30.魔物素材ですわ
「魔物素材が欲しいということだったね。物質媒体かな? 風属性なら、ちょうど風乗鳥の羽が入っているよ」
「あら、それは素敵。わたくし扇を作りたかったのです。風羽さんはどう?」
「是非、と言いたいところですが、お値段次第ですねえ」
物質媒体というのは魔法の発動を補助するもので、三大媒体の一つです。
残りは声と動作ですね。
これらの組み合わせで魔法を発動させることが多いです。
ただ、物質媒体と一言で言っても幅広く。
有名なところでいえば杖でしょうか。
これは消耗品ではなく、全般的に魔法の講師を補助してくれる道具です。魔道具の一種とも言えるでしょう。
ただ、形状が杖ではない類似の機能の物もありますから、流派によって発動体だとか焦点具だとか様々に呼ばれています。
他に汎用的なものを挙げると、結界の物質媒体としては宝石が使われます。
強固な構造が結界の構築を助けるようなイメージです。
結界を解除すると宝石も消えるので高コストですね。
輝石部長の輝石家はこの宝石を利権として押さえている家ですので非常に重要な家なのです。
他にはファイアーボールの魔法を使う時、火属性家秘伝の可燃物の塊を投擲したりもします。
わたくしとしては、あれは火薬の類ではないかと疑っているのですが、使っている時といない時では雲泥の差。
威力が上がるか、あるいは詠唱を大きく縮めるか。
属性魔法の物質媒体は属性に沿ったものが適正とされています。
風属性の強い鳥の羽根などは、まさに風属性向けの媒体と言えるでしょう。
実のところ、風属性向けの媒体というものが意外と多くありません。
風自体が実体がありませんので。
空気を媒体とするというのは当たり前にやっていますから。それ以外となると。
ですので、風乗鳥の羽で作った羽扇などは、風属性淑女なら垂涎の品。おっと、よだれを垂らすのははしたないですね。
羽扇ならば、杖の風属性特化版のような性能の発動体ということになるでしょう。
飛行魔法も上手くなりそうです。
「ではこういうのはどうでしょう。わたくしが羽を買って提供しますので、風羽さんに扇を製作していただくというのは。お揃いにいたしませんか?」
「そんな、それは申し訳ないです」
原材料費を持つので製作を負担してくれというのは調子がよすぎたでしょうか。
いえ、風羽さんの認識は逆ですか。風乗鳥の羽はそれなりの値段でしょう。
取引はつり合いが取れなければ貸し借りが出来てしまいます。
貴族の間では貸し借りは重いのです。
ですが。
「ではこうしましょう。羽扇の改良を依頼いたします。そうですわね、魔道具製作に役立つような工夫を加えてくださいまし。報酬と研究用として一組、経費ですわ」
「魔道具製作に、ですか。わかりました。やってみます」
やった。お友達とおそろいアイテムです。
属性とか家柄とかいろいろあって難しいのですよね。
わたくしこういうちょっとした遊びが大好きなのでとてもうれしい。
ちなみに、ハナとは色違いのヘアピンをお揃いにしています。
うふふ。
ということで、風乗鳥の羽二組分、いただきました。
輝石のおじさまはまぶしいものを見るような表情をしておりましたが、購入が決まると嬉しそうに笑いました。渋い。
なお、姪の方はわたくしたちを紹介してから勝手知ったる様子でなにやら資料に目を通しています。マイペース。
「と、本題はそちらではなく。今開発している魔道具に使う材料を必要としておりまして」
「ふむ、風属性の素材はねえ……」
目録に目を通している輝石のおじさまには申し訳ないですが、風属性の素材ではないのです。いえ、あったらあったで良いのですが。何なら家で発注しても手に入りますからね。
今回求めているのは、断熱性が高い火属性の素材。熱伝導性が高い火属性の素材。断熱性の高い氷属性の素材。熱伝導性が高い氷属性の素材。霜が付きにくいとなおよろしい。
そんな感じです。
「断熱性に、熱伝導性? 火属性に氷属性か……物質媒体としての評価ならいろいろとあるんだが」
どうやら、断熱性や熱伝導性という視点で素材が求められたことは多くないようです。
首をかしげながら少し待っているように言って、輝石のおじさまは奥の部屋に行って、少ししてからカゴいっぱいに何かを入れて持ってきてくれました。
「これは見本なんですがね。こっちが火ネズミの毛皮。火オオカミの毛皮。火吹きトカゲの皮と、内臓の干物ですな。肉も加工次第で目的に沿うかもしれませんが、現物は今はなく。研究すれば良さそうなものも出てきましょうが、そういった研究者の方の所に行ったほうがよろしいでしょう」
「なるほど、火属性魔物の毛皮ですか」
「毛皮も、革も、防具に使えば火属性の攻撃を防いでくれます。断熱性というやつにあてはまりませんかね」
「試してみる価値はありますわね。毛を布状にしたものはありませんか?」
毛織物やフェルトはこの国で一般的な布素材です。
「うーん、属性付きの布はあつかっていないね。素材として買い取ってもらって専門のところに発注するのがいいかと」
「あら、そうなのですか。確かに扱っているのは素材ですか」
糸車さんを頼るのが良いかもしれません。
魔道具部、頼れる人材が揃っています。
「で、熱伝導性というやつですが、火吹きトカゲの内臓、これはどうですかな。これが火炎袋、胃、腸、心臓に肺。肝はありませんでした」
干物なのでホルモンとも人体模型とも違う様子です。
どちらかというとおつまみゾーンを思い出しますね。あとは自作ソーセージのケーシングなど。
「火炎袋は危なくないのですか?」
「魔力を通すと危ないね。とはいえ、そこらの魔道具よりは安全な状態ですな」
一つ一つ見分しますが、よくわかりません。
熱を通してみなければ……うん?
「氷属性の素材は保存が難しくてね。見本を見せるのも難しいのです。ひとまず、炎属性の素材を使って知見を深めるのはどうかと思いますよ」
確かに魔物素材に関する知見がまだ足りていません。
「新しい使い方を見出してもらえれば、冒険者ギルドとしても助かります」
「わかりました。これと、あとは骨もあれば。風車の王都屋敷までお願いします」
「お買い上げありがとうございます」
そのあと、他の属性の素材なども見学し、見識を広めました。
学園もいいですが、こういった場所も勉強になりますね。
ともあれ、今日から火属性魔物素材の研究です。
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