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「フレアさん、行ってらっしゃーい!またお待ちしてまーす!」

後ろからルークの元気な声が聞こえてくる。私は軽く手を振って、いつもの街並みを気ままに歩き始めた。

夏真っ盛りの昼、グスタフに煩く注意された私は今日は依頼を休んでいる。鍛冶屋を出て少し歩いたところでため息をついた。

……暇ね。

買い物も済ませたし武器のメンテナンスも頼んだ。 ルークとの相手をしてたら、それなりに時間は経ってたけど、それでもまだ昼だ。時間が有り余ってる。

何をしようか悩みながら歩いていると、いつの間にか見慣れた建物の前に立っていた。

「……つい、ギルド来ちゃったわね」

無意識にここまで来てしまったことに我ながら呆れる。まあ暇だし、とりあえず中に入りましょうか。

「いらっしゃいませ。ギルドへようこそ」

掲示板の前にいたセリアがよく通る声で挨拶をしながら振り向く。

目が合った。その瞬間、セリアの顔が普段の受付嬢の笑顔からジト目に変わった。

「フレアさん、今日は依頼受け付けませんよ?」

「わかってるわよ!たまたま寄っただけよ!」

慌てて言い返す私を見て、セリアは依頼書を貼りながら静かに笑う。

「ふふ、外は暑いですからね。依頼はだめですけど、ゆっくりしていってください。あっちで冷たいものでもいかがですか?」

確かに外は太陽が照り付けてかなり暑かった。セリアに促され、私は酒場の方に向かう。そこには、酒を飲んで盛り上がっているガイルたちがいた。ジュースを注文して近づいていく。

「あんたら、何で昼間から酒飲んでるのよ……」

ガイルは、私の呆れた表情を気にも留めず豪快に笑う。

「よう、フレア!三日間遠征行ってて、今帰ってきたばっかなんだよ!依頼終わりと言えば、これだろ!」

ガイルがいっぱいに注がれたビールを一気に飲み干した。

「遠征ね……」

私はテーブルの横に積まれた荷物を見る。大きな背嚢がいくつも並び、その横には縄や水袋、保存食らしき袋まで置かれていた。

「ずいぶん荷物が多いのね」

「当たり前だろ。三日四日帰れねえことなんて珍しくねえんだぞ。食い物も水も寝床も自分で用意しなきゃならねえ」

そういって荷物の中身を引っ張り出して説明してくれる。

いくつか道具を取り出した後、ガイルが急に神妙な顔をした。

「特に火打石は絶対持っとけよ……」

私の顔をじっと見る。

と思ったら次の瞬間にはへらへら笑いだした。

「フレアが魔法で火起こそうなんてしたらテントごと燃えちまうからな!」

私は指先に火を灯す。指を振る。ガイルの雑に整えた短髪が燃えた。

じゅっ。

「うぉぉ!俺のカッコいい髪がぁーー!!」

「あら、ごめんなさい。私、魔力操作が苦手だから」

毛先が焦げて嘆くガイルと、それを見て笑う仲間たち。

騒がしいギルドを後にして私は街に戻った。

……まったく、ガイルが余計なこと言うせいで必要なもの聞きそびれちゃったじゃない。

とりあえず、冒険者向けの店が並ぶ通りまでやってきたが何を買えばいいかわからない。

保存食?水袋?火打石?他は何だったかしら。

私が腕を組んで悩んでいると、聞き覚えのある軽薄な声がした。

「やあ、爆炎姫。また会ったね」

振り返らなくてもわかる。

「次、そのダサい名前で呼んだら燃やすわよ。私の名前はフレアよ。ちゃんと覚えなさい、アルジャン」

隣に立ったアルジャンを睨みながらそう言うと、アルジャンは一瞬目を丸くした後、ほほ笑んだ。

「俺の名前、知ってくれてたんだ。うれしいよ」

「別に。噂好きの子がうるさかっただけよ」

少しだけ、この前見た怪しい笑顔じゃなく、純粋に笑ってるように見えた。

そのせいで調子が狂ってしまう。

「遠征の準備かい?」

「……なんでわかったのよ」

「ははっ。そんなところにずっと立ってたら誰だってわかるさ」

図星だった。店の前で腕を組んでいた自分を思い出し、私は視線を逸らす。

「おすすめの店を知ってるんだ。良ければ案内しましょうか、姫?」

そう言って軽薄そうな笑顔を浮かべる。

……怪しい。突然現れて、手伝いを申し出るなんてどういうつもりかしら。

アルジャンをじっと見つめる。けれど、笑顔を浮かべたままで何を考えてるかわからない。

……はあ、どうしようか。まあ、悪い奴ではなさそうだし。

私はあきらめて、アルジャンを頼ることにした。

「じゃあ案内して。それとフレアって呼べって言ったでしょ」

「姫ならいいじゃないか。俺は可愛い女の子はこう呼ぶことにしてるんだ」

キザなことをいいながら、アルジャンがうやうやしく手を差し出す。私はそれを無視して歩き出した。

「ああ、待ってくれよ」

慌てたような声が後ろから聞こえる。

「先に行ってどうするのさ」

「うるさいわね。案内するんだったら、さっさと前を歩きなさい」

私は振り返りもせず手を振った。小走りで追いついたアルジャンが先を行く。にこにこと笑いかけるのを適当に相手しながら十分ほど歩いた。普段あまり来ない通りへ入ったところで、アルジャンが立ち止まる。

「ここが俺の行きつけの店」

そう言って指さした方を振り向く。

……なんか思ったより普通ね。

二階建ての石造りの店だった。派手な装飾もなければ、高級そうな雰囲気もない。

けれど、よく見ると壁や扉はきれいに手入れされてるし、看板も長年使われてきた風格がある。

なるほど。老舗って感じね。

「大体のものはここで揃うぞ。さあ、入ろうか」

アルジャンが扉を開ける。チリンとベルの音が鳴った。中には野営に必要な道具が何十種類と並んでいる。

ロープやランタン、水袋はわかる。けど、これは何かしら?

所狭しと並ぶ品々を眺める。何に使うかわからない道具もいろいろある。

面倒ね。とりあえず適当に買って、空間魔術に詰め込もうかしら。

私は考えるのをやめた。そして、手近な棚から順に籠へ放り込み始める。

「……あの、姫?なにしてんの?」

振り返るとアルジャンの笑顔がひきつっていた。

「ん?なに?」

「なにじゃないよ。そんなの買ってどうする気だよ」

「使い方は後で勉強するからいいのよ」

次々籠に入れていると、ため息をついてアルジャンが籠をさっと奪った。

「ちょっと何すんのよ!」

「いや、ここら辺は遠征にいらないから。ほら、俺が選んでやるからちゃんと見ててよ」

アルジャンは商品をてきぱきと棚に戻していく。そして、いくつかの道具を手に取って用途を説明する。その顔は妙に真剣だった。

「あんた、意外と真面目ね」

「っ!?姫が世間知らず過ぎるんだよ!」

アルジャンが本気で驚いたように目を見開いた。

しかし軽く咳払いをすると、次の瞬間にはまた軽薄な笑みを浮かべた。

「こんな状態で野営なんて心配だよ。俺がついて行って守ってあげようか?」

……なんか面倒なやつね

「はいはい、さっさと説明してちょうだい」

私は軽口を聞き流して、説明に耳を傾ける。

そうして数十分、店の中をめぐって一通り必要なものを買うことができた。

お金を払って店を出ると、だいぶ陽が傾きかけていた。

「おかげで助かったわ。ありがとう、アルジャン」

「姫のお役に立てて何よりです」

キザったらしくお辞儀をするアルジャンに私は呆れた目を向ける。

最後まで胡散臭いわね。まあ、悪い奴じゃないけど。

これだけ突き合わせておいて何もなしっていうのも気分が悪いわね。

「お礼したいから、ご飯でもどう?奢るわよ」

近くの店を見回しながら聞く。けれど、返事がない。

気になってアルジャンの方を向くと、あっけにとられたように口を開けていた。

変なこと言ったかしら?

そう思って口を開こうとしたら、アルジャンが急に笑い出した。

「あははっ。まさか、女の子から誘われるなんて。それも奢りって。……っ、くくっ……」

「ちょっと!人がせっかくお礼したいって言ってんのに何笑ってんのよ!」

「ごめんごめん、お前って変なやつだなって思ってね」

アルジャンはひとしきり楽しそうに笑ったあと、残念そうに首を振った。

「姫の提案は嬉しいけどこの後少し用事があってね。よければ後日食事に行かないか?」

「あら、長々つき合わせちゃって悪かったわね。ご飯は今度にしましょう」

アルジャンはにこっと笑う。夕焼けに照らされてるせいだろうか。さっきまでの軽薄そうな雰囲気は不思議と感じなかった。

「ありがとう。楽しみにしてるよ。それじゃあまた、遠征気をつけなよ」

それだけ言って、アルジャンは帰っていた。私はその背中を見送る。

……あいつ、普段からあんな風に笑えばいいのに。

まあいいか。日も暮れ始めたし宿に帰りましょう。

私は手に持った荷物を確認する。初めて手にするものばかりだ。

明日は依頼の確認をし遠征の計画を立てないと。

やることを頭の中で整理しながら、私は宿への道を歩いた。


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