2.わたくし何かやっちゃいましたか?
本日は3話投稿しています。2話目。
魔法練習場は体育館ほどの空間で、防御魔法でがっちりと固められた場所です。
風車家は風属性の魔法貴族。
威力はともかく、範囲については長けていると考えられているので、練習場も大きくなります。
安全を考えれば街中に作るようなものではありませんが、魔法貴族が魔法の腕を鈍らせるわけにはいきませんので各家それぞれに練習場を確保しています。
当家の者と、当家に仕える者たちが使うため、大抵誰かが練習しているのですが、今は誰も使っておりません。夕刻ですので、ちょうど隙間時間だったようです。
「ミルカお嬢様、威力についてはともかく、熱については難しいのでは?」
わたくしの横から、侍女のハナが尋ねてきます。
「いえ、確かこのようにすれば熱も冷気も作りだせるはず……」
わたくしは自分の前に空気を遮断する結界を球状に張りました。
水中に落とされたときや、毒ガスを散布されたようなときに呼吸を確保するために使うものの応用です。
近くのものを一緒に助けるために半径五メートルほどが基本的な大きさ。今回もそれに倣ってみました。
「この内部には呼吸可能な空気がありますわ」
「待ってください、魔力視覚で見ますから」
風魔法は見た目透明なのでわかりづらいらしいです。
風属性の持ち主ならば視覚的に認識できるのですが。
「見えました。これを?」
「これをこう。とりあえずこれくらいで」
指示語ばかりでわかりにくくて申し訳ございません。
半径五メートルほどの結界を、内部の空気をそのまま小さく、半径一メートルほどまで狭めます。
「小さくなり……光ってます! なんですかこれ! それに熱い!?」
「あら、これはやりすぎたかしら?」
焚火の近くにいるような、あるいは真夏の太陽に照らされているような熱さを感じます。これやべーですわ。
わたくしはあわてて結界の位置を離します。
さらにもう一枚風の結界を張りました。わたくしとハナ、そして練習場の入り口を包みます。安全を確保。
「これを解放すると」
圧縮空気を囲う結界を解除しました。
その瞬間。
結界越しにもかかわらず。雷が至近距離に落ちたかのような轟音が響き。
そして練習場の中にあったものすべてを、わたくしたちを除いて薙ぎ払いました。
標的のかかしも。
隅に置かれていた備品も。
衝撃波が練習場の中を荒れ狂います。
「あの程度でこの威力ですか」
「あわわ……!」
驚いてひっくり返ったハナを抱き起こしつつ、わたくしは今起きたことを考えます。
圧縮率に対して思っていたよりも高温になってしまいました。
それでも風の結界でわたくしとハナは無傷です。
もちろん、練習場の結界も維持されています。よかった。壊れたら叱られてしまいます。
風の結界は風の影響を遮断します。
物理現象としての風は完全に。攻撃性の魔力を伴う風については込められた魔力次第。
先ほども述べた通り、水中での呼吸やガスへの対策用の結界ですから、空気の流れは完全に遮断されるのが前提。だからこのような爆風さえも完全に防ぎます。
防御魔法、あなどれません。
「お嬢様、一体何が……」
「おい、一体どうした!?」
ハナが口を開くと同時、別の方が練習場に飛び込んできました。
「あら、ちい兄様。どうなさいました?」
「ものすごい音が聞こえたぞ!」
「結界を越えて音が通るのですのね」
現れたのはちい兄様。
わたくしの下の兄、風車ゲイルでした。
ゲイル兄様は訓練場の様子を見て目を白黒させています。
地面が一部陥没し、わたくしの結界の範囲以外すべてが薙ぎ払われているのです。
巻き上げられた土砂やらが粉塵となり舞い落ちていきます。
「ミルカ、お前がやったのか?」
「はい。あの、ちい兄様、片付け手伝ってもらってよろしいですか?」
「お、おう……すぐにほかの者も来るだろうから、一緒にやろう」
身を守る結界の内部だけが、驚くほど普通でした。
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