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9/17

ギルド併設の酒場は、夜になると昼以上に騒がしかった。酒の匂い。木製のジョッキがぶつかる音。あちこちから飛び交う笑い声。そんな喧騒から少し離れたカウンターで、私はセリアと並んで座っていた。ここだけ別の空気みたいだった。

グラスに残った氷を見つめながらセリアが切り出した。

「昔、男の子がギルドに来たんです。きらきらした目で冒険者になりたいんだって。いつも血だらけで帰ってきて、それでも『大丈夫でした』って笑うんです。依頼を達成したことを嬉しそうに報告してくれて。だから、余計に止められなかったんです…。」

「私たちは送り出すしかないんです。どれだけ心配でも助けてあげられない。信じて待つしかない。」

「…それってつらいんですよ?」

最後だけセリアは寂しそうに笑った。

カラン、と。グラスの中で氷が小さく音を立てる。

何と言えばいいかわからなくて、私はなんとなく視線を落とした。

「...次からはちゃんと依頼通りにする」

「はい、それと油断もしないでくださいね」

「わかってるわよ…」

そんな顔されたら、無茶なんてできるわけないじゃない

...たぶん。

「おーい!そろそろ、話し終わったか!早くこっち来てくれよ、男ばっかでむさくるしいんだわ!」

振り返ると、短髪の大男がビールを持って立っていた。

しんみりした空気をぶち壊すように豪快に笑っている

...誰よ、あいつ。今セリアと話してたんだからちょっとは空気読みなさいよ!

「ああ、俺はガイルだ!よろしくな。そんなことより、ほら一緒に飲もうぜ!」

「ちょっ、引っ張んないでよ!」

引っ張られた先には、グスタフやほかの冒険者たちがいて、全員顔が赤くなっていた。

酔っぱらいの相手なんて面倒なんだけど…

「よし、セリアさんとフレアも揃ったしとりあえず自己紹介でもしとくか。さっきも言ったが、俺はガイル、大剣使いだ。よろしくな。はい、次!」

「えっと、俺は――」

「おい待て、お前その前に金返せ!」

「うるせえな!ちゃんと返すって言ってるだろ!」

「三ヶ月前から聞いてるぞそれ!」

テーブルのあちこちから笑い声が上がる。

その後も、弓使いだの、斥候だの、魔物に尻をかじられただの、好き勝手な自己紹介が続いていった。

……なんなのよ、この騒がしい集団。

私はグラスに入ったジュースをちびちび飲みながらうんざりして眺めていた。

「ほらフレア、飲め飲め!」

「ガイルさん、フレアさん未成年です」

お酒を勧めてくるガイルをセリアが冷静に止めてくれる。やっぱり、こういうのに慣れてるのかしら。

「まあまあ、細けえことはいいじゃねえか!」

「よくないわよ!」

そんなことはお構いなしに勧めてくるガイルに我慢できずに突っ込んでしまう。

まったく、とんでもない奴らね

テーブルの向こうではもう誰かが酒をこぼして騒いでいる。

「おい、フレア、今いいか?」

「どうしたの?」

受付に行っていたグスタフが戻ってきた。

「今ちょうど、鑑定が終わってな。変異種なんて珍しいから鑑定士の奴が興奮して今日中に終わらせちまった。せっかくの初依頼だ、今日中に渡した方がいいだろ?」

「ふん、初依頼かどうかなんて気にしないわよ。まあでも、せっかくだし、今くれる?」

グスタフが、机に並んだ酒や皿を乱暴にどけて、革袋を置いた。

ジャラ、と。重たい音が鳴る。

さっきまでバカ騒ぎしていた冒険者たちの視線が一斉に袋へ集まる。

「まず、薬草採取が銀貨3枚。異変調査の報酬が金貨2枚。」

酒を飲むのも止めて話を聞いていた冒険者たちがざわついた。

新人にしてはかなり多いらしい。

グスタフがにやっと笑って続けた。

「そして、変異種討伐報酬が金貨3枚、魔石の価値も金貨3枚。

合計でなんと金貨10枚だ!」

周りの冒険者が一気に盛り上がる。

「ねえ、セリア。これってそんなに多いのかしら。」

「多いですよ!ベテランの方でも一日でこんなに稼ぐのはまれなんですから」

「そっか」

それなら、ちょうどいいわね

……うん。

「すげえ、新人が入ってきたもんだぜ。」

「そういや、なんで冒険者になろうと思ったんだ?」

冒険者の一人がそんな質問をしてきたので、報酬をバッグにしまいながら、適当に答えようとして――

「どうせ、失恋だろ!」

―手が止まった。

何人かが、「あっ」みたいな顔をした気がする。

「おまっ、馬鹿野郎、ガイル!」

ガイルを睨むとなんもわかってない顔で豪快に笑っている。

こいつは、ほんっとに...!

「ばっかじゃないの!?私がそんな女々しいわけないでしょ!

そもそも、あいつは親友で、そういうのじゃないんだから!」

大声で怒鳴る私に全員が注目していた。

あいつって?とか聞いてくるガイルを無視して、私は余ってるご飯を手当たり次第におなかに詰め込んだ。

ふん、あいつは親友なのよ!

そろそろ、寂しがってるだろうし、さっさと帰って手紙書いてあげないとね!

私は他の奴らの顔なんか見ずに一目散に宿へ走った。

後ろから、爆笑する声が聞こえてくる。

……ほんっと、最悪!


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