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―― 似てるな
混み合った市場の中を通りながら、相手の顔を一瞥する。
兄弟だと言われても信じるくらいには、よく似ていた。違いはこいつの方が胡散臭い感じがすることだろうか。笑顔を浮かべていても、何か企んでいる様に見えてしまう。
「どうかしたかい?」
「いえ、別に」
顔立ちは整っている。なんせジルベールに、そっくりだからな。
微笑みを浮かべていて、表情からは悪意は感じられない。だというのに、何故だろうか。こいつを信じたら駄目感が、半端ない。
―― ここらで、良いか
話があると言われいたが、市場の中だと人が多すぎてできない。だからとりあえず市場から、出ることにしたんだ。ここら辺なら端に寄って、話をしても通行の邪魔にならない。
「それで話って、何ですか?」
「この国に来たのは、初めてなんだ。案内してくれないか」
返ってきたのは、やっぱり胡散臭い笑みだ。
それにしても何故、会ったばかりの俺がジルベールの従兄に町を案内しないといけないのか。そもそも俺は、コミュ力ゼロだぞ。初対面の相手に、何を話せと言うんだ。初対面の相手をしながら町を案内するなんて、高度なスキルは持ち合わせていない。
「話があると、言ってませんでしたか」
観光ならジルベールに、案内してもらえと言外に込めて返す。けど笑みを返されて終わった。
あれか美形だからとりあえず笑顔を作っておけば、要求が通ると思っているのか。そんなわけあるか。俺は男の単体には、興味が無い。
俺は主人公であるロイと攻略キャラの萌えが、見たいのであって男がどれだけ美形でも単品に用はない。今すぐに、出直せ。
「歩きながら話すよ。少しでも長く、君といたい」
「手短に、お願いします」
いくら要求を通そうとごり押しでこようと、萌えセンサーに引っかからない男からの頼みなど引き受けうる気は毛頭無い。
「俺の事は、嫌いかな?」
「嫌うほど関わりも、興味もないです」
―― しつこい奴だな
俺には腐男子友達なんていなかったから分からないが、もしかしたら美形が一人いれば萌えの宝庫になる人もいるかも知れない。だがあくまで俺は主人公と攻略キャラのワンセットでないと、萌えを見いだせないんだ。
「君は面白い子だな」
「初めて言われました」
面白さなんて何処にもないだろうに、目を細めてくる。
モブで顔面の差分が、極端に少ない。もちろん愛想笑いなんて、できもしない。コミュ力は、ゼロだから面白い話もできない。三大無いの要素を持つ俺を、面白いなんて言う奴は初めてだ。
本当に思ってるのか、馬鹿にしているのか。どっちなのかは、分からない。ジルベールがいれば、分かったかもしれないがいないから判別のしようもなかった。
「……特に面白いところを知っているわけではないですけど、それでも良ければ案内します」
顔でごり押してくる相手は、どうやって退ければいいのか考えてどうにもならないという結論に行き着く。少し考えて、思い出したんだ。友達になる前のジルベールが、こんな感じだったことを。
人が本を読んでいるのに邪魔をするなと言っても、話を聞かずに笑顔浮かべて傍に座ってきた。あの頃のジルベールに、目の前のこいつが少しダブって見えた。嫌な共通点を、見つけてしまった。
今はそんなことはないし関係性も友達に変わったから、俺もそんなに嫌だと思っていない。けどそれは友達になったジルベールに対してであって、こいつには当てはまらない。
けどあの頃ジルベールが何を言っても自分の要求を通してきたように、こいつも同じようなものだと思う。ならさっさと町を案内して、こいつの話とやらを聞いて終わらせた方が早いと判断した。
適当に町を案内しながら、何か聞かれれば答えていく。こっちから話しかけたりはしない。
「ジルベールとは久しぶりに会うんだけど、どうかな。上手くやれてるのかな」
久しぶりに会うのなら、なぜ赤の他人に案内させているのか。ジルベールは嫌そうな顔をしていたけど、会いに来た従弟に案内させれば話も出来るだろうに。なぜ俺にした。
「そうですね。いつも愛想がよくて、周りに人がいます」
本人に聞いたら良いと返そうとしたが、聞いた答えが返ってくるまで追求されそうだから止めた。
質問の答えに幅がありすぎるから、少し考えて無難な答えを返す。
異性だけという言葉は、飲み込んだ。従兄に同性ボッチって、暴露されるのは嫌だろうから話さずにおく。俺がジルベールの立場だったら久しぶりにあった従兄に、そんなことをバラされたくない。俺はコミュ障だが、人の気持ちを考えるくらいはいできるんだ。
「へえ、ここじゃそうなのか」
なんか含みのある笑顔を、浮かべてきた。
さっきまでは胡散臭いなりに人の良さげな笑みを、浮かべていたのに別のものに変化した。どっちにしろ好ましいものじゃない。
―― ああ、早く帰りたい
ジルベールは、どこにいるんだ。嫌だろうが責任を持って、引き取ってくれないだろうか。
「ここに来る前は、無愛想で人を寄せ付けなかったけどな」
なぜだかいきなり本当のジルベールは、こうなんだぞアピールをしてくる。一体なにが、したいのか。
俺の方が実は、ジルベールのことをよく知ってるぞと自慢でもしたいのか。いやこいつは、親戚なんだから当たり前だな。ということは、別の意図があるということになる。
―― 何が言いたい
コミュ力ゼロの俺に、言わなくても察しろなんて通じないからはっきりと言ってほしい。
「君に見せているジルベールの姿は偽りってことだけど、それについてはどう思う?」
「別に、どうも思いませんが」
同性ボッチだと思ってたら、真性ボッチであることが確定しただけだ。どっちにしろ同じボッチだろう。それに俺だって、ボッチだ。筋金入りのな。
まあジルベールと友達になったから、ボッチは卒業した……はずだ。どちらにしろボッチ歴は長い。
だからいきなり現れた友達の親戚に 実はあいつボッチだったんだよねと、暴露されて何も感じない。一体何を、思えと言うのか。
陽キャラに見えるジルベールが、ボッチだったことに驚いた振りでもしてやればいいのだろうか。面倒くさいから、そんなことはしたくない。
「本当に?」
「誰だって、色んな顔を持っているものでしょう。見ていた一面が違うからと言って、本質まで変わるわけじゃない」
いつも誰にでも同じ顔して態度で言葉遣いで、なんてそんな奴いない。ジルベールが母国で無愛想で、こっちに来てからボッチ解消のために愛想を良くしていたってきっと本質は変わらない。
俺が本質というか根っこの所まで、腐男子あることと同じだ。うんそうだ、何も変わらない。
「そう。ジルベールは、良い友達を持ったね」
―― 絶体に、思ってないだろう
なんだろうか、さっきから嫌な目だ。見た目はジルベール+5歳で、ほぼ一緒だ。なのになんでだろう。こいつの見せる表情が、向けてくる目が不愉快極まりない。
「ところでジルベールというか、一族はかなり裕福なんだけど」
「はあ……」
いきなり話が、変わった。脈絡が、なさ過ぎる。もしやこいつ顔に似合わずコミュニケーション下手なのか。どうするんだ。コミュ障が二人揃っても、フォローしてくれる相手はいないぞ。なんでコミュレベル99のジルベールを、連れてこなかったんだ。
「あいつ君に、なにか贈り物をした?」
「花束は、もらいましたけど」
ただでさえ上手い返しなんて出来ないのに、意図が読めないと碌に返せもしない。どうすれば良いのか考えている途中で、また聞かれて答える。
「それだけ?」
「あとは茶葉を、もらったことはあります」
「ふーん、何か今欲しいものある?」
「術に関する学術書くらいですが……」
何の会話をしてるんだ。なんで出会ったばかりの相手に、欲しいものが何かなんて聞かれてるのか。
「本一冊じゃなくて、本屋まるごと買えるよ。ねだってみたらどうかな」
「……」
なんて返すべきか、答えに窮する。
何処の世界に同じ学生という立場にいる相手に、本屋まるごと買ってくれと頼む奴がいるんだ。恐喝レベルを、超えてるぞ。
欲しいものなら自分で買う。今のところ借金返済で、財布が軽いどころか宙を舞っているから無理だ。けどジルベールに、たかる真似なんてするわけないだろう。もしや俺のことを、欲しいものがあれば恐喝して手に入れる奴だとでも思っているのだろうか。ムカついたから、欲しければ自分で買うとはっきりと伝えた。
「じゃあ術に関して、ジルベールを頼ったら? アイツ才能があるしなんせ二つの適性持ちだ。君がねだればなんでも協力するよ」
―― さっきから、なんだ
大体なんだねだるって、これでもジルベールと友達だぞ。いくら顔面偏差値に差があろうが、コミュレベルが天と地ほど違おうが友達なんだから対等だ。もし協力を頼むことがあっても、ねだるなんてしない。
言葉の端々に、苛つきを覚える。一々なんでか、こうわざと挑発されているというか悪意を感じる。一体こいつは、何をしたいんだ。
―― もしや喧嘩を、売られてるのか?
この場合は、どうすれば良いんだ。
話がしたいと言うから付き合った。正直に言えば無視しても良かったけれど、ジルベールの従兄だからそこも加味したんだ。だがその話とやらが、これならもう付き合わなくても良い気がする。一応は相手をしたのだから、ジルベールにもそう話そう。
ただ口が上手そうな相手になんて言って、かわせば良いのか。
とりあえず視線で何が言いたいのか問えば、返ってきたのは同じ胡散臭い笑みだった。




