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「ここなんですが……」
「ああ、ここか」
―― 普通に、話をしてるだけだな
ロイの後を追うと、廊下でサイジェスといるのが見えた。物陰に隠れて様子を伺うが、イベントが起きそうな空気は全くない。
離れた所にいるから、はっきりとは聞こえない。だが所々で聞こえてくる単語で、さっきの講義について質問しているのが分かった。
―― 早合点だったか。
頭の中で乱舞していた萌えと言う文字が、一つ一つ消えていく。それにともない上がっていたテンションも下がっていた。
―― いや、待て
がっかりするには、まだ早い。確かにイベントは起きなかったが、ロイ自らサイジェスに関わりに言っている。ということは少なくとも、悪い感情は持っていないはずだ。
ならば今はまだイベントが起きるほどの好感度に、達していないだけかもしれない。
現状はきっとイベントが起る前の好感度が、上がっている最中に違いない。イベントは起きないけれど、こういう小さな積み重ねが萌えイベントに繋がっていくんだ。きっとそのうち萌えを摂取できる日がやってくるはずだ。きっとそうだ。
―― がんばれ、ロイ
俺もイベントが起きるまで、自家発電で頑張るから。この世界に来てロイと出会うまでに、かなりの年月を要したんだ。あと少しくらいなら、頑張れる。きっと素晴らしい萌えを、提供してくれることだろう。
期待を胸にそっと心の中で声援を、送りながら背を向ける。
―― 急ぐか
そんなに時間は経っていないが、腹を空かせいるかもしれない。先に食べて入れば良いけれど、ジルベールは律儀なところがあるから食べずに待っていそうだ。
廊下を早歩きで、進む。走った方が早いけれど、誰かにぶつかったら危険だ。それと持ってきた弁当が、シェイクされたらとんでもないことになってしまう。
―― 良い匂いがする……
競歩のように速度を上げていると、なんとも食欲をそそる匂いがした。ここからだと食堂が、近いからだろう。学園にある食堂は、安くて美味しい。あと売店も、お得な値段で財布に優しいんだ。
だがいくら財布思いの値段だからって、買えば財布は軽くなる。借金がある身としては、なるべく節約したい。だから弁当を、持ってきた。
「待たせたな」
「そんなに、待っていないよ。用事は、もう済んだの?」
中庭までたどり着いて、辺りを見渡す。直ぐに見つかったジルベールの所まで、行って声をかけた。
「ああ、済ませたきた。何も買って来てないのか?」
「レイザードが買いに行くなら、一緒にいこうかと思ってね」
テーブルの上には、何ものっていない。てっきり食堂か売店で、買ってきているのかと思ったが予想が外れた。
「……持ってきたものがあるが、それで良ければ食べるか」
「えっ、嬉しいけど、君の分が減っちゃうんじゃ……」
今から買いに行くと、混んでいて時間がかかる。そうすると食事にありつけるのが、だいぶ遅くなってしまう。俺を待っていたせいで、腹を空かせるのは可哀想だ。持ってきた弁当を、テーブルに置きながら尋ねると少し眉根を下げたのが見えた。
「多めに詰めてきたから、問題ない。口に合うかは、分からないが」
「レイザードが作ったのが、美味しくないわけないよ」
「……そうか」
なぜかとても嬉しそうにしている。
俺が作ったのは、適当に野菜を切っただけのサラダだけである。メインのおかずは、ヴァルが
持ってきてくれたものの余りを詰めたものだ。
―― なんか言い辛いな
もしかして友達と弁当を食べるのが、始めてなのかもしれない。喜んでいるところに水を差す気にもなれなくて、心の中でヴァルに謝って言うのは止めた。
―― そうだ、ちょうど良いな
ヴァルにジルベールの好きな料理を、伝えないと行けない。せっかくだから感想を聞いておこう。そうすれば少なくとも、この料理に関しては好き嫌いが分かる。
―― 野菜が、好物なのか?
食べ始めてから美味しそうに食べるジルベールを見て、ヴァルに申し訳なくなって本当のことを話した。特に気分を害してもいないようだし、ヴァルが作った料理も気に入っているようで問題はない。
ただ俺が切って詰めただけの野菜まで、美味しいと食べているのが気になる。本当にただ切っただけだ。いつもよりゆっくりしていたから、時間がなくて余った隙間に野菜を切って詰めたんだ。
確かに市場で、買った野菜は美味しい。新鮮だし余ったら凍らせているから、鮮度も落ちてない。けどそこまで喜ぶのかってほど、嬉しそうに食べているのが気になる。
―― もしかして、金がなくて食事ができてないのか?
そんなわけないか。ジルベールは、金持ちだから食材が買えなくて食べられないなんて事はないだろう。
「どうかした?」
「いや……野菜好きなのか?」
どうも凝視してしまって、いたらしい。不思議そうに、こっちを見ている。
ちょうど良いから、聞くことにした。本人に聞けば、悩まなくて良い。
「うん、好きだよ」
「そうか」
ただ野菜が大好きなだけったらしい。
こんなに喜ぶほど好きなら、ヴァルに大量にサラダを作ってもらうことにしよう。きっと喜ぶ。そこまで考えて肝心のことを、聞くのを忘れたいたことを思い出す。
「ところで、前にヴァルが食事を一緒にって言っていただろう。都合が良い日を教えてほしいそうだ」
「今日でも明日でも大丈夫だよ。君の為ならいつでも予定を空けるから」
友達の家に招かれて食事をするのが、初めてなのかもしれない。目を細めて嬉しそうにしている。
―― 俺もか
そもそも俺もボッチだから、友達を招いて食事をするなんて始めてだ。ボッチ同士でお互いに、初体験というやつだな。
喜んでもらえるように、俺も手伝うか。
始めて友達を招いての食事を楽しみにしていることを、自覚して少し気恥ずかしい気分になった。




