16.魔道具部ですわ
翌日。
地理と歴史の授業を受けた放課後、わたくしは魔道具部へ向かいました。
中庭の中心、結界に囲まれた場所にある小さな建物が魔道具部です。
周辺には「危険。この先魔道具部。無用の者の立ち入りを禁ずる」と書かれた看板が設置してあります。
看板の脇を抜け、魔道具部小屋を訪ねます。
ノッカーを叩いてしばらく待ち、……何度か叩いてようやく入口が開き、部員の方が現れます。
「おお、本当に客がいた。どうぞ中へお入りなさい。おーい、みんな、場所を作ってくれ」
どうやらなかなかマイペースな空間のようです。
中に入ると、まあ散らかっていること。
広い作業スペースに資材や道具が散乱しています。いえ、いくつかの場所を中心に配置されている……?
そして端の方に応接スペースがあり、そこに積み上げられていたものがガラガラとどかされている様子が見えました。
復活したソファを勧められ、応接机を囲んで座ります。
「ようこそ魔道具部へ。新入生だね? 入部希望ならうれしいが」
そうして挨拶を交わします。
現在この場に五名部員がおり、先ほどから中心となっている輝石魔法伯爵家の方が部長、以下学年順に糸車魔法子爵家、水瓶魔法伯爵家、焚火魔法子爵家、風羽魔法男爵家の令嬢ということです。
風羽さんは隣のクラスの同学年ですね。
そして、この五名が魔道具部の全部員とのこと。
少ないのには理由があるのですが、今回は置いておきましょう。
「かの風車家の方か。噂はかねがね。魔道具としては最低限であるのによく機能するあの風力式揚水機は素晴らしい発明だ」
女学園の生徒としては珍しい喋り方です。
事前に魔道具部は皆変わり者だという情報をいただいていましたが、これはあれでしょうか。マッドサイエンティストみたいな。サイエンスではないですが。
「輝石様こそ。王国の魔道具技術は輝石家の賜物と伺っておりますわ」
「うん、挨拶はこのくらいにして、用件を聞こう」
前置きを無駄話と感じるタイプのようです。
そうであればわたくしも合わせましょう。
「はい、実はお尋ねしたいこと――」
はい、皆さん興味をなくしたような表情になりました。一瞬で作業場の方に意識が剥いてしまいました。これはいけません。
「と言いますか飛行部に必要と考える魔道具について相談が」
「ほう。設計かな? 生産かな? 飛行部というと上空から投下する攻撃魔道具だろうか?」
興味が返ってきました。
おかえりなさい。
「いえ、落下時の安全装置ですわ。過去に問題があって魔道具使用を中止した経緯があると効きました。わたくしは問題をなくして改めて採用するべきではないかと提案したのですが、問題をなくしてから考えるということで」
「ははぁん。なるほど? どう思う?」
五名の魔道具部員の目が鋭くなります。
「私はパスですね。火属性はこの案件には無用でしょう」
「過去に使用していたものは何です?」
「外套です」
「であればわたくしは参加で」
「水も不要じゃないかな。見送ります」
「自分は参加します。試験に必要でしょう」
「よろしい。この件は私と糸車さん、風羽さんでやろう。水瓶さんと焚火さんは戻っていいよ」
あっという間に人員が減りました。展開が早いです。
外れた二人は作業場へ戻っていきました。資材に囲まれて何か作業を再開しています。
「さて、攻撃や防御に関する魔道具ばかり需要がある中、珍しい要求だ。詳しいことを聞かせてもらえるかな?」
ある意味防御に関わることなのですが満足していただけるでしょうか。
「まず用途としては飛び降り訓練時の安全確保が一点。飛行魔法使用時の不測の事態に対応する為が一点。過去の魔道具は魔法との干渉、誤作動、動作不良による事故が起きたことと、夏暑かったことで使用中止となったとのことです」
「なるほど、端的でわかりやすい。風車さんは向いているかもしれないな」
「夏暑かったから……」
過去何があったかは、今述べたことから想像していただければと思います。
不測の事態というのはなんらかの理由、攻撃や体調不良その他により意識を失った場合や、飛行魔法をディスペルされた場合などが想定されています。
「当時の魔道具師は解決の機会をもらえなかったのか」
「事故が起きると魔道具反対派が強くなりますからね」
どこの世界でもあることです。
公園の遊具で子供が怪我をすれば撤去しろと言い出すのと同じようなこと。
ただ、使用者が使う別の魔法との干渉や誤作動、動作不良があったのならそれはまた別の問題ですね。
「使い方にも問題があったようです。しかし設計にも同じく問題があったのも事実です」
おや、風羽さんは詳しい様子。
もしかすると、当時の関係者が身内に居るのかもしれません。
「飛行魔法の訓練者、初心者が使う想定ですから、魔道具の使い方が複雑なものは避けたいですわ。使用者が慌てている状況で使うものでもあります。干渉も可能な限り避けなければ事故は再び起こるのではないかと。あとは形状でしょうか。飛行中は手法によっては体が冷えるでしょうが、外套を着ていられない時期はあります。別の方法で解決すると費用が嵩みますわ。導入するにはそれなりに費用も気になります」
指折り懸念点を挙げていきます。
ふむふむと輝石部長がメモを取っています。
「まとめると、風魔法と干渉しない、邪魔にならない暑くない。使い方は簡単または自動。費用は安く。誤作動も動作不良も起きにくいもの。結構な注文だ」
「命を救うための物ですから」
「ああそうだろうとも。攻撃魔道具が誤作動しないようにしてくれというのと同じだね。大事なことだ」
「難しいですか?」
「難しい? もちろんだよ。趣味で作るものと人を満足させなければならないものは全く難しさが違う。しかし私たちは魔道具部だ。予算を出してもらっているから学内からの要求があれば答えるのが義務でね。楽しませてもらうよ」
プロフェッショナルかな?
やってくれるならそれでいいですけれども。
「要件は以上かな? ならばこちらで仕様について検討を始めたいのだが」
「あ、もう一つありまして」
帰ってほしそうな雰囲気を出し始めたので、もう一つの用件を伝えます。
「こちら、兼部は認められますか?」
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