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9と10話をまとめて9話に

11と12話をまとめて10話に修正しました

旧13話です

朝、いつにも増してにぎわうギルド。冒険者たちの熱気で、室内はむっとするほど蒸し暑い。夏前のこの時期、冒険者にとって一番の稼ぎ時らしい。やる気に満ちるベテランたちに混じって、真新しい装備を背負った少年たちもちらほら見える。まだ傷一つない革鎧が、なんだか眩しかった。私は酒場の椅子に腰を下ろし、掲示板の混雑が落ち着くのを待った。ふと受付の方を見ると、ギルド長のグスタフが奥から出てきた。周囲を見渡した後、目が合ってこっちに向かってくる。

「よう、フレア」

「おはよ、グスタフ。私に用?」

朝からなんだか疲れているグスタフに声を掛けられる。

「ああ、実はお前さんに中央ギルドの方から声がかかってるんだ」

「中央?」

何のことかわからず首をかしげる。グスタフはちらりと周囲を見た。

「もっと上に行きたいってやつは中央に行くのがおすすめなんだ。ここは堅実な依頼が多いが、あっちには比較的危険な依頼が集まっている。フレアは短期間でAランクに上がった期待株だからな。中央でSランクを目指さないかって話だ」

グスタフの表情を見るに、実力を認められている、ということなんでしょうね。けれど、私はかたをすくめた。

「んー、興味ないわね。ランクなんてどうでもいいし、危険な依頼ばっかりなのも疲れそうだもの」

私はちらっと視線を外し、ばか騒ぎする冒険者たちを見る。

ニーナの騒がしい声。

酔っ払いの笑い声。

朝から怒鳴ってるガイル。

「……ここも悪くないもの」

「そうか」

グスタフは意外そうにするでもなく、頷いた。

「あまり驚かないのね」

私の疑問に少し困ったように笑う。

「まあ、あっちはちょいと殺伐としてるからな。実力があってもこっちに残るやつもいるんだよ。」

グスタフは気が変わったら言えと言い残して、戻っていった。

いつの間にか、ギルドの中は静かになっている。

冒険者たちは依頼を選び終えて、出発したようだ。

……そろそろ、私も依頼を選びましょうか。

掲示板には依頼がまばらに貼ってある。割がいいものはほとんど先に取られて、初心者向けしか残っていない。

毎日討伐っていうのも殺伐としてるし、今日は薬草採取でもしようかしら。

私は依頼書を一枚はがし、受付に持っていく。職員たちが受付の奥で慌ただしく動き回っている。その中で流れるように書類を片付けていたセリアがこっちに気づいた。

相変わらず隙の無い笑顔だった。

「おはようございます。フレアさん」

「おはよう、セリア」

私は依頼書を渡して、すらすらとペンを走らせるセリアを見る。

「薬草採取なんかも真面目に受けていただいてありがたいです」

「別に、それしか余ってなかっただけよ」

セリアは小さく笑うと、何かを思い出したようにペンを止めた。

「実はお願いがあるのですが」

「なに?」

頼み事なんて珍しい。

「先ほど新人の子たちが平原の討伐依頼を受けたんです。フレアさんの依頼の近くなので、時間があれば危なくないか少しだけ見守ってもらえませんか?」

真剣な表情で尋ねてくる。

……ふっ、セリアは相変わらず心配性ね。

私は得意げに笑った。

「仕方ないわね。危なかったら、私が華麗に助けてあげるわ!」

「ふふ、ありがとうございます」

「ただし、甘やかしたりはしないからね」

「ええ、よろしくお願いします」

セリアは小さく頷くと、姿勢を正してこちらを見つめる。

「それでは、これで手続きも完了です。行ってらっしゃいませ、フレアさん」

「行ってくるわ」

私は完璧な笑顔に見送られながら、依頼に向かった。

ギルドを出て大通りをを進む。商人の呼び声や荷馬車の音が響く賑やかな街並みも、今ではすっかり見慣れたものだ。王都の門を抜けると、一気に視界が開けた。青空の下、夏の日差しを受けた草原がどこまでも広がっている。

この時期は暑いけど、嫌いじゃない。

道中、平原を歩いていると地図を広げ話し合っている三人組を見かけた

……あれが、新人か。

剣士、魔法使い、重戦士。バランスは悪くないわね。

少し観察すると、どうやら足跡を頼りに魔物を捜索しているようだ。

剣士が何かを見つけたように駆け出したかと思えば、すぐに慌てて仲間の元へ戻っている。

……ちょっと手間取ってるけど、まあ順調そうね。

三人が歩き出したのを確認しすると、薬草の採取場所に向かった。

―――

街を出て3時間、薬草採取は何事もなく終わった。私は回収した薬草を異空間へ放り込み、大きく伸びをする。陽はまだ高い。草原の真ん中で空を見上げると、雲ひとつない青空がどこまでも広がっていた。

こんな日もたまにはいいわね。

夏らしい爽やかな風を感じながら、ギルドまでの道をのんびり歩いていると、ふと今朝のセリアの言葉を思い出した。

……そういえば、新人の様子を見てほしいって言われていたわね。

大丈夫そうだったけど、一応確認しておきましょうか。

立ち止まって目を瞑り、魔力探知を展開する。

三人の反応はすぐに見つかった。どうやら、ちょうど魔物を発見したばかりのようだ。

魔物は二体。危険はないでしょうけど、一応倒すところまで見ていこうかしらね。

そこまで距離はない。私は魔力探知をしたまま新人の方へ向かった。

歩き始めて数分が経ったころ、私は異変に気付いた。

……おかしいわね。

三人の反応がほとんど動いていないのだ。嫌な予感がして、少しペースを上げると、すぐに姿が見えてきた。茂みの陰から様子を窺う。

三人とも武器は構えている。なのに、誰一人として前に出ない。

剣を握る少年の手は震え、魔法使いの少女は杖を抱きしめるように握っている。

……なるほど。

あの子たち、魔物が怖いんだ。

私は陰に隠れたままどうするべきか悩んだ。 命の危険はなさそうだ。

だけど、このままあの子たちが逃げ帰ったり、無闇に突っ込んでいくのを見守るだけでいいのかしら……

どちらにしても、これは苦い経験になる。それがあの子達の成長に繋がるのか――

答えがでないまま、見守っていると魔物の一匹が剣士に襲いかかった。

剣士は気づいている。なのに動けない。

「っ――」

気づけば、私は風魔法を放っていた。

目の前で風に拘束された魔物を見て、剣士は尻餅をついたまま驚いている。

咄嗟に動いてしまった。これが正解だったかはわからない。けれど、手を出してしまったのは私の落ち度だ。

……仕方ない。

倒してあげるつもりはないけれど、ここまで首を突っ込んだ以上は責任を取るしかないわね。

私は一瞬で陰から飛び出し、三人の前に降り立った。

「えっ!?」

「フ、フレアさん!?」

少年たちは目を丸くして固まっている。

私は剣士の少年に手を差し出した。

「ぼさっとしてないで、武器を構えなさい」

少年が慌ててその手を掴む。

「大丈夫、落ち着いてやれば勝てるわ」

私は自信満々に笑ってやった。三人の緊張も少しは緩んだみたいね。

「倒すのは、あんたたちだからね。ほら、名前!」

「あ、レオです!」

「ミ、ミアです……!」

「……ダン、です」

剣士がレオ、魔法使いがミア、重戦士がダンね。

「よし、覚えたわ」

まずは、態勢を立て直させないと。

「ダン!あなたは盾をしっかり構えて前にでなさい!」

「レオは下がって!」

「ミアは距離をとって敵の動きを見なさい!慌てて攻撃しなくていいわ!」

三人は慌てながらも私の指示通りに動き始める。一応形にはなった。けれど、武器を握る手はまだ震えている。当然だ、魔物への恐怖がそんなに簡単に消えるわけがない。

「……怖い?」

三人は黙る。怒られると思ったのか気まずそうに視線を下げる。

そんな三人に一歩近づいて、胸を張る。

「ええ、それが普通よ。怖いなら怖いでいい」

「でも、冒険者になったんでしょ?私が見てるんだから、そう簡単には死なないわ。力を抜いて、まずはよく見なさい」

三人はまっすぐ顔を上げる。魔物から視線をそらさない。

「拘束を解いたらダンが一匹を引き付けなさい。その間にレオはもう一匹を仕留める」

「ミア、あなたはダンかレオが危なくなったら魔法を撃ちなさい。難しいと思うけど自分で状況を判断するの」

三人が武器を構える。

「ダン、もう少し腰を落としなさい。それじゃあ、衝撃に耐えられないわ。」

「レオは視野を広く、魔物の全体を見なさい。敵の動きを予想して隙をつくのよ」

レオとダンが小さくうなずいた。

「じゃあ、いくわよ。死なせはしないわ。」

「だから、やりなさい」

拘束を解く。

魔物はすぐさま襲い掛かった。ダンが盾を構えて受け止める。

「……くっ!」

危ない。一瞬体勢が崩れたけど、なんとか踏みとどまった。

その横で、レオがもう一匹を引き付ける。

ちゃんと周りが見えているわね。焦るんじゃないわよ。

じりじりと間合いを詰め、魔物が飛びかかるが、レオはそれを躱し脚に一撃入れる。

ミアは魔力を練りながら二人を見続けている。まだ撃たない。

……うん、それでいい。

ダンがとうとう押し負けてしまい後ろに倒れた。

まずい――

そう思った瞬間、火球が魔物の横腹に直撃する。それはミアの魔法だった。

魔物が大きくよろめく。そのまま地面を転がり、動かなくなった。

レオの方に視線を移すと、そっちも決着が近いようだった。興奮した魔物が大きく飛びかかる。

……来る!

レオは、一瞬ひるんだ。でも、歯を食いしばって一歩横へ踏み出した。

爪が頬をかすめる。それでも剣を離さない。

そして、レオの振り抜いた剣が魔物の喉元を切り裂いた。

致命傷を受けた魔物は地面に崩れ落ちた。

崩れていく二匹の魔物を見つめてなんだか口元が緩んでしまう。

私は慌てて咳払いを一つして表情を引き締めると、不敵に笑って三人を見る。

「ほら、できたじゃない」


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