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幕間

柔らかな日差しが差し込む暖かな書庫。

俺は窓際に置かれた木製の椅子に腰掛け、少し古びた本を読みながらエルセを待っていた。

テーブルの端には昨日届いたフレアの手紙。

……いや、正確には半分だけ隠しておいてある。

あいつの手紙を見た時のエルセの反応がなんとなく見たくなったのだ。

廊下から、軽やかな足音が近づいてきて、ほどなくして、書庫の扉が開いた。

「こんにちは、リチャード。」

「やあ、エルセ。わざわざ、王都から来てくれてありがとう。」

向かいの席を勧め、俺はティーポットを手に取り琥珀色の紅茶を静かにカップへ注いでいく。

湯気と一緒に、紅茶の落ち着いた香りが広がる。

砂糖瓶をエルセの近くに寄せながら手紙を見てふと笑ってしまう。

エルセが不思議そうにこちらを見ていた。

「なんだか楽しそうね、いいことでもあったの?」

「ん?ま、ちょっとな」

そう言いながらわざと手紙を隠すみたいにカップを置く。

「……あれ?」

テーブルの端から覗く封筒に、エルセの視線が止まった。

次の瞬間、ぱっと顔が明るくなる。

「フレアちゃんから!?」

その顔が見たかった

……なんて言ったら、きっと笑われるだろうな

「昨日の夜、会合でフレアのお父さんと会ってね。フレアから手紙が届いたらしくて、俺たちの分を渡してくれたんだ。」

俺は思わず笑いながら、封筒の表を指でなぞる。

『二人分書くの面倒だから、一緒に読みなさい!』

相変わらず、フレアらしい字だった。

「ほんと、フレアちゃんらしいね」

さっそく読もうとワクワクした様子のエルセに対して、俺は手紙と椅子を交互に見ていた。

「えっと、このままじゃ見難いし、椅子、横に並べてもいいか?」

なんとなく恥ずかしくて声が小さくなってしまう。

「え、ええ、そうね!その方が見やすいわ!」

エルセが紅茶を一口飲む。いつもより少し動きがぎこちない気がしたけど、たぶん気のせいだろう。

俺たちは立ち上がると、二人で椅子と食器を動かし始めた。

......近すぎたか?いや、でも今さら動かすのも変か……

カチャと、ティーカップを置く音がやけに響く。

椅子を横に並べて座った瞬間、隣からふわりと甘い香りがした。

そういえば。こうして、エルセと肩を並べるのは初めてかもしれないな。

そのせいだろうか、なんだかそわそわする。フレアがいないことに、まだ慣れていないのだろうか。

俺は落ち着かない空気を変えるように手紙を開けた。


『2人とも元気!?私は元気よ!

あの後、王都で冒険者登録をして、初めての依頼も達成したわ。

順調すぎて、正直ちょっと退屈なくらいよ!魔物なんて天才な私の足元にも及ばないわ。

だから、くれぐれも心配なんてするんじゃないわよ! そんな暇あったら、あんたたちも勉強やら訓練やら頑張りなさい!

それじゃあ、また気が向いたら連絡するから。

二人とも、元気でいなさいよね。』


手紙を読み終えて、窓から差し込む柔らかな日差しがフレアの力強い字を静かに照らしている。

――ああ、やっぱり、俺の親友はかっこいい。

一人で家を飛び出してまっすぐに夢にむかって進むなんて俺だったらできないだろうな。

あいつは努力家だからすぐ有名になるだろうし、俺もあいつに負けていられないな

「ふふ、相変わらずフレアちゃんは元気ね」

「もう依頼も達成したなんてすごいよな」

二人で笑いあう。

さっきまで気になっていた肩の近さも、いつの間にか不思議と気にならなくなっていた。

ふと、もう一度手紙を見ていたエルセが何かに気づいたような顔をした

「でも、ちょっとだけフレアちゃんも寂しいのかも…

お菓子作って届けてあげようかしら」

「あいつは、エルセのお菓子大好きだからな。きっと喜ぶよ」

俺も何か送ろうかと考えながら、手紙と一緒にもらった包みに目を落とした。

開けて取り出してみると焼き菓子のようだ。それに、まだ底の方にも小さな布袋がある。

手のひらに収まる程度の袋。なのに、中身だけ妙にずっしりしている。

これ、なんだ……?

「あ、もう一枚手紙がはいってるわ」

『王都で流行りのお菓子見つけたから2人で食べなさい。

それと、初依頼でたんまり稼いだからちょっとだけ』

『慰謝料も送っとく』

「……慰謝料?」

エルセが小さくつぶやく。

中には金貨が10枚。

「ちょっとだけって、初依頼でそんなに稼げるのか……?」

多すぎるお金に戸惑いつつ何か他にも書いてないかと、もう一度手紙に目をやると、下の方に一言だけ書いてあった。

『派手な結婚式楽しみにしてるわ!』

――二人そろって、言葉を失った。

暖かな書庫なのに妙に静かだった。

「けっ、結婚式…」

思わず、エルセと顔を見合わせた。

この金を使えってことか……

今日、エルセを呼んだ理由は、まさにその話をするためだった。

「……」

誰も次の言葉を口にできない。

暖かな書庫なのに、妙に鼓動だけがうるさい。

しばらく沈黙が続いた後、俺は観念して大きく深呼吸をした。

それから、まっすぐエルセを見つめた。

「エルセ、本当に俺でいいのか?」

あいつに胸を張れるくらい立派な領主になりたい。

でも、エルセの優しさに甘えてしまうのがずっと怖かった。

でも、 エルセはそんな俺の不安を見透かしたようにふわりと笑った。

「当然よ、リチャード。私があなたを支えたいの。 2人でここを豊かにしてフレアちゃんをびっくりさせましょう!」

エルセの瞳は力強くてきらきらと輝いて見えた。

……ほんと、敵わないな。

「ははっ、そうだな!2人であいつを驚かせてやろう。」

見つめあってほほ笑んだ後、婚約の手続きをするために俺たちは肩を並べて書庫を出た。

大切な親友2人に負けないように。俺も、胸を張って前に進もうと思った。

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