31.帰り道のハプニングですわ
冒険者ギルドではほかにも魔道具製作に役立ちそうな素材を見せてもらいました。
そうして満足した帰りに事件は起きました。
下町は主に平民の皆様が暮らす街。
教育、文化、環境の違い……。
そのようなことを知ることになるのです。
「おぉじょうちゃんたちたのしそうだねえ」
下町から貴族街へ帰る道中、ふにゃふにゃのろれつのおじさんがふらふらと寄ってきて声をかけてきたのです。
体格が良い中年の男性ですが千鳥足。顔色を見ても酔っぱらっているのでしょう。
即座にハナと、輝石さんのおつきの方が前に出ます。
これが知り合いならそっちもご機嫌そうですねとでも返すのですが、あいにく知らないおじさんです。
こちらの見たおじさんは不満げな顔になりました。
「おぉん? 連れねぇなあ。おじさんは悲しいんだ。それなのによぉ」
「行こう」
輝石部長がこの場を離れる判断を示しました。
酔っ払いにはかかわらない方が良いというのは同意です。介助が必要だとしても、わたくしたちより相応しい方がいるでしょう。
人目がない場所ではなく、実際にこちらをうかがっている方も周囲にいます。
「なんだァお前ら偉そうに! わかってるのか!」
支離滅裂ですね。
わたくしたちが立ち去ろうとしたところ。
おじさんは両手を挙げてこちらに駆け寄るか飛び掛かるかのような動きを見せました。
なので――。
「待った待った! そこまで! それ以上はいけない!」
動こうとした瞬間に、別のおじさんが、はじめのおじさんとわたくしたちの間に入り、おじさんに抱き着くようにして動きを抑えたのです。
「すまないお嬢さんがた、行ってくれ。代わりに謝る。こいつは今日とてもつらいことがあったんだ。見逃してやってもらえないか」
魔物素材で固めた戦闘も視野に入った服装の新しいおじさんがそう言うので、わたくしたちはその場を失礼して立ち去りました。おしまい。
「見えましたか?」
「申し訳ありません、あの方が間に現れるまで全く気付きませんでした」
「自分も警戒していたのに……」
「わたくしもですわ。とんでもない速さでしたわね」
「それほどだったか」
正直なところ、酔っ払いおじさんはどうにでもなりました。
「あれは貴族の学園の制服だ! 貴族の女は加減もしないし手段も選ばないって知っているだろう! 絡む相手が悪すぎる!」
と、遠くで酔っ払いおじさんを叱っている速いおじさんの言葉の通りです。
聞こえるように言っているのか?
いいえ、風魔法による情報収集をしているのです。普通ならこちらに聞こえない程度の声量です。
そして、言葉の通りではないですね。
わたくしはちゃんと加減して、風でおじさんの動きを止める程度に抑えるつもりでした。一挙動でできるのはそのくらいですしね。
その間にハナが花魔法で拘束するのがわたくしたちの連携です。
輝石部長の所と風羽さんがどう動こうとしていたかはさておき。
話を聞いていると、どうやら酔っ払いおじさんは冒険者で、つい最近仲間をなくしてしまったのだそうです。
それで飲んだくれて酔っぱらって、楽しそうに歩いているやべー女子に絡んでしまったようでした。
速いおじさんはその様子に気づいて慌てて割り込んだという状況らしいですね。
わたくしと風羽さんの警戒範囲の外から飛び込んできたわけです。
ちょっと常識を超えていますね。
「貴族出身の冒険者なのかもしれないね」
聞いた話を共有すると、輝石部長がそう言いました。
「やはり冒険者は命懸けなのですね」
「加減を知らないと思われているのは遺憾です」
淑女は荒事に関しては身を守ること、仲間を守ることが優先です。
それは自分たちが最後の一線を守るものであるからです。
前線である殿方に頼れない状況に追い込まれている前提で護身を仕込まれている以上、多少の過剰防衛は織り込み済みという面は確かにあります。
しかしどれくらいで無力化できるかなども学びますので、そんな見境なしに暴れたりはしません。
「とはいえ、あんな動きをする方がいるのなら、いまよりも無力化の見積もりを大きくしなければいけませんね」
「私達への攻撃だったら被害が出ていたね」
酔っ払いおじさんをかばう動きでなかったら、今頃こんなにのんびり歩いていないでしょう。
「私の提案で危ない目に合わせた。すまないね」
「いえ、あれは不可抗力ですわ。あえて言うなら護衛をもっとつけるべきだったかというくらいです」
「そうですよ部長。気の毒な方でしたが、止める方もいたわけですし」
下町について、考えを改めるきっかけにはなりました。
「次はお兄様についてきてもらいましょう」
「それはそれで問題がありそうだが……まあそう言ってくれるならありがたい。反省は生かそう」
「はい」
その後、無事貴族街まで帰り着き、冒険者ギルド訪問というイベントは終わりを迎えたのでした。
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