1.風属性がハズレだなんてありえない
はじめました。よろしくお願いいたします。
本日は3話投稿予定です。
「風属性がハズレだなんてありえないですわ!」
学園の最初の授業があった日、わたくしは帰宅して令嬢の仮面を外したところで、ようやく心の叫びを表に出しました。
わたくしは風車魔法伯爵家の第三子にして長女。名をミルカ。
短く呼ぶなら、風車ミルカ。
魔法伯とは、魔法によって国に仕える魔法貴族の位階です。感覚としては部長くらい。
といってもこの国、栄光の王国において、貴族とはすべて魔法貴族なのですが。
そしてただの貴族令嬢ではありません。
前世の記憶を持っているのです。
おかげさまで不便な思いをしたり、逆に有利に動けたりとこれまでにも様々ございました。
その記憶が言っているのです。
この世界では風魔法がそのポテンシャルに比して評価されてなさすぎる!
前世の記憶は学生時代で止まっているので、そのころまでの常識しかわかりません。
しかし、風属性というと最強格と言える属性でしょう?
だって大気を操るのですよ?
ゲームであれば炎や雷が強い。それはそう。
ですが物語であれば。風が最強の作品がどれだけあったことか。
最強すぎてカマセにされがちなくらいです。
なのにこの世界では評価が低い!
わたくしの家は風車という名の通り、風属性の家系です。
そのなかでも、農業系の産業とも関わりがある、どう聞いても重要な家。
なのにこの世界では評価が低い!
わたくしは机をたたきました。
「お、お嬢様!?」
「ああ、ごめんなさいね、ハナ。思い出してつい」
わたくしとしたことが、はしたないことを。
お茶を用意してくれていた侍女のハナを驚かせてしまいました。
「ミルカお嬢様、先生を質問責めにしていらっしゃいましたからね」
「恥ずかしいわ。変な噂が立たないかしら」
「きっと熱心な生徒だと思われたのではないでしょうか」
ハナは当家とかかわりの深い、百花魔法男爵家の貴族令嬢でもあります。
わたくしの侍女として同年代の娘を探した際に百花男爵が申し出て、召し抱えた同い年の娘です。
なので、ともに学園へ通っています。
気心の知れた相手がともにいるのは心強いが、恥ずかしいところを見られたものです。
「それにしても、これほどわたくしの認識と世間の認識が違ったとは思いませんでした」
「魔法は神々より賜りし、脅威に対抗するためのものですから」
そう。
この世界には明確な脅威、人類の敵が存在するのです。
いわゆる魔物です。
魔法的能力を生まれつき持ち、身体能力が人間よりはるかに高い多種多様な魔物たち。そんな存在が跋扈するなか、人類がその生存権を確保できているのは魔法のおかげなのです。
そしてだからこそ、風魔法の評価が低い。
戦闘用魔法こそが至高。
風魔法は打撃力が低い。
盗み聞き用の属性。
これが学園に行って知った風属性の評価でした。
最後の一つはさすがに悪意がある評価だが、聞く限り実際に地水火風の四大属性の中で最も評価が低かったのです。
マジか、と口に出しそうなところを令嬢教育のおかげで我慢して。
帰ってきてからやっと吐き出したというわけです。
「ミルカお嬢様、どうぞこれを飲んで落ち着いてくださいまし」
「ありがとう」
ハナが入れてくれたお茶に口をつける。
落ち着く香りを胸いっぱいに吸い込む。
百花家で栽培している香草のお茶です。
わたくしは彼女が淹れるお茶が大好きで、嫁に出したくないなあと思っているのです。でもそういうわけにもいかないでしょう。
未来のことを考えて寂しくなってしまいました。
「大質量による打撃力、敵を止める力の強さ。そして高温による殺傷力。それが地水火の評価を支えているようなのですが」
「たしかに、それでいいますと風は少しほかに譲るのでは」
そうだろうか。
わたくしは首をかしげます。
「いえ、その程度のことは風の力でちょちょいのちょいのはずですわ。何かわたくしが見落としていることがあるのかしら」
「ちょちょいのちょい、ですか?」
魔法伯爵令嬢として、幼いころから魔法の訓練をしてまいりました。
この世界では神々が人に魔法を授ける際に、そのままでは人の身に余るとして、属性に特化した適性を与えてくださったとされています。
当家はその風車の名の通り、風魔法に適性がある家系です。
ちなみにハナの百花家は花魔法の家。
地水火風の四大属性以外にも多くの属性があり、それぞれが独自に魔法を磨いているのです。
そして、貴族の殿方は大規模な戦闘用の戦術魔法を多く扱います。外に戦いに行くのは主に殿方の役目なのです。
そして淑女は家を守ることが役目とされているので、護身術的な規模と制御を重視した魔法を鍛えます。
淑女は戦えないわけではないのです。
殿方が留守の間に略奪をもくろむ輩を撃退しなければなりませんので。
もちろん、殿方が使うような戦術魔法についてはあまり詳しくありません。
しかし、風魔法に打撃力がないというのは。
前世の知識が今世の常識を疑っているのです。
「少々試してみましょうか」
実際に見てみればわかることもあるでしょう。
わたくしは魔法練習場に向かうことにしました。
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