20.百花ハナの挑戦
私の名前は百花ハナ。一花家の傍流で九十九花家の分家である百花魔法男爵家の三女です。
十歳のころから風車魔法伯爵家に仕えており、私と同い年の風車ミルカ様の侍女を務めています。
風車家と言えば少々変わった家だそうで、ミルカ様もなかなか突飛なところがあります。
例えば自分に強力な向かい風を吹かせてそれに向かって走ろうとしたり。
調理上に出入りして料理人の仕事に口を出したり。
魔法の練習を遊びに変えてしまったり。
母君のエリーゼ様もよく、あの子をよろしく頼むわねと念を押しにおいでになるほどです。
奉公人の間でも、風車の姫は変わっているが食事が美味しいのでうれしいという評価です。
食事についてははじめは否定的だった当主様や奥方様も許すようになるほど成果を積み重ねているそうです。
私が来たころにはすでに食事が美味しかったので、これが伯爵と男爵の差かと驚いたものですが、風車家固有のものらしいです。
さて、ミルカ様の専属になってから学園入学まで、日がある間はほとんどの時間を共に過ごしていましたが、入学してから別行動の時間が生まれました。
部活です。
風属性を扱えない私が飛行部について行っても役に立ちませんし、学園では主従関係を重視せず、学ぶべきことを学ぶべしという考えが主流のようなのです。
私としては主従関係を解体して、再編しようとする意図があるように感じます。
学園の中だけ別の関係を築いたとして、一歩外に出れば状況は変わっていないのです。それなのに一時的とはいえそれを崩すというのは。
何か別の意図があるのでしょうか。
話を戻しましょう。
私は姉が所属する園芸部に所属し、農作物の性質を変える試みを託されました。
「大丈夫? 下手をすると、通常の花実を咲かせる魔法が使えなくなってしまうかも」
姉は心配しているようですが、挑戦無くして進歩はありません。とミルカ様が言っていました。
私はおいしいものを食べる欲にどん欲なミルカ様を信じます。
いえ、花属性の専門家でもないミルカ様の考えを盲目的に信じているわけではありません。
ミルカ様の考え方に筋が通っているように感じるから信じるのです。
ミルカ様はよく思い付きで行動しますが、考えて口にしたことは大抵筋が通っているのです。
前提から勘違いしていておかしなことになる場合もあります。
しかし、よく聞いてみると説得力があるように聞こえるのです。
園芸部の皆様と話した時は遠まわしに誘導するような話し方でしたが、普段なら一つずつ段階を踏んで説明してくださいます。
今回であれば、国全体の食糧を増産するという目的を示しています。
そして、事前に私に聞き取りをしていたのですが、私の知識は限られています。
私はミルカ様の遊び相手と学友と侍女としての役割を期待されているのであって、花属性の奥義を期待されているのではないのです。
それだけで園芸部に対して意見を述べ、考慮に値すると認められたのですから、これは発想の違いなのでしょうか。
考え方が違うように思いました。
ご家族ともまた見ている場所が違うように思います。
ミルカ様はこれをどうやって身につけたのか。
ともあれ、私は園芸部で品種改良に取り組みました。
品種改良というのはミルカ様が口にした言葉です。ちょうどいい言葉なので私も使うようになりました。
作物の性質変化を都合の良い形で導き、改良する。
成功すれば、先の仮説が実証されることになるでしょう。
魔法でしか育たなくなった作物の謎です。
しかしさて。
何から手を付けるべきでしょうか。
花実を咲かせる魔法を調整して別のものにするところからでしょうか。
私はまだこの魔法を身につけていません。
であれば、初めからそのように身につければそのようになる?
私は姉や磐座様、他の部員の皆様から魔法を学び、花実を導く魔法を身に着けようとしました。
できるはずです。
なぜならば、花実を咲かせる魔法が理想的な環境を提供し、魔法でしか育たない作物を作り出したのだから。
方向性をずらせば別の方向に導くことはできるはず。
そうして私がこれかなという手ごたえを感じたのが半月ほど。
花実を咲かせる魔法ではない何かを身につけたのです。
そしてその魔法で育てた根の花を試食してみます。
「あまり変わったようには思えませんわね」
「それでいえば、育ったという点では成果は出ていますわ」
変化がわかりやすいように、より甘い根の花へと導こうと育てたのですが、目に見えてわかる成果は出ませんでした。
しかし、姉は花実を咲かせる魔法と同様に生育させることが出来た点を褒めてくれます。
私が花を咲かせることができない娘ではなくなったことを喜んでくれました。
ですが目的とは違います。
「仮説では繰り返すことで変化するのでは、というものでした。種を取って繰り返してみましょう」
「そうね。頑張ってちょうだい。期待していますわ」
私の提案に磐座様が許可を出し、実験継続となりました。
それから、ミルカ様にも相談し、いくつかの指針をいただきました。
変化に時間がかかったということは、一度の変化は小さなものなのかもしれないというか説。
一度の振れ幅は小さいが世代を重ねることでどんどんずれていく可能性を、地面に棒で書いた絵図で説明してくれました。
直線から少しずつ角度をずらして離れていく曲線の絵図です。
なるほど、これを意識すればもっとうまくいきそうな気がします。
それとは別に、作物に求めるべき改良要素を、私を含む担当する皆様と共に考えました。
まずはわかりやすい成果としての味。味が変われば成果がわかりやすいでしょう。
そして生産量。
ミルカ様は食料を増やすと言いました。私も食べ物は多ければ多いほどいいと思います。
それから通常の畑でも育ちやすくなること。
花属性使いは限られており、大量に増やすには畑で育てることになります。最初の課題でもあり、重要な要素ですが、畑で育ててみないと結果が出ないので一旦後回しになりました。植え付けの時期までに合わせて試してみることになっています。
私が提案して地属性の部員の方にも尋ねました。
すると、収穫のしやすさ、病気への強さ、虫が付きにくいことが求められていることがわかりました。
花魔法で育てるのでは気づきにくい要素でした。
作物が病気になるなんて思いもしません。虫もそう。
花属性魔法使いは目の前で育ててそのまま収穫するのですから。
さらにミルカ様にも相談しました。
すると、寒さや暑さへの耐性を提案されました。
王国内でも南部と北部では気候が違うはず。植える作物を別にするか作物自体を改良するかはまた検討すべきですが、気候という要素は想定に入れておくべきだと。
また、場所だけでなく、年によっても厚い都市や寒い年があるかもしれないと。
水については水魔法があるからいいのかな、とも。
暑さ寒さの影響が作物に関わるのでしょうか。
地方による気候の差、季節の違い。その鍵がとなる要素が気温?
私は思い付きで魔力の偏差や近くに住む精霊の違いなどを挙げて尋ねてみました。
するとミルカ様は、わからないから試してみないといけないと言います。
確かにその通りです。
土と水以外の植物の育成に必要で花属性で補っているらしいなにか。
それが何か、一つなのか複数あるのか。それを解き明かすことが出来れば、品種改良すべき要素も増えるかもしれません。
このように様々に検討をしつつ、実験を繰り返して出来たのが今回の根の花の実。お芋さんと呼ばれているものです。
これは大成功と言っていいでしょう。園芸部での試食ではみんな沸き立ちました。
ミルカ様やエリーゼ様もお喜びになりました。
もちろん私もおいしいものを口にできてうれしいものです。
この調子で品種改良を進めていければと思います。
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