12.礼と服ですわ
学園の門から少し離れた場所に同世代の殿方がうろついているのはよくあることだそうで。
登下校の時間帯です。
ゲイル兄様と同じ男学園の制服を着ているので学生に違いないでしょう。
見間違えることはありません。
なぜなら、この国では学園の制服だけデザインが明らかに違うからです。
男学園まで歩いて三十分くらいかかるので、このあとダッシュするのでしょうか。それとも遅刻するのでしょうか。
ストーカー味がある行為ですが、一概に問題行為とは言えません。
女学園の生徒の関係者も周辺で待機しているからです。
生徒の関係者とはいえ、学園内への無断立ち入りは原則禁止のため、送り迎えを行う父兄や護衛が居るのです。
それでも一人ずつ関係者かどうか確認すれば怪しい人物は排除できるでしょうが、女学園の生徒も男学園や通学路で同じようなことをする場合があるのであまり強く言えないようです。
治安心配ですね。
大通りには衛兵や、各家の守衛が立っているので滅多なことは無いでしょうが。
学園前にももちろん守衛がいます。
白く染め抜かれた魔物革製の防具を付けています。白は王家を意味する色ですから、王家直属の守衛ということになります。さすがは王立。
魔法付与されたガチガチの実戦装備です。不埒者が現れればすぐに制圧されることでしょう。
なぜこのような話をしたかと言えば、本日の始業前の噂話が、素敵な男学園生を見たという話題だったからです。
わたくしとしてはストーカー味があるなあという感想ですし、そうでなければ女学園までやってきて品定めしているような相手ということ。
ちょっとお断りかなと思います。
顔を覚えておいて、見合いの際にあったらお断りすることにしましょう。
正直なところ、同年代の男子はガキに思えてしまいます。
それは前世の記憶があるからかもしれませんし、今世に兄が二人いるせいかもしれません。
性格が幼めの方が好みという方を否定はしませんが、個人的な好みとしてはしっかりした方がいいと思います。前世ならともかく、この国で関わるのなら。
さて、授業ですが、本日は礼儀作法でした。
学園では一日かけて一つの科目をみっちり行います。集中力が切れそうに思いますが、どうなのでしょう。昨日は楽しかったですが。
昨日は盾の魔法。本日は礼儀作法。
礼儀作法は共有されなければ意味のないものだと思います。
学園に通うのは皆貴族なので一定の作法は修めているでしょうが、諸事情で遅れていたり、不足があったり、誤解があったりする家もあります。
そういった家をバカにしてはいけません。
なぜならば無作法を受ける側の名誉も傷つけられているからです。
無礼を働いた側は社会的制裁を受けることになるでしょうが、それはそれとして無礼を働かれた側も、例えば主催したパーティでそういうことが起きればメンツが潰されるわけです。
お互い何の利もありません。
ですので礼儀作法はしっかり学びましょう。
と、そのような授業を受けました。
また、学園にいる間は猶予期間でありある程度大目に見ましょうと、高位の魔法貴族家を中心にくぎを刺されました。
同じ空間で授業を受ける以上、そういった事態は起こりうるでしょう。
分ければよいという考えも浮かびますが、当家のわたくしとハナのように、主従関係を結ぶことも多く、それとは別に高位の貴族が下位の貴族を率いる状況は想定されます。
ある程度相互理解を深めることが必要なのでしょう。
学園の建前は技術の共有と結束強化ですので、妥当な落としどころなのでしょう。
実際のところ、国という大きな組織の中で様々な過去と、立場と、感情を持つ人々がいるわけですから、仲良くしましょうでまとまるわけはありません。
だからこそ建前を示すことが大事なのだと、これもまたお母様の受け売りです。
わたくしとしては全部上手く行けばいいなと思いつつ都度対処していく所存です。自身が全能でないことは身に染みておりますので。
さて、そんなわけで共有と復習の時間だった礼儀作法の時間が終わり放課後です。
本日は飛行部に出席しなければアリアの怒りを買うでしょう。
魔道具部などにも興味があるのですが、順番ですね。
更衣室を経由し、ハナと別れて飛行部の部室へ向かいました。
飛行部の部室は校舎の三階、屋上への階段の隣にあります。
「ちゃんと来たわね、ミルカちゃん」
部室に入ると、飛行服に着替えた飛行部員たちがおしゃべりをしていました。
その中心にいるのはもちろんアリアです。
飛行服というのは、制服ともまた違った特別な服です。
具体的にはパンツルック。それも上下が一体になったものです。
実はこの国の、中部より南にはズボンというものが一般的ではありません。
古代ローマと古代中国と古代インドと和服を混ぜたような服飾文化で、殿方でもスカートのような衣装を着てもおかしくないのです。なぜか下着はありますが。紐だけど。
しかし、飛行魔法を使うと位置関係や風の都合でいろいろと見えたりめくれあがったりしてしまいます。
飛行魔法を極めれば衣装など気にしなくてもよいのですが、その域に辿り着けるのは限られています。
ですので栄光の王国北部で着られている、足をそれぞれ通せるいわゆるズボン。これを飛行魔法使いが着用するようになったとのこと。
北部にズボンがあったのは寒いからでしょう。おそらく。
わたくしの飛行服はスパッツとTシャツを合わせたような一体型のボディスーツの上からキュロットのような北方衣装を重ね、ジャケットを羽織る。さらにそれらをベルトで留めるスタイルです。ハイブーツで絶対領域をチラ見せ、セクシー。
飛行服だけだと体の線が出てしまうので重ね着するのがおしゃれと実用性を兼ねた風属性女子の心意気。
あと単純に飛行服だけだと寒いのもあります。
「ミルカちゃん大胆!」
「アリアお姉様は制服なのですね」
「私は下にいつも着ているからね」
プールの日の水着じゃないんだから、という気持ちが湧きますが、飛行魔法に熟達していて飛行許可を持っているのなら普段から飛びたくなることもあるでしょう。
ならば普段から着ているのは当然のことかもしれません。
「よーしみんな! 知ってるかもしれないけれど、風車伯爵家からミルカちゃんが来てくれたわ! 仲良くするのよ!」
ざわ……ざわ……。
はい。
風車と聞いて、知らなかったらしい方々が、思うところあるなあという雰囲気を醸し出し始めました。
口に出さずに雰囲気でとどめるのが礼儀教育の成果です。
これはこれであまり気分がよろしくないわけですが。
理由はわが家が持っている利権にあります。
風力式揚水機ですね。
これのおかげで、若干地属性寄りに見られているらしいのです。農業関係ですからね。
昨日ちらっとアリアに教えていただきました。
お父様お母様、教えておいてください。
昨日のアリアは風属性の結束を乱す問題児を自ら迎えに行ったという形だったわけですね。
さすがは風属性筆頭。
今後印象の改善をしていかなければいけません。
やりたいことが多い時は人間関係が煩わしいですが、やりたいことを通すには人間関係こそ大事です。それにもっとシンプルにお友達は欲しい。
うまくやっていきましょう。
というわけで。
「風車伯爵家のミルカと申します。皆様、よろしくお願いいたします」
ちょうど今日授業で復習した古典礼を実践しました。
「ようこそ。飛行部は風車ミルカを歓迎いたします」
そしてアリアが返礼すると、部員の皆さまも慌てたように習うのでした。ちょっと楽しい。
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。




