15.王都行き合同任務
「う~……あたまいたい……」
「大丈夫?」
次の日、クレイルはギルドのロビーで、ひどく顔色をの悪い祐一の背中をさすっていた。
宴会で飲み過ぎたらしい、二日酔いというやつだ。
アルコール酔いは、たしか、浄化の魔法をかけてやれば幾分かよくなると聞いたが、浄化魔法は教会での教えを学んだものしか使えないと聞く。クレイルはおろか、イルシュアもそれは専門外だった。
「とりあえず水でも飲んでおいてください」
言いながら水の入ったカップを机に置いたのはレナだった。
そして机に突っ伏している祐一のとなりの椅子を引いてそこに座る。円形のテーブルを囲って、クレイルとイルシュアと祐一、それからレナが座る形になる。
「こんなんで大丈夫なんでしょうか……馬車で吐かないでくださいね」
「すみません……出発までには落ち着くと思うから……」
本当に大丈夫なのだろうか。とは思うが、とりあえず伸びている祐一はおいておいて、レナがクレイルたちを見た。
異世界仲間のお姉さんから、ギルドの受付嬢に表情が変わる。
「では改めて、祐一さんの護送、および荷馬車護衛の任務について説明します」
祐一の護送が決まったのは数日前のことだったという。その迎えの人員が昨日到着した。
クレイルたちも、宴会の途中に聞かされたのだが、祐一は王国預かりになるため、ただ王都に向かうにしても、王国から数名兵士が派遣されているのだという。なんともまぁ豪華な待遇だ。
とはいえ、馬車自体は一般の辻馬車と変わらない。貴族の持つような馬車で護送してしまってはいかにも要人が乗っていますという形になり、逆に危ないということで、一般の馬車に王国からの護衛という形になっているのだとか。
「それで、まぁ、ギルド側からも何名か護衛を出すことになってまして」
この辺は色々と、国とギルドとの兼ね合いがあるらしい。王国の兵士に渡してはいどうぞ、というわけではなく、ギルド側からも人員を出すことで何かしらの関係を保っているということなのだとか。
簡単に説明しながらレナは続いて、机の上の書類をめくる。
「さらに、王都へ向かう荷馬車の護衛の依頼も出てるんですよね」
これは別件の依頼なのだが、ハイトから王都へ向かう荷馬車の護衛をしてほしいという依頼も同時にギルドに入っていた。こちらも3名程度の冒険者の護衛を必要としている。
「なので、目的地と大まかな内容が同じなのであれば、まとめてしまえということで」
そうして説明されたのが、今回の合同任務だった。
簡単に言えば「馬車2台の護衛」である。
まずは祐一と他に数人の人たちが乗っている、人が乗る馬車。実際のところ、護衛対象は祐一だけなのだが、考え方としては馬車ごと護衛してしまった方がわかりやすい。
もうひとつは、ハイトから王都へ向かう荷馬車。こちらには王都行きの荷物が積まれているとのことなので馬車そのものが護衛対象だ。
王都へ行く物と人、方向と重要度が一緒なのだから、合同にしてしまえ、というのがレナの判断らしい。そのために任務自体が共同となっている。
ただ、任務が合同となると、必要人数も合同となる。
いくらやることが同じでも、護衛対象が二倍になるのだから人員も2倍必要なのだ。
護衛対象は馬車が2台、それぞれの御者と、中に乗る村人5名。
対して護衛は王国からの派遣護衛が4名ほど、それにフォルテヴァラの面々。
護衛できないこともないが、これで片方の馬車の護衛が王国に頼りきりになって、後々変な難癖をつけられたくもない。
「なので、ギルドから、もう2名ほど、合同で任務を受けてもらった人がいます」
「二人パーティの冒険者?」
「いいえ、別々の冒険者が2名です」
そちらの二人は元々、荷馬車の護衛を受ける予定だった2名だという。
できればもうひとりくらい護衛を探しているところで、人員護送の任務と合同にしてしまえば人数が足りるということで了承をしてもらった。
「おふたりの実力は保証します。うちのおひとりは、フォルテヴァラよりランクは低いですが、ソロであることを考えれば十分かと」
そのふたりにはもう合同任務の話は通してあるのだという。人数が増えることに関して特に問題はなかったので、あとは互いの顔合わせをするだけなのだとか。
「うんまぁ、わかったよ。こっちも特に問題はない、よね」
「ジャンヌが若干嫌がりそうだけど、どのみち王都に行かない選択肢もないし」
レナの話をきいてクレイルとイルシュアがそう結論を出す。たしかに、人数が増えたことでジャンヌは嫌がるかもしれないが、背に腹は代えられないというやつだ。
その結論を聞いてレナがぱちんと手を叩いて微笑む。それから書類を纏めながら、祐一、続いてクレイルを見る。
「でも、フォルテヴァラも王都に行っちゃうんですねぇ」
「すみません……」
「なんで謝るんですか、地方の冒険者が王都に行く、いいことですよ」
寂しくはなりますけど、ハイトにもまだまだ冒険者はいますからね、と軽く笑うレナにクレイルもつられて笑う。
祐一は顔だけ上げてレナを見た。
「でも俺はレナさんと離れるの残念ですよぉ~」
「なんですか、赤ちゃんじゃないんだから」
「そうじゃなくて、同郷じゃないですかぁ」
「そうですけど……、もしかしてまだ酔ってます?」
大げさに嘆く祐一を軽くレナが窘める。
ハイトを離れるとはいえ、手紙のやり取りもできるし、なんならギルドを通して互いの様子を知ることはできるのだ。特にレナからしたら、王都の冒険者の情報は割と地方まで入ってくる。
「それに、それこそ祐一さんはあれです、異世界支援会に入ってればまた会えますよ」
さらに、異世界出身者には異世界出身者の独自のコミュニティがあるらしい。なんでも、数多くいる異世界出身者たちが、定期的に集まって情報交換をするのだとか。それなら確かにレナに会う機会はまだまだありそうだ。
それでも祐一はまだ不満そうに口をとがらせていたが。
「王都ギルドでのフォルテヴァラの活躍、楽しみにしていますよ」
「大丈夫かなぁ、新しいギルドって不安だよ」
クレイルは不安の言葉と共に、椅子の背もたれに身体を預けて眉を寄せる。その様子を見て、レナは思い出したかのように、そうだ、と付け足した。
「王都のギルドには私の先輩がいますから、ぜひ先輩を頼ってください」
「先輩?」
「私がギルドの受付をするってなったときに、色々教えてくれた先輩です」
それから意味ありげに祐一に視線をうつす。
「ラッテさんっていう、ウサギの亜人ですよ」
その言葉に、祐一は伏せていた顔を起こしてレナを見た。
「なにそれ、ウサミミってこと?!マジで?!」
「マジですよ、興味あるでしょう、祐一さん」
「俄然興味出てきた!いるんだ!リアルウサ耳!!」
そういえば、亜人はクレイルもあまり見たことが無い。完全にないわけではないのだが、このあたりでは圧倒的に人間と普通の獣、あるいはドラゴンが多く、亜人は割と珍しかった。
王都に行けば、きっともっと様々な種族がいるのだろう。
それこそ、ジャンヌみたいな吸血鬼なんかにも、また会えるのかもしれない。
いつのまにかウサ耳にテンションが上がりまくっている祐一をよそに、クレイルは少しこの先に胸を躍らせる。
「まあ、ひとまずは、護衛の馬車の確認と顔合わせといきますか」
そう言ったイルシュアに続いてクレイルも席を立つ。祐一も続いた。
レナは、ギルドの入り口で一同を見送る。あまり仰々しくもなく、いつもの任務のひとつという態度が逆にありがたかった。
■ ■ ■ ■
王都行きの馬車の周りには、すでに多くの人が集まっていた。
集まっていた、というよりは、乗り込んでいた、のほうが正確かもしれない。祐一以外の王都行き希望者は、すでに馬車の中に入り込んで色々話をしている。
その中には当然、リリアとルセルの姿もあった。
「あ、も~みんな遅いよ」
「すまん、って、まだ出発時間じゃなくない?」
「まぁね、でもおいてかれたくないから、先に乗ってた」
馬車の中からリリアが大きく手を振ってくる。ルセルはその隣に座り、クレイルたちを見ると軽く頭を下げてきた。
二人の荷物はそんなに多くない。リリアとルセル二人分の荷物が、大きめの鞄に一つにまとめられているようだ。対する祐一はほぼ荷物はないし、拠点を移すにしては全体的に身軽だ。
馬車の中にはほかに、老夫婦と思しき人が乗っている。これが今回の王都行きの護衛対象ということだ。
「ええと、それで、護衛の人は……?」
クレイルがあたりを見回している間に、ジャンヌはさっさと荷馬車の方に向かってしまう。
彼女はやはりどうしても昼間に活動するのが苦手なようで、基本的に昼は誰かの影に潜んだまま出てこない。
今回は、荷馬車の護衛だから、荷馬車の中に潜んで護衛をしてもらうように話をつけた。彼女が荷馬車にいる、というだけでも護衛的な意味では安心だろう。合同任務の相手との交流はクレイルたちがやればいいわけだし。
「あれじゃない?王国の紋章付けてる人」
そしてソフィアが指さした先に、王国の紋章をつけた鎧を着ている人物が数名いた。真ん中に顎髭をたたえた壮年の男性、その周りに若い騎士らしき人がいるから、中心の人が隊長だろうか。
「ああ、君たちが冒険者の護衛か。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
軽く挨拶を済ませると、その騎士は軽くクレイルを見て咳ばらいをひとつ。騎士と冒険者の関係はそんなに悪くないはずだが、と思ってそちらを見たら、彼が気まずそうに目をそらした。
「ずいぶんと若そうだが、まぁいい、先ほどの二人よりは話が通りやすそうだ」
「はい?」
「いや、話しやすそうな冒険者がひとりでもいてよかったよという話だよ」
言いながら軽く息をついた騎士の視線を追う。すると、少し離れたところに二人、冒険者らしき人が立っているのが見えた。
「まぁ、仕事をしてくれれば文句は言わない。冒険者は冒険者同士で連携をとってくれ」
それだけいうと、挨拶もそこそこに後ろの騎士たちの元へ戻ってしまう。なんとなく隣にいた祐一を見ると、彼も首を傾げながらこちらを見た。
その態度が多少気になったが、なんにせよ、一応王国の護衛と顔合わせはできた。そう思い直し、改めて二人の冒険者の元へ挨拶に行くことにする。
そこで、あの騎士の態度の理由を、理解するのだが。
■ ■ ■ ■
「エル。双剣士、ソロ。銅3」
「ダルク様だぜ、よろしくな!特に女の子たち!」
同行者となる二人は、どちらもだいぶ印象的なタイプだった。
最初に名乗ったエルという人物は、細身のすらりとした体型で、170cm前後の人物だ。
その名乗りがかなり簡素なものだったというのもそうだが、マントとつながっているフードを深くかぶっており、意図的に顔を隠しているのが印象的だった。
声の感じからすると年齢は若そうだ。今時ソロで冒険者をしているのだから若すぎるわけでもないだろう。フードの間から、長くのばされたミントグリーンの髪を三つ編みにしている。
本人の宣言通り、腰の両側に2本の剣を携えている双剣士だ。
もう一人のダルクは、長身で黒髪の浅黒い肌をした男性だ。180はあるかという背丈に、その名乗り通りの自信家のようで、堂々と胸を張って親指を立てている。
腰には複数の短剣が下げられているから、シーフかなにかなのだろうと予想はできる。頬や腕のそこかしこに傷跡があり、歴戦の冒険者をうかがわせる風貌だ。
ただ、クレイルが気になったのはそれよりも、その耳が軽く尖っていて、赤い目をしていて、笑った口から鋭い牙が覗いていることのほうだった。
赤目で黒髪で尖った耳で牙がある。その種族を、クレイルたちはよく知っていた。
「……あの、ダルクさんって」
「あん?なんだお前」
クレイルが恐る恐る話しかけたら不機嫌な目で睨まれた。思わず言葉を止めるクレイルの後ろを、ソフィアが引き継ぐ。
「吸血鬼よね?」
「おう!そうだぜ!君は?」
途端にソフィアに愛想良く微笑んでサッと手を掴んでくる。なんというか、あからさまに態度が違う。クレイルは祐一と一度目を合わせると、祐一もそう感じたのか軽く肩をすくめて見せた。
ソフィアはダルクの態度にはあまり気にした様子はなく、差し出された手を握り返してつづける。
「私はソフィアよ。ところで、吸血鬼って、昼間はほとんど動けないって聞いたけど?」
「ああ、まぁ一般的にはそうなんだが、俺様は違うぜ。何せ、光を克服した吸血鬼だからな!」
「そんなん居るの?!」
その言葉に驚いたような声をあげたのは祐一だ。
ダルクはそちらをちらりとみて、得意げに笑って見せた。
「居るんだなぁこれが!もっとビビってくれていいぜ!」
がははは、と胸を張って笑い声をあげるダルクに、クレイルはどういう反応をしたらいいかわからない。だが、それが事実なのであればすごいことなのではないだろうか。
「いやいや、光を克服した吸血鬼ってほぼチートじゃん。いちゃだめだろそんなの」
「ふっふっふ、お前は俺様のすごさがわかっているじゃねぇか」
「でもなんか腹立つな」
祐一がダルクを見上げながらそんな身もふたもない発言をしているのを横目に見つつ、クレイルは、荷馬車へ視線を移す。
影のほうで光の下に出ることを一切拒否しているうちの吸血鬼は、不機嫌なままちらりともこちらを見なかった。
「おや、そっちのシャイなお嬢さんのお名前は?」
「あ、ちょっ、彼女は……」
そして、クレイルの視線の先に気が付いたダルクが、ジャンヌの方へと向かって話しかけに行く。彼女は、軽率な男が嫌いだったのではないかと思って、制止するかどうか迷っている間にも、ダルクは距離を詰めていってしまう。
「その耳障りな口を今すぐ閉じなさい」
そして案の定、ものすごく辛辣な言葉を浴びせられていた。
だが、ダルクはその程度ではめげるようすもなく笑顔を浮かべる。なんというか、いろいろな意味で強いのかもしれない。
「またまた、そんな強気なところも悪くないな」
「ちっ」
「君のことは何て呼んだら……」
と、その顔を覗き込んだ時にダルクの動きが止まる。
ジャンヌが見上げるようにダルクを一瞥、にらみつけるように見た瞬間、ダルクが飛びのいた。
「げげぇ!ジャンヌさん?!」
先ほどのノリから一転、ジャンヌの顔を確認した瞬間に怯えたように距離をとる。
「えっなに?知り合い?」
祐一が戸惑うように言っているが、クレイルも同じことを思っていた。
どうやらジャンヌとダルクは顔見知りらしい。ちょっとどういう関係性かはわからなかったが、ジャンヌがダルクを嫌っているらしいこと、ダルクがジャンヌを苦手そうなことはわかった。
吸血鬼というやつは個体数が多くなく、能力値によって上下関係が厳しいようだから、関係性はともかく二人が知り合いであることはおかしくないのだろう。
クレイルは一度ダルク周りから視線を外して、もうひとり、少し離れたところにいるエルの方に目を向けた。
こちらはこちらでどう接したらいいかわかりにくいタイプだった。自己紹介を一言したきり、とくに会話に混ざることもなくそこに立っている。
「ええと、エル、さんは」
「エルでいい」
「じゃあ、エル、ええと、僕はクレイル、このパーティのリーダーをしてます。一応」
何を話したらいいかわからず、とりあえず自己紹介をする。
エルはちらりとクレイルを見た、と、思う。何せフードでほとんど顔が見えないのだ。
「知ってる。フォルテヴァラ、銀1のパーティ、だろ」
「あ、知ってるんだ?」
「共同任務の相手のことくらいは調べる」
「そ、そっか、よく調べてなくてごめん……?」
準備が良い人、なのかもしれない。逆に自分たちが準備が足りないという指摘にも思えてクレイルは思わず謝罪をする。一方のエルはあまり気にした様子はなかった。
「構わない。お前たちの話は、割とハイトでは聞きやすかっただけだ」
それだけ言って馬車の方へ歩いていく。口数があまり多くない人なのだろうか。その態度と、ややぶっきらぼうな口調からそう判断して、クレイルはエルを見送る。
なるほど、最初に挨拶をしたのがこの二人なら、あの騎士の態度がああなるわけだ。
かたや不愛想な剣士、かたや女好きの吸血鬼。
「大丈夫かなぁ……これ」
なんだか、この護衛、とんでもない共同任務になりそうだった。




