13.飛行の実演ですわ
空の飛び方はいくつかあります。
部室を出て階段を昇れば校舎の屋上。
飛行部の先輩方が、それらを目の前で実演してくれるのを見て、わたくしを含む一年生たちはさまざまに声を漏らしています。
昨日や一昨日から来ている熱意のある方は何度目かになるのでしょう。
わたくしと同じく、今日から参加の方は驚きが強いようです。
「このように、風を受ける形で飛ぶと衣服も髪もひどいことになりますわ」
強風を受ければ人も飛ぶ。
ものすごい嵐ほど風が強ければ、人を飛ばせることは前世の知識で知っています。
しかしその手法は、セットした髪も化粧も服をも大変なことにしてしまいます。
おまけに、やっていることは自身をボールにして風魔法で打っているようなもの。
昨晩ハナと遊んだ、盾の魔法の復習ゲームと同じようなものなのです。
対象が自分自身なので重心を掴むのは多少楽かもしれません。
ですが強風を受けるのも、飛ばされる先を制御するのも難しく、また疲労をもたらします。
淑女でなければこちらの理由の方が重要でしたね。
「この手法は、とても疲れますし、体への負担も大きく、大けがをすることもありますので、おすすめはできませんわ」
実演してくれた先輩は魔法子爵令嬢で、別の先輩が駆け寄って髪と衣服を整え直しています。
百聞は一見に如かず。
実際にやって見せてくれた先輩の献身に感謝です。
続いて見せてもらったのは、体を結界で包み、結界ごと吹き飛ばすことで飛ぶ手法です。
「これもやはり弱点がありますわ。肉体への負担や制御の難しさについては改善されましたが、結界と移動のための風を起こす魔法を同時に使うようなもの。魔法を使う負担が重いのです」
こちらは魔法伯爵令嬢の先輩です。
最初の先輩の飛ぶ姿と比べると優雅に見えましたが、それは技術を磨いた結果なのでしょう。
同時に複数の魔法を使うことはそれなりに高度な技術であり、飛行中に別の魔法が必要になった場合など、すでに二つ魔法を使っているとなるとあとがなくなってしまいます。
もちろん、吹き飛ばす方向にも気を遣わなければなりません。
続けて、結界式の亜種として、風の流れに結界を乗せる手法が紹介されます。
こちらの方が飛行の制御は安定しますが、二つの魔法を行使する状態という欠点は改善されず、また風を吹かせ続けるのも負担になります。
「多くの方はこのどちらかの、得意なほうを練習しますわ」
「ですが、風魔法を極めるともっと優雅に、そして軽妙に飛ぶことができますわ」
そう紹介されて実演するのはアリアです。
在校生の中でも風属性のトップ。魔法侯爵令嬢自らの実演です。
これまでの手法とは比べ物にならない、文字通り風のようにすいすいと自在に飛び回っています。
それなのに髪型も服も崩れることもありません。いえ、気持ちよさそうに、そよ風を受けているような、そんな様子です。
「風魔法の奥義。風と一つになる魔法だよ。ここまで出来たら一流と呼んでもいい。大人顔負けの立派な風魔法使いと認められるわ」
アリアの声はどこから聞こえるのかわからない響き方をしています。
屋上に吹く風そのものに声を乗せているのでしょう。
風と一つになる魔法。風なので自由に空をめぐることが出来て当たり前、というわけです。
言葉通りの風魔法の奥義。
それがわたくしたちの目の前で開陳されているのです。
これがどれほど贅沢なことか。
「ただぁ~し! この魔法には勝手に挑戦しないこと! 風と一体化しすぎると戻れなくなるからね! 必ずこの魔法を使える人に見てもらいながらじゃないと、練習してはいけません!」
音もなく屋上に降り立ったアリアが真剣な表情で釘を刺してきます。
そうなのです。
わたくしはそこでつまずいているのです。
自分自身が風になることだ?
戻れなくなったらどうするのですか?
風ですよ?
石や水ならまだマシです。
薄く広がってしまったらどうするのですか?
空気が移動する現象に自身を変化させるなんて、怖くないですか?
と、わたくしが臆病なのか、これも前世の記憶の弊害か。
怖くて実践できないのです。実践できなければ練習もできません。当然上達もしないわけです。
ですのでわたくし、アリアのことを本気で尊敬しております。
ただまあ、変化という技術自体、わたくしは苦手なのですが。
操作についてはそれなりに上手になったと自負しております。
しかし、癒しの風だとか、滅びの風だとか、そういった性質を変化させる手法を組み込んだ魔法が苦手なのです。
全くできないわけではないのですが。
理屈が先に立っているのかもしれません。
風で癒すってなんだよと、内心で思ってしまっているのかも。
そんな苦手意識があっては、自身を変化させることも上手くいかないでしょう。
「たくさん飛んで練習すればそのうちなんかできるような気がしてくるから、そうなったら相談に来て。都合が良ければ私が、ダメでも教えられる人を手配します」
わたくしが考えている間に、アリアが優しく説明をしてくれています。
小さいのに立派です。先輩ですが。
「さて、と。じゃあ早速、練習を体験してもらおっか」
手を叩いて話の切り替わりを示しつつ、アリアが次の工程に進むと宣言しました。
練習の体験。
どんなことをするのでしょうか。
わたくしも、できることなら奥義を身に着けたいのでその助けになることだと良いのですが。
「それじゃあ皆様、三階から飛び降りてもらいま~す」
先輩方が笑顔で圧をかけてきました。
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