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―― 嬉しそうだな
狭いテーブルに、沢山の料理が並んでいる。全てヴァルが、作ったものだ。
中庭でジルベールの好物を聞いて、ヴァルに伝えた。買い出しを手伝おうとしたけど、もの凄く嬉しそうな笑顔で断られる。
いくらなんでも三人分の材料を、一人で買うのは無理だ。ついていこうとしたけれど、スキップしそうなテンションで出て行ったからそのまま見送った。
「とても美味しいです」
「それは良かった。どんどん食べてくれ。レイザードも」
「ああ」
料理を勧めてくるときも、俺とジルベールが話をしているときも、ずっと始終笑顔を浮かべている。
こんなに嬉しそうにしている理由は、俺がずっとボッチだったからに他ならない。友達だと誰かを紹介したのもジルベールが、初めてだ。
―― ずっと気にしていたのかもしれない
やることと言えば術の研究に稽古だけで、子供らしく友達と遊ぶこともしない。そんな俺を気にかけてくれていたのだろう。ありがたいと同時に、申し訳なくもなってくる。
「それ、まだ苦手なのか?」
「苦いだろ……食べる」
皿に残っているものに、ヴァルが気づいて指摘してくる。少し苦みがあって、苦手な香草だ。別に食べられないわけじゃない。ちょっとだけ、苦手なだけだ。子供じゃないんだから、食べられる。
『ちゃんと、食べなきゃだめよ』
『だって苦いもん……』
―― なんだ?
いきなり砂嵐の耳なりのような音が聞こえる。そのあとに、女の人の声が聞こえてきた。続いて子供の声だ。聞き覚えがある。前に見た夢だがバクだかわからないもので見た。親子だ。
『――、それが苦手なのか?』
『うん』
また聞き覚えがある声だ。子供の父親だったはず……
なんでこのタイミングなんだ。今は食事中だぞ。さすがに時と場所を、選んでくれないだろうか。
『そうか、でもそれを食べると良いことがあるぞ。父さんみたいに大きくなれる!』
『本当!?』
絶対に嘘だろうって思うけど、子供は信じたみたいだ。声が明るくなった。
『ああ』
『じゃあ、食べる!』
勢いよく子供が、苦手らしい野菜を口に入れる。知らない野菜の苦みが、口全体に広がる錯覚を覚えた。
「なっ泣くほど嫌だったのか!? ほら皿に、出していいから!」
「レイザード大丈夫かい? 水を飲む?」
ヴァルの声の狼狽した声が聞こえる。それと同時に親子の会話も、聞こえなくなった。耳障りな耳鳴りも、消えている。
―― 泣く?
意味が分からなかったが、焦った様子で皿を差しだしているヴァルと、心配げな表情をしてジルベールがこっちを見ている。状況から言って、俺が泣いているということらしい。
確認のために顔に手を当てると、濡れているのが分かった。どういうことだろうか。もしかしてあのバグが発生すると、脳にとってストレスなのか。
「思いのほか苦かった。ヴァル大丈夫だ。ジルベール、水をもらえるか」
「うん、はいどうぞ」
食事をしていたら、いきなり涙を流したんだ。ヴァルじゃなくても驚く。とりあえず苦手な香草を食べたからだと思われているから、変な言い訳をせずにのることにして答える。
「皿によそった分は、残していいからな」
「……大丈夫だ。食べる」
「レイザード、誰にも苦手なものはあるから、残しても良いと思うよ」
言い訳をしなかったせいでもあるが、完全に苦手なものを食べて泣いたと思われている。恥ずかしい、もの凄く恥ずかしい。ヴァルには完全に子供扱いされている気がするし、ジルベールの気遣いが気恥ずかしさに拍車をかける。
だが此処で違うと否定すれば、じゃあなんて泣いたんだって話になる。そうすると適当な理由が思いつかない。
―― もしかしてバグのせいかも、なんて言えないしな
頭がおかしいと思われるだけならまだしも、ヴァルは心配性なところがあるから言えない。ジルベールにしても、心配かけたくないしな。
―― だが厄介だな
バグの発生なんて、モブにはどうしようもない。そしてモブの都合なんて、全くお構いなしにバグが発生する。ということは店を開いているときにも、起きるかも知れないということだ。頭が痛いだけならまだしも、接客中にいきなり泣いたら目も当てられない。
うん、そうだ、こうやって頭が重くなるだけなら、まだしも――
「レイザードに、友達が出来て嬉しいよ。ずっと仲良くしてあげてくれ」
「はい、もちろんです」
―― あれ?
二人の声が上から、聞こえてくる。どういうことだと思ったが、自分がテーブルに突っ伏して寝ていることに気づく。
たしか食事が終わって、しばらく話をしていた所までは記憶があるんだが――寝たのか。友達を家に招待して、寝たのか。最悪だな。
突っ伏したまま後悔する。なんか俺の事を喋っているし、タイミング的に起きづらい。
「この子には、幸せになってほしいんだ」
ゆっくりと、頭を撫でられた。
なんかしんみりした空気を感じる。聞こえてきた声に、ヴァルに予想以上に心配をかけていた事を知る。なんかもう、親目線だ。
―― 今、起きるか
まさに今、起きましたという体で、顔を上げよう。そうしよう。
『すまない』
―― 短時間、過ぎないか!?
腕に力を入れようとしたときだ。声が聞こえた。
『辛い記憶なら、いっそ……』
黒い、真っ暗な闇が広がる。けど恐怖はない。
『君の名前は、レイザードだ』
知ってる。ヴァルとのファーストコンタクトだ。
―― なんだ、バグじゃないのか?
そうヴァルと、初めてあったときの場面だ。けどなんだ、さっきの謝ってきた声も、ヴァルの声だったような気がする。もしかしてその前に、会っているのか?
辛い記憶――そんものない。好きなゲームの世界に来れた。バグは続いてるけど、それ以外は何も嫌なことはない。ドラゴンに丸焼きにされたことはあるが、生きているから問題ない。騎士とか王族とかに、関わったけど今は問題ない。借金があるけど生活していけるし学園にも通えてる。萌えの供給が少ないけれど。妄想で補完してなんとかしてる。こればかりは、ロイと攻略キャラの都合もあるしな。
もしかして最後のは俺の記憶で、あとはバグだろうか。俺じゃ無い誰かとヴァルが、話して――いや会話をしてない。ヴァルの声しか聞こえなかった。相手は誰なんだろう。これも先生の記憶なのだろうか。そうなると先生とヴァルは、知り合いと言うことになる。 ―― 今度、それとなく聞いてみるか
―― 今考えたところで、何も分からないしな。
タイミングを逃した気がするけれど、いつまでも狸寝入りをしているのも気まずい。起きたら寝たことを謝って、あとヴァルに礼もして、招いたのだからジルベールを送って行こう。
色々と頭の中で考えてから、重くなった頭を起こした。




