26
「はっ!!」
茂みから飛び出した魔物の首を斬る。
教会はもう目の前だ。
周囲には魔物の魔力を感じない。それでも、ロイドを先頭に慎重に進んでいく。
一人、また一人と村人が教会の扉をくぐっていく。
十二人目が中へと入り、思わず肩の力が抜けた。
……しっかりしなさい。休んでる暇はないのよ。
足に魔力を込め、教会の屋根へと飛び乗る。
村長にはロイドが話をしている。
私はガイルとアランのいる北の方へ向かうべきか。
そう思って魔力探知を広げると、北側に群がっていた魔物の反応は、ほとんど消えていた。
屋根から、北の方に目を凝らすと、こちらに向かってくる人影が六つ見えた。
前方の二人はガイルとアランだろう。
後ろの四人は中央支部の冒険者だろうか。
屋根から飛び降りて、ロイドとリックに声をかける。
「北の方の魔物も片付いたみたいよ。ガイルたちが教会に向かってきてるわ」
「村長によると、住民の避難も完了したようだ」
それを聞いて、ようやくまとわりつくような寒気が消えた。
教会の中を見ると、抱きしめあっている村人たちがいた。
……もう、逃げ遅れた人はいないのね。
気づけば、また肩の力が抜けかけていた。
さっきと同じだ。無事だとわかった途端、すぐに気が緩んでしまう。
……もっと冷静でいなければ。
ほどなくして、六人が教会前までやって来た。
「こっちは無事か?」
ガイルは足を止めるなり、教会の周囲へ目を走らせた。
「ああ、住民の避難も終わった。そっちの四人は応援か?」
ロイドが、ガイルの後ろに立つ四人へ目を向けた。
「中央支部所属、Aランクパーティリーダーのケインだ。よろしく」
金髪の男が手短に挨拶をして、軽く頭を下げた。
「こいつらのおかげで、北の魔物もひとまず片付いたぜ!」
「俺とガイルさんだけじゃ、あの数はさすがに厳しかったんですが、ケインさんたちに助けてもらいました」
ガイルとアランの言葉に、ケインは困ったように肩をすくめる。
「もう少し早く来られればよかったんだけどね。準備に手間取ってしまった。申し訳ない」
……いい奴みたいね。
少なくとも、面倒なことにはならなさそうだ。
「北の魔物が片付いたってことは依頼達成か?」
「いや、どうやら廃鉱山からどんどん魔物が湧いてるっぽくてな。原因を解決しないと終わらないみたいだ」
ガイルが説明しながらため息をつく。
そのとき、教会の扉が開いた。
いつの間に中へ入っていたのか、リックが鍵を指先で揺らしながら戻ってくる。
「村長さんに教会横の倉庫のカギもらってきたよぉ」
「お、サンキュー!そこで作戦会議するぞ!」
リックがカギを開け、私たちは倉庫に移動する。
中は冒険者九人が集まるには十分な広さがあった。
私たちは、中央に置かれていた机を囲むように立つ。
「いつ魔物が襲ってくるかわからんから。つっても、名前と職ぐらいは共有しとかねえとな。俺はガイル、大剣使いだ」
「ロイド、槍使いだ。結界も数分程度なら使える」
「俺はリック。弓使いだよ。遠距離なら任せてねぇ」
「アランです。剣士をしてます」
アランが言い終わり、私の番が来た。
一瞬、どう説明するか考えてから口を開く。
「フレアよ。メインは剣で、魔法もある程度使えるわ」
剣以外も使えるけど、わざわざ説明している暇はない。
それだけ言って、中央パーティの四人を見る。
「おお、奇遇だな。俺も剣と魔法を使うんだよ。魔法剣士ってやつだ」
ケインが腰に差した長剣に手を置く。柄には魔石が埋め込まれていた。
そして、すぐに隣をみて合図を送り、ケインの横にいた軽装の少年が話し始めた。
「ザックです。俺は斥候っすけど、近接戦もいけるんで」
ザックは目つきは鋭いが、少し幼い顔立ちに見える。
私より年下かもしれない。
愛想はないけれど、物怖じした様子もない。
「ルイス、魔法使い」
「フィオナです。僧侶ですので支援はお任せください」
ローブ姿の無表情な男性と、柔らかい笑みを浮かべる女性が順に名乗った。
……魔法剣士に斥候、魔法使い、僧侶か。
「よし、そんじゃ今後の方針なんだが……どうも魔物倒して終わりってわけじゃないみてえだ」
ガイルが苦々しそうに頭を掻いて、話を続ける。
「村の近くにいた魔物は倒したが、新しくこっちに向かってきてる。それも数十匹はいる」
「北の奥にある廃鉱山から出てきてるみたいだけど、魔物が巣を作っただけならこんなに断続的に襲ってくるはずないんだ」
ケインの言葉はもっともだ。
私も異変を感じていた。
「それに複数の種類の魔物がいるのもおかしいわよね」
「そうだね、北の群れの中には獣型だけじゃなく、虫型の魔物もいた」
ケインが腕を組み、廃鉱山の方角へ視線を向ける。
「やっぱり、奥で何か起きてると考えた方がよさそうだ」
「そうみてえだな。っと、そろそろ魔物が来るな」
その時、黙って話を聞いていたザックが体をびくりと揺らした。
「向かってきてる中に大型の奴が二体います!」
「っし行くぞ!アランは休んでろ、村人の護衛頼む!」
「あんたも休みなさいよ!私が行くわ」
武器を持って飛び出そうとするガイルを掴む。
ロイドも止めるようにガイルの胸を押す。
「俺とリックとフレアで行く。そっちはどうだ?」
ロイドがケインに視線をやる。
「俺とザックが行くよ。ルイスとフィオナは村人の救護をお願い」
私たちは武器を手に、教会横の倉庫を飛び出した。
そのまま北側の門まで駆ける。
私とロイド、リック。そして、中央のケインとザックの五人だ。
少し離れた位置に魔物が走ってきているのが見える。
その中に、明らかに一回り大きな影が二つ混じっていた。
「ほんとにデカいやつがいるな。さすがザック」
「……っす」
ケインが振り返ってザックに微笑む。
「こっちに着く前に、大型の一体は私が魔法で仕留めるわ」
「できるのか?」
ロイドが私を横目に見る。
私は手の平に一瞬だけ炎を走らせる。
「ええ」
「了解した」
ロイドは、それだけ言って前を向いた。
けれど、ザックは少しだけ眉をひそめている。
「それじゃあ、もう一体は俺が倒そうかな」
ケインが飄々と鞘から剣を抜いた。
私を信用しているというより、私が失敗しても自分が二体とも倒すって感じかしら。
……まあいいわ。私はあいつを仕留めるだけよ。
魔物まで少し距離があるが射程圏内だ。
足の速い魔物は群れを抜けて目前に近づいてくるが、リックの矢が一瞬で射抜く。
それを見届けて、私は手を上に掲げた。
真っ赤な光とともに頭上に巨大な燃え盛る炎を生み出す。
その炎を一気に絞り込み、細く鋭い一本の槍へと変える。
村に迫る巨体を見据え投げるように腕を振り下ろす。
それに合わせて、槍は一直線に飛んで行く。
炎の槍は大型の魔物を貫き、周囲の魔物も呑み込んで火柱を上げる。
「もう一体は任せたわ」
熱の残る右手を軽く振って、剣に手をかける。
魔力はかなり持っていかれたが、後は剣でやれる。
「まじかよ……」
ザックの声を後ろに聞きながら、私は魔物めがけて走る。
魔物は左右に広がって、こちらへ迫ってきている。
「任された!行こうか、ザック!」
「っ、はい!」
ケインが大型のいる左前方へ走り、ザックがその後を追うのを視界の端に捉える。
私は目の前の魔物を、走った勢いのまま斬り伏せた。
そのまま、二体、三体と一振りで魔物を消していく。
次第に魔物が足を止めて私を囲み始める。
「好都合ね」
飛びかかってくる魔物を避け、さらに剣を振り回す。
私を無視して村へ向かう魔物もいるが、ロイドとリックが門の前で待ち構えている。
私は目の前の敵を倒すだけだ。
左から襲ってきた魔物の爪から身を反らし、剣を振る。
その時、少し離れたところから強い魔力を感じた。
そのまま剣を振り抜き、少し視線を動かすと、ザックが小型の魔物の首に短剣を突き刺していた。
そして、ケインは数メートルはある大型の魔物の真上で剣を振り上げていた。
その剣身には稲妻が迸っている。
「あんなやり方もあるのね」
後は見るまでもない。
私は、前方の魔物に視線を戻し、また剣を振った。
それから数十分、柵で囲われた村の周りに魔物はいなくなった。
……まあそれも、一時的なことでしょうけど。
無理やり廃鉱山の方まで魔力探知を伸ばすと微かに奇妙な魔力を感じる。
けれどそれ以上はわからない。
私は探知をやめ、門の前まで戻りロイドたちと合流する。
「次が来る気配はまだないな。一度、教会へ戻ろう」
「そうね、鉱山の奥で何か起きてるのは間違いなさそうだもの」
私たちは周囲を警戒しながら、村の中へと戻った。
暗い道の先に教会の灯りが見える。
ガイルとアランが角灯を手に辺りを見回している。
アランが私たちに気づき、ほっと息を吐いた。
「おかえりなさい。ご無事でよかったです」
「ただいまぁ」
ガイルも気づいてこちらに歩いてくる。
「全員無事か?」
「ああ、魔物も全部倒したよ。でも、やっぱりこれで終わりじゃなさそうだ」
ケインがため息を吐く。
「だろうな……とりあえず、詳しいことはあっちで話すか」
ガイルたちが倉庫へと入っていく。
私は一度立ち止まって、教会を振り返った。
数時間前に比べて、教会の中は静かだ。
眠っているのだろうか。
昨日まで、この人たちは自分の家で眠っていたはずだ。
明日の朝だって、同じように目を覚ますつもりだったはずなのに。
それなのに……
「どうした、フレア?」
「何でもないわ」
私もロイドに続いて倉庫に入る。
中には、私を含めて七人しかいない。
ケインのパーティの魔法使いと僧侶がいないわね。
「お二人も呼んできましょうか?」
アランの提案にケインが首を振る。
「いや、二人にはそのまま教会で救護に専念してもらおう」
「では、俺も教会の方を手伝ってきます」
そう言って、外に出ていく。
「俺もあっち行くねぇ。難しい話は任せるよ」
リックもアランを追って外に出ていく。
倉庫には私とガイル、ロイド、ケイン、ザックが残った。
「じゃあ、話の続きだが、まだ終わりそうにねえって言ってたよな?」
ガイルがケインを見る。
「ああ、さっきの群れには大型が二体いた。普通なら、あの規模の魔物が群れを率いててもおかしくない。けど、フレアと俺で二体とも倒した後も、ほかの魔物は構わず村に向かってきた」
「少なくとも、あの二体に従ってたわけじゃねえってことか」
ガイルが腕組みして考え込んでいると、ロイドが口を開いた。
「フレアとケインが容易く倒してしまったが並みのAランクなら、かなり手こずったはずだ。それが二体まとめて、ほかの雑魚と同じように鉱山から出てきた」
私たちは顔を見合わせる。
「廃鉱山を調べるしかないんじゃないかしら」
私の言葉に全員が静かに頷いた。
「それなら」
ザックがケインをまっすぐ見つめる。
「俺たちで行きましょう、ケインさん」
しかし、ケインは首を振った。
「いや、俺たちが優先するべきは村の防衛だ。廃鉱山の調査に人手を割くわけにはいかない」
「っ!すみません……」
ケインがザックの肩に手を置く。
ケインたちが調査に向かえば、中央支部の四人が村を離れることになる。
今の状況で、それはさすがに厳しい。
……でも、ザックが焦るのもわかる。
「ギルドからの応援が来るまで、俺たちは防衛に専念するべきだな」
そのとき、ガイルの持つ通信魔道具が音を立てた。
「お、ギルドからだな」
ガイルが通信魔道具を取り出す。
「俺がギルド長と話しとくから、お前らは休んどけ」
そう言い残して、倉庫を出ていった。
私も外に出る。
……廃鉱山に何があるのかしら。
魔力探知を使おうとして、途中でやめた。
余計なことに魔力を使ってる場合じゃない。
少しそこら辺を歩いて倉庫に戻った。
今は、おとなしく休むことにしよう。
その後しばらくして、ガイルが戻ってきた。
その顔は険しかった。
「……まずいことになった」
私たちの視線がガイルに集まる。
「このままじゃ、応援が来るまで村を守り切れねえかもしれない」




