25.素材ですわ
五メートルを一メートルに圧縮するととても危ないので、三メートルを一メートルに圧縮してみたところ、充分ひどいことになりました。
「このように圧縮した空気は圧縮の程度次第で魔法で対策しないと危険なので、扱いを気を付けなければなりません」
練習場で、魔道具部の皆さまに圧縮解放魔法を見ていただいたのです。
風羽さんが興味を持って自分で実験する前に、対処の仕方をお伝えするためです。
皆様驚いている様子です。
「魔法使いにはこけおどしですが、対処しなければ危ないので、関わる方にこれを理解していただくために証明書をと考えたのですわ」
「こんな簡単に起こせるのでは、確かに事故も起きそうです」
風属性出身の風羽さんはよく理解してくださったようですね。
「で、これを踏まえまして、問題の魔道具についてなのですが」
次は風力式冷熱魔法構造(仮)をご覧いただきます。
この場合気になるのは火属性の焚火さんの反応ですが。
「要するに魔法を少ない魔力消費で、温風や冷風の魔法と同等のことができるということですか」
あまり警戒はしていない様子。
「もっと熱くもできますが、そうすると妨害を受けたときなどに先ほどのような破壊をもたらすことになりますので」
「風は動いてこそという印象がありますから納得ですね。それで、具体的な魔道具化について話を進めましょう」
大丈夫のようです。
もちろん人によって違うかもしれませんが……。
ともあれ、話を魔道具化の構想に移しました。
風力式冷熱魔法構造(仮)、わたくしの認識ではヒートポンプであるわけですが。これは結界で作った箱の中で空気を循環させています。
魔道具化するには、この、結界部分を物理的なものに置き換えたいと考えているところです。
それで消費魔力は一気に下がりますから。
魔法でなければならない部分は、流量と方向を一定にする部分だけ。一定の分子量を流すことで、常に断熱圧縮、断熱膨張を起こすことができ、温度を維持できる。
それが風力式冷熱魔法構造(仮)なのです。
「そういうわけなので、気体を密閉できる箱と循環路と、風もしくは水を通すためのパイプを。継ぎ目も密閉したいですし、それなりの圧力にも耐える必要がありまして。今のところは圧縮土レンガの内部をくりぬく形を考えているのですが、ご意見をいただければと」
圧縮土レンガとは、岩より硬い、地属性魔法で作り出される素材です。
城壁に使われている素材でもあり、頑丈さは折り紙付き。
地属性魔法使いがいれば比較的加工しやすいという利点もあり、また生産も充分な修練を積んだ一流の地属性魔法使いならその場でポン。
なかなか都合のいい素材なのです。
もっとも、魔力消費は大きいでしょう。そうでなければ村にも城壁が出来ているはずです。地属性魔法使いがとんでもなく忙しいとはいえ。忙しいだけ?
「設計図はこれか。箱二つを繋ぐ循環路。それとは別にそれぞれの内部を通過するパイプ。中の空気とは混ざらないようにするわけか。間接的に熱する」
「そうなりますわ」
「よくこんなものを思いつくな。魔法使いの考え方からずいぶん外れているように思う。これがあの風車ということか……」
この国ではあまり物理を追求することはないようですから、風力式揚水機や今回の設計は異質なのでしょう。
それはそれとしても、輝石さんはどこか風車を謎の存在かのように見ているように感じます。
「まずは試作ということで、とりあえずやってみて問題が出れば直していこうかと思っておりますわ」
「それでよいのであれば。穴をあけた箱を二つ用意し、一旦結界でつなぐのはどうかな」
「なるほど、一つずつ置き換えていけば検証も……」
全とっかえした場合、何か問題が起きたとき全部チェックしなければいけません。
しかし、一部のみを交換したなら、確認すべき場所の優先度が付くわけです。変えた場所を重点チェックすればよいわけで。
「さすが輝石さんですわ」
わたくしは素直に尊敬の念を伝えました。
「いやなに。それよりも、城壁について調べたことは?」
「城壁ですか?」
とても頑丈ということが印象に残っています。属性防御魔法もかけられており一種の魔道具でもあります。
という知識をもとに、城壁にも使われる圧縮土レンガを採用することを思いついたのですが。
「城壁に限らず、こちらの屋敷の壁にも使われているね。この練習場の壁もだ。地属性魔法で作られる圧縮土レンガは頑丈で建材として確かによく使われている。少し壁に寄ってみてみよう」
皆でそろって移動します。
「結界がはられていますから、素材を見るのであれば入口から出たところまで移動したほうがいいかもしれません」
「そうだね、ではそうしようか」
ということで練習場から出まして、我が家の壁を観察します。
石造りのようですが、圧縮土レンガです。
表面は石のように加工されています。
天然石は非常に高価で、伯爵家でもなかなか手が出ません。相応の大きさの屋敷を立てる必要もありますので。
「触ってみようか」
輝石さんの言葉に従い、皆で壁を触ります。ペタペタ。
「冷たいですね」「意外とつるつるしている」「しっとりした手触りですわ」「いい腕してます」
大理石なんかと近い触感だと思います。触ると手の熱を持っていかれるような。それでいて触り心地は悪くない。見た目よりざらざらしておらずなめらかです。べたっとした不快感はなく、さらさらとしています。ざらざらしてなくさらさらしている。
表面の光沢もそう言った石に近いでしょう。
「土レンガの弱点として、水が沁み込みやすいことがある」
「え、そうなのですか? ですが」
建材として主流であり、雨の中でも建物を支えています。
「これについては焚火さんが詳しいのだろうが、彼女は詳しく説明するわけにはいかないだろうから、あえて私が説明しよう。土レンガに火属性魔法で加工すると水をはじくようになるのだ。具体的なことは地属性の我々には秘密にされているがね」
輝石さんの言葉で、焚火さんに視線が集まります。
焚火さんは皆の視線を受けて小さくうなずきました。
なんと。
知りませんでした。
やはり知らないことが多い。世界は広いですね。
すると火属性もまた重要なインフラを抱えているということになります。
風属性も負けていられませんね。
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