22.飛行部用の魔道具の件ですわ
翌日。
放課後に魔道具部にやってきました。
「おお、風車さん。ちょうど今から実験しようと思っていたんだ。飛行部の飛び降り現場に行かないか」
今日は飛行部は休みです。
「完成したのですね?」
飛行部用の設置用落下減速魔道具です。
「完成はまだですね」
「一応の仕様で実証実験ですわ」
「皆で見に行くから傘車さんも行きましょう」
「今日は相談があるのですが、それはそれとしてお供しますわ」
「よし、では行こう。そっち持ってくれ」
八畳分ほどの魔法陣が描かれた特殊な布は折りたたんでも結構な重さです。
そして実験用に作った等身大人形も。
部員六名で交代しながらよいしょよいしょと飛び降り現場に運びます。
魔法で運んでもよいのですが、ものが魔道具でまだ保全をかけていないので、偏に干渉しないよう避けるのだそうです。
それにしても飛び降り現場と呼ぶと事件の現場みたいで人聞きがよくないような気がしますね。
さて、現場に行くと、アリアが待っていました。
「待っていたよ! それが問題の魔道具かなっ?」
「そうです、風祭様。あのマットの上に張ってもいいですかな?」
「いいよー」
「ではみんな、四隅を持って張ってくれ。私は人形を持って上がるから」
「私が持って上がるよ。準備が出来たら落とせばいいのよね?」
「ああ、助かります。そのように」
「了解了解」
人一人分の重さの人形を持ち上げて飛んでいくアリア。さすがです。
その間に魔道具の設置も進みます。
四隅の穴に固定用の石具を打ち込んで固定します。ペグみたいなものです。
石具は、金属の代わりに一般的に使われている素材です。地属性魔法で土をものすごく圧縮して作られています。石より頑丈なのが売りです。
「よし、こんなものだろう。確認するから少し待ってくれ」
設置した魔道具の魔法陣を輝石部長がチェックします。
しばらくのち、輝石部長が頷いて魔道具から離れ、上に向かって合図しました。
「いくよー」
アリアの声が聞こえてから少し間が空きました。
「よーいーしょっと」
屋上から人型の物が落とされます。
ミステリーならここで人間が落とされるところですがこれはファンタジーです。
ぼす。どさ。
一つの落下で音が二度。
ぼすは何かに受け止められて急減速した音で、どさは魔法陣の上に落ちた音です。
「どうだった?」
遅れてアリアがおりてきます。
「ひとまず人形は壊れていないね」
魔道具部員皆で集まって人形を見分しますが、目に見えて破損してはいません。
木製ですが関節を弱く作っているので衝撃が強ければ壊れたり外れたりするという想定です。
「落ち方によっては腕や足が折れるかもしれない。何度か落としてみたい」
「わかったわ。ミルカちゃん、次は私も下で見たいからお願いね?」
「わかりましたわ、アリアお姉様」
わたくしは不可視の手という無属性魔法で人形を抱えると、屋上まで飛行魔法で移動しました。
アリアと比べると下手なので少し恥ずかしい気持ちです。
恥ずかしいといえば、今は飛行服ではないので、スカートを内側に巻き込んで気を使て飛びました。余計不格好に見えたかもしれません。
飛び立つ際にどういう仕組みなのかと尋ねているのが聞こえました。
この落下減速魔道具は、風魔法との干渉を防ぐために無属性魔法を採用しています。
一定の以下の高度、一定以上の速度で反応し、魔法陣に近いほど硬く遠いほどやわらかいクッションを出して受け止めると言ったところでしょうか。
ものすごく語弊があるのを承知で言えば、柔らかい盾の魔法のようなものです。
柔らかすぎると落下を止めきれず、硬いと弾んでしまい危険なので、いい感じの加減を調整するのに時間がかかっていました。
ものを投げつけたり走ってつっこんだり様々な実験をして良さそうな具合を探しているのを見ています。
「落としますよ!」
声をかけながら下を見ます。
用意していないとちょっと怖いですね。
了解の合図が返ってきたので不可視の手を解除して落とします。
その時。
強い横風が吹きました。
「あ」
人形が風に押された結果、落下位置がずれて魔法陣の範囲外に落ちました。
幸い誰もいませんでしたが……まあいたとしたらアリアが守っていたでしょう。
「大丈夫ですか!」
わたくしも飛び降りて着地すると、皆様なんとも言えない顔をしています。
人形は見てわかるほど破損しています。腰の部分がくの字に折れて腕と足が片方折れてしまっていました。
「比較実験にはなったね」
それから部品を取ってきて修理のあと、何度か落下実験を繰り返しました。
「練習するときは横風を抑えているから大丈夫よ。自分で使った魔法で横にずれちゃう子は居るけどね」
横にずれちゃった子はどうなるのでしょう。
まあ先輩が助けているのですよね。きっと。
「実験結果は良好だと思う。少し調整を挟んで、次回は人体実験をしよう。皆、見ていて気になるところはあったかな?」
輝石部長が言いました。
人体実験。
必要なのはわかりますが、怖いですね。
防御、いえ、できればみがわり魔道具を装備してやりたいところですが予算は出るでしょうか。
「自分の技量によらないものに身を任せるのは怖いねえ。ちゃんと動くのを見ていてもさ」
「自力で飛べる者はそうかもしれないな」
「飛べない子が勇気を出すきっかけにはなると思うよ」
アリアと輝石部長のやりとりにはわたくしも同感です。
あ、そうです。
「上から起動しているかどうかわかるといいと思いましたわ。起動中色が変わるなど分かりやすい形で」
「ふむ」
魔力視でわからなくもないですが。四階の高さですから少々遠いです。
わからないと、家のカギ閉めたっけ、のような気持ちになりそうです。
命懸けのカギ閉めたっけ。だいぶ嫌ですね。
「そうだね、その発想は面白い。他の魔道具にも応用できそうだ」
「起動がばれない方がいい物の方が多そうですが」
「少数でも見えるほうがいいものがあるなら――」
「ですが機能が増えるほど魔力が――」
日常用なら大体見えるほうが良いかと思います。前世の電化製品は大体電源オンで光ってましたものね。
戦闘用の消費魔道具なら不要だったのでしょう。
防御用でも、相手に防御魔道具を使っていることがばれない方が有利でしょうし。
こうして設置用落下減速魔道具の実験は良好な結果が出たということになったのでした。
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