19.甘いですわ
「あらぁ♡以前の物よりはるかに甘い……♡」
おおっと。思わず語尾にハートマークがついてしまいました。
それほど甘いお芋がいま、ここに。
ハナに連れられやってきた我が家の調理場。
料理人によって試食用に蒸しあげられ、小さく切り分けられてたお芋を食べて、わたくしは笑顔になりました。
「想像以上にうまくいきました。ああ……甘い」
ハナもニコニコです。
その甘さは間違いなくお芋の甘さです。
しかし、花魔法によって理想の環境で育った、園芸部で試食したあの芋よりも、ずっと甘い。
「生育の際に植物の性質を変化させるよう働きかける。その植物の理想の環境を与えるだけでなく。個体差の範囲内で変化させるように。そしてそれを何世代も繰り返すことで、目に見えてわかる変化が出るかどうか。その実験の結果です、ミルカ様」
方向性を絞った品種改良。
たった一か月で作物の性質を変化させるところまで行きました。
花属性が秘めている可能性は計り知れませんね。
花魔法に限らず、魔法というものは非常に大きな可能性がまだ開拓されていないのでしょう。
きっともっと様々なアプローチで様々な派生をしうるのだと思います。
攻撃と防御と補助。戦闘に特化したこの国の魔法は、もっと大きな可能性がある。しかし、状況がその可能性を狭めているのだと感じます。
農産物の生産にはその魔力を活用できているのですから、もっとほかの分野にも拡大できるようになるといい。
ですが今は。
「大成功ですわね!」
「はい! 次は育てやすさと収穫量を調整していこうかと」
「ほかの作物はどうなの?」
「別の方が挑戦しています。この結果が周知されれば士気も高まりますわ」
「すばらしいこと! あなた方は、歴史に名を残すかもしれないわ!」
「ありがとうございます!」
ハナとキャッキャしているとお母様が通りかかりました。
「どうしたのです? 夕食前に料理人の邪魔をしては駄目よ?」
そんなことを言いつつ調理場をのぞき込んできます。
「お母様。ハナが育てた作物を試食していたのですわ。お母様も一口以下が?」
「まあ。……一口だけですよ?」
ついでにお母様の侍女も食べられるように指示します。
「あら、お芋さんね? ……!」
「これは……!」「甘ぁ!」
お母様たちがその味に感動しています。
うちのハナがやったんですよ。
「ミルカ、これはまだ残っているの?」
「はい、お母様」
「では夕食後のデザートはこれにするように」
お母様はそう言って去っていきました。
わたくしはハナと頷き合い、それから料理人に向けて頷きました。
「これを潰してバターを一割ほど入れてよく混ぜて、焼き色が付く程度に焼いてみてくださる?」
「承知いたしました」
夕食は間もなくですが、デザートには間に合うでしょう。
さて、夕食後。
わたくしは幸せそうなお母様に声をかけました。
「お母様、相談があるのです」
「なんですか? 最近練習場にこもっていたことと関係があるのかしら?」
盾バレー(仮・一対一版)でお母様と遊んだ後も残って実験をしていたので、わたくしがなにかをしていたということは気づいていたようです。
あまり魔力を使いすぎないよう注意もされていました。
いざというときのため、半分は残すのが嗜みです。
しかしわたくしは、最近は遊びと授業も含めて三割くらいまでは使っていました。
半人前のわたくしの魔力なら多少多めに使ってしまっても大差ないだろうと。
むしろ学園生の間は魔法に習熟するほうが大事だろうという建前もあります。
さておき、わたくしは頷きます。
「その成果が一旦出たので見てもらいたいのですわ」
「それは私も見ていいのか、ミルカ?」
「もちろんですわ、ちい兄様」
ゲイル兄様も興味を持ったようです。殿方の視線でどう見えるのかは少し不安ですが、もともとお父様にも見せるつもりでしたから、問題はありません。参考になる意見が出ればなおよしです。
「わたくしには風魔法はあまりわかりませんが、ミルカの考えがあるのでしょう。練習場へ参りましょう」
ということで再び練習場へ向かいました。
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