!」
まったく、何を考えているのよ私は。
勝手にそんなことを勘ぐるなんて、アルジャンに失礼だ。
私は少し早足で受付へ向かった。
◇◇
「いい天気だな」
草原を並んで歩きながら、アルジャンが大きく伸びをする。
「呑気ね。今から魔物の討伐に行くのよ?」
「まあそうだけど。俺って一人で活動すること多かったから、こういうの新鮮で楽しいんだよね」
アルジャンが空を見上げながら目を細める。
その気持ちはわからなくもない。私もソロで活動してるし。
「でも、あんたこの前ガイルと二人で依頼受けたって聞いたわよ」
「あれは、ガイルさんに無理やり連れていかれたんだよ!」
心外そうにそう言って、ため息をつく。
「あの人、すぐに敵に突っ込んでいくから、援護するの大変だったんだけど……」
アルジャンには悪いけれど、あいつに振り回されてるところを想像すると思わず笑ってしまう。
無理やりなんて言って、本当に嫌だったら簡単に逃げられるでしょうに。
「……」
「ん?」
気のせいかしら?
視線を感じて横を向いたけど、アルジャンは前を向いたままだった。
「そういえば、もうすぐSランクに上がるんじゃないか?」
「ええ、そうみたいね。昨日もランクについて色々言われたわ」
思わずため息をついてしまう。
真面目な顔をしたグスタフに冒険者や貴族に絡まれても相手にするなと念を押された。
「私、そんなに直情型じゃないっていうのに。どうでもいい奴の相手なんかわざわざしないわよ」
「あぁ、まあ……」
「何よ?」
「いや、俺も初めて会ったとき冷たくあしらわれたなあって思い出して」
アルジャンが苦笑するように目を細める。
「仕方ないじゃない。あんた、胡散臭かったんだから」
「だよね」
そう言って、頬を掻いた。
自覚はあったらしい。
「あんな風に演じてた方が昔は楽だったんだ。誰にも踏み込まれないで、一人で好きに生きられたから」
「ふーん。今は違うのね」
「そうみたいだ」
アルジャンは少しだけ笑った。
「最近は、一人より誰かといる方が楽しいと思うことも増えたから」
「へえ」
たぶん本心なんでしょうね。
アルジャンが西の支部に移動してきて、冒険者たちと話しているところをよく見かけた気がする。
ああでも、受付の子とか女性冒険者にアプローチされているところも見たわね。
「……ちなみにさ、俺の噂って何か聞いてた?」
「ん?ああ、手当たり次第に女性を誘ってるって聞いたわね」
しまった。
つい、ニーナに聞いた噂を正直に答えてしまった。
アルジャンが肩を落としている。
そうよね、さすがに友人に変な噂を知られているのは嫌よね。
「違うから! 俺、そんなに――」
勢いよく私の方を見たかと思うと、アルジャンはぴたりと固まった。
「……例えばなんだけどさ」
急に声の勢いがなくなる。
「女遊びしてそうな奴が、実は女の子と飯食ってただけでしたって言ったら……ダサい?」
……それを聞くところがダサい。
そう思ったけれど、さすがに口には出さないでおく。
それにしても、何が「例えば」よ。どう考えても、あんたの話じゃない。
適当に答えようかと思ったけれど、アルジャンの顔は真剣だった。
少し考える。
正直、私は気にしない。
でも、それだけじゃ参考にならないわよね。
そういえば、アルジャンと出会った頃、ギルドにいた女の子たちに色々聞かれたりしたわね。
みんなアルジャンに好印象だったわ。
「どうかな……?」
アルジャンが神妙に尋ねてくる。
たぶん、飄々とした余裕のある態度が好まれたりするのでしょうね。
よし。
「まあ、そういうのに慣れてる方が好きって子も多いんじゃないかしら」
「……」
否定した方がよかったのかしら?
でも、私に聞くってことは女性目線の意見を言うべきだし。
間違ってない、はず?
「あはは、そうだよね。うん……よし!」
アルジャンがぱん、と一度手を叩いた。
「たとえ話はここまで! 依頼に集中しようか」
そう言って、ざくざくと草原を踏み分けて歩いていく。
無理矢理明るく振る舞ってるのがまるわかりだ。
……わかりやすいやつね。
まあいいか。
もうすぐ討伐スポットに到着する。
私も腰の剣を確かめて、アルジャンの後を追った。
そして、数十分後。
「終わったわね」
剣についた血を払い、鞘に収める。 結局、討伐は拍子抜けするくらい簡単に終わった。
「やっぱりフレアは強いな」
「あんたもね。前より強くなってない?」
「そうかな?」
アルジャンは曖昧に笑って、地面に転がる魔石を拾い始める。
「また、一緒に行ってもいいかな?」
私も足元の魔石を拾い上げる。
「依頼があればね」




