10 おっさん視点
「ゴーディ、ゴーディいないのか?」
「……」
今日は店の休みの日だ。ちょっとした片付けやら、掃除やら仕込みをしようと、店で作業をしていた。なんの邪魔もはいることなく予定通りに進んでいたんだが、なんか聞き慣れた嫌な声が耳に届いた。
「しょうがない。壊すか」
「おい待てっ! 普通は、いないなら帰るだろうが! 何で壊すか、になるんだよ!」
しばらく店の扉を、叩いていた音が消える。そのすぐ後に聞こえてきた言葉に、血の気が引く。冗談ではなく、言葉通りの行動をとるのが分かったからだ。
焦って扉を開ければ、予想通りにヴァルゼーエンの野郎が立っていた。
「なんだ、やっぱりいるじゃないか。なんで居留守を使う?」
「居留守使われた時点で、拒否されてるって気づけ。相変わらず察するのが、苦手な野郎だな。って、おい入るな勝手に! 今日は休業日だ!」
全く人の言うことを、聞きやしない。止めるのも聞かずに入ってきて、椅子に座りやがった。まったくなんて、奴だ。
「お前の店は不定期で、やっているか、休みなのか分からないだろう。なら今日は開ければ良い」
「飲みものくらいなら出してやるから、飲み終わったらさっさと帰れよ。……今日はガキは一緒じゃ無いのか。ってなんだ気持ち悪い顔しやがって」
何をどうしたら『なら開ければ良い』に、なるのか。意味が分からねえが、こいつは昔からこんな奴だ。今じゃ商売なんてやって、外面良くやっているらしいが中身は変わらねえ。
こっちの言うことを、大人しく聞くわけがない。分かっていたから妥協して、飲み物だけ出してやることにした。ついでに軽く話を振ると、あからさまに笑顔になった。
「気持ち悪くない。良いから此処に座れ」
「我が物顔で振る舞うな。ここは俺の店だ」
椅子を引いて、まるで店の主のように振る舞う。言っておくがこの店は、俺の店だ。自分で場所も探して、金を払って建てた俺の小さな城だ。
なんて言ったところで、こいつは聞きやしねえ。早く帰すには、言うことを聞くのが一番早い。
「――と、言うわけで、レイザードが友達を家に招いて、夕食を共にしたんだ。喜べ」
「俺が喜ぶ要素は、ないだろう」
良くまわる口で話してきたのは、あの子供に友達が出来て、その友達と夕食を食べた。文字にすると短いモノを、色々と付け加えながら長々と話してくる。
「薄情な奴だな」
「休業日にいきなり来て図々しく居座るお前の相手を、してやっている俺にどの口が言ってんだ」
図々しい上に、常識が無い。けど救いがたいお人好しだ。でなければ、あんな危ない橋を渡るわけがない。
分かっちゃいる。良いところもある奴だ。ただそれと俺の休日を、邪魔する事は関係ない。
「今日、営業してないお前が悪い」
「お前、もう少し常識とか気遣いとか、持ったらどうた?」
ついても何の効果も無いと分かっている溜息が、出そうになる。
あの子供が溜息の一つでもつけば、こいつは心配するんだろう。けど俺が同じ事をしたところで、こいつが態度を変えることは無い。こいつは、そういう奴だ。
「俺は、常識的だろ」
「お前、常識の意味知ってるか? あの子供に今の図々しい姿を、見せられるなら胸を張れ」
―― 叩きだしてやろうか
一瞬、浮んだ考えを、直ぐに消す。力ずくでやったら、痛い目を見るのは俺の方だ。せっかくの休みに、怪我をしてたまるか。
「見せられるわけないだろう。教育に悪い」
「悪いって思ってるなら、態度を改めろ。……お前、いつまで親代わりやってるつもりだ」
真顔で言い切るヴァルゼーエンに、今度こそ溜息をつく。
ついでにと言葉を続ければ、僅かに目が細まる。
出会ったとき、こいつは一人だった。まあ初対面の場所が、場所だ。危険だから連れてこない可能性もあったが、しばらく行動を共にしていても一人は変わらずだ。
二度目にあったとき、子供を一人連れていた。なんとなしにこいつの人となりを知っていたから、なんか面倒を抱えたのかと思えばそのとおりで――
「俺は、託されたんだ」
「だから何時まで子供扱いして関わってんだ。もうガキもいい歳だろ。幾つだったか」
時々店に来る子供の姿を、思い浮かべる。成人はしてねえだろうが、もう幼い子供でもねえ。
「15から17位だと……思う」
「あやふやだな」
「しょうがないだろ。年齢幾つなんですか、なんて聞いていられる状況じゃなかった」
自信なさげに話すヴァルゼーエンに返せば、目を伏せて言葉を濁す。
詳しいことは、聞いてはいない。ただこいつの言葉通りだっただろう事は、考えなくても分かった。
「それより、これからレイザードに友達が増えた時の為に、もてなし用に作れる料理を増やしたいんだ。なにか教えてくれ」
「何度も言うがな、今日は定休日だ。俺の休みの日なんだよ。帰れ」
話を続けたくねえってのが、見え見えだ。あからさまに話を、変えてきた。
全く誰が休日に、そんな面倒くせえ事を――
「おい勝手に、いじるな! あっそれ高かったんだぞ!」
誰がやるかと心の中で吐き捨てていたら、勝手に調味料の棚をいじり始めやがった。
腹は立つ、立つが、放っておいたら俺の聖域が荒らされる。
だからしょうがなく、そう嫌々ながら料理を教えるために立ち上がった。




