14
草原の真ん中で焚火が揺れている。夜風に揺れる炎は小さく、周囲には虫の声しか聞こえない。見上げれば満点の星空だった。王都では見られないほどの星々が、静かに夜空を埋め尽くしている。
遠出して受けた依頼の帰り、私は草原で野営をしていた。
依頼は何事もなく終わった。移動も順調。明日の昼には王都につくだろう。
何の問題もない。一人、静かな夜だ。
ぱちり。焚火の薪が小さく爆ぜる。私は火に薪を一本放り込んだ。炎が少しだけ大きくなる。
それをぼんやり眺めながら息を吐いた。
「……静かね」
誰に聞かせるでもなく呟く。王都に来てからは、こんな夜は久しぶりだった。
王都に来てからは騒がしい日ばかり。ガイルが騒いで。ルークが喋って。セリアが心配して。レオが懐いて。
なのに。こうして一人になると。妙に胸の奥が落ち着かない。
風が吹く。炎が揺れる。
ふと。
今ごろ何をしているのかしら。
そんな考えが浮かんだ。
暇なせいで、つい昔のことを思い出してしまう。
二人と出会った日のことを。
きっとあの二人は特別なことをしたつもりはないんでしょうけど。
私の大切な思い出。
幼いころ私は紛れもない天才だった。魔法も勉強も社交も何でもすぐに覚えた。
……だから、家族以外の大人たちは私を特別扱いした。
私の魔法を、力を、頭脳を大切にした。
その貴族たちの子供は私を妬んだ。
まあ当然よね。家のために私を取り込もうとするのは。
私が五歳になったころ、どこかのパーティーで上級魔法を披露した。
貴族として、家の繁栄のために天才であることを隠そうとは思わなかった。
大げさな賞賛もその奥にある畏怖も、もうどうでもよかった。
そんな中、一人だけ妙な男の子がいた。
「わあぁ!すごいなあ!」
その子は何の翳りもないまっすぐな歓声を上げると、顔がぶつかりそうなほど走り寄ってきた。
「ふん、当然でしょう」
「かっこいい……!俺も君みたいに頑張って魔法覚える!」
……そんな言葉初めてだった。
みんな私の才能を褒めた。
でも、私みたいになりたいと言った子は初めてだった。
「無理よ。私は天才だからできるの」
「じゃあ、いっぱい頑張る!」
そのちぐはぐな返しに私はなんだか気が抜けてしまった
「名前、フレアだよな?俺はリチャード!よろしく!」
「ええ、よろしく」
「庭にきれいな花があったんだ!一緒にみよう!」
手を握ったままリチャードは元気よく歩き出した。
「ほら、ここ!きれいだろ?」
「……いい場所ね」
「あ、誰かいる。こんにちは!」
「ん?こんにちは」
そこにはおっとりとほほ笑む少女がいた。
「俺、リチャード!」
「私はエルセ。よろしくね。あれ?あなた、フレアちゃんね!可愛い!」
私に気づいた途端、エルセが抱き着いた
「急に何するのよ!」
「あ、ごめんなさい。ずっとお話してみたかったから。いっつも堂々としてて憧れてたの」
「じゃあ、あっちのテラス行こうよ!俺ももっと二人と話したいな!な、フレア?」
「ええ、いいわね!行きましょう、フレアちゃん!」
気づけば二人に手を引かれていた。
それが私のかけがえのない日常の始まりだった。
ぱちり。
焚火の薪がまた爆ぜた。
あの日から本当にリチャードは魔法の練習しだしたのよね
無理だって言ったのに。
つまずいても、あいつはいつも前を向いてた。
そしたら、エルセがすぐに心配して駆け寄ってくれて。
平気なのに、私まで一緒に休まされた。
リチャードのせいで、私までエルセに怒られたのよね。まったく。
……懐かしいわ。
そういえば、私とリチャードが婚約したときは、私がエルセに怒ったのよね。
エルセが距離を置こうとしたから。寂しいくせに笑うから。
だから、私は決めた。三人が心から笑顔になれる未来しか認めないって。
……その時に「リチャードのことなんて手のかかる親友としか思ってない!」って言っちゃったのよね。
本当に変なところだけ真に受けるんだから。
あいつらももうすぐ結婚するでしょうし。
その時は帰って盛大に祝ってやりましょう!
……それで、全部おわり。
また三人で笑えるわ。
薪を足そうとしたその時、一陣の風が吹いて焚火が消えた。
真っ暗な草原に星だけが輝いている。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
私はテントに戻ると静かに横になった。
王都に戻ったら何をしようか。
そんなことを考えながら眠りについた。




