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「いってええ!」
俺が構築した氷の壁を殴りつけたチンピラが、声を上げる。
魔力で強化をしてない急造のものだから、ヒビが入って砕けた。けどジルベールの思い人が殴られるという状況を、回避するために出したものだから問題ない。
「あの後は俺が相手するので、もう行って大丈夫ですよ」
男とジルベールの思い人の間に体を滑り込ませて、前を向いたまま声をかける。強化してないから大した硬さもないのに、よほど痛かったらしい。涙目になっている男は、大人しく立ち去りそうにない。
「あの失礼ですが、レイザードさんですか?」
「……そうですが」
―― なんで俺の名前を知っているんだ
立ち去る気配のない後ろにいる存在に疑問を抱いていると、なぜか名前を呼ばれた。思わず振り返りそうになって、なんとか堪えた。いきなり人を殴ろうとするやつ相手に、背中を向けたくない。
ジルベールに聞いたのかもしれないが―― いや今は、そんなことどうでも良い。早くいなくなってほしい。ジルベールの思い人が、怪我でもしたら一大事だろ。
「ああ、良かった」
「てめえら、無視してんじゃねえ!」
―― 何が?
すごくマイペースな人なのか、それとも状況判断が壊滅的なのか。どちらかわからないが、この場にふさわしくない穏やかな声が返ってくる。
ほぼ同時に声を荒げた男が、掴みかかってくる。避けると何故かまだ後ろにいるジルベールの思い人に、危害が及ぶ。だから避けずに構築していた術を放と――
「えっ……」
男の手が届く前に、風が吹いたのを感じた。同時に男が、勢いよく天高く上がっていく。俺と同じく状況が掴めてなかったらしい男が、かなりの高さになってから悲鳴を上げたのが聞こえた。状況が状況だから気持ちは分からなくもないが、あまりにうるさくて思わず耳を塞いで――
「あっ」
上昇が止まったと思ったら、そのまま落下した。
―― いや、まずいだろ
男は気絶してるのか、何も動きを見せない。このまま地面に激突したら、いくらモブが意外に丈夫だからって下手したら死ぬ。
殴りかかってくるような奴など、正直どうなろうとしったことではない。そう知ったこっちゃない。けど死んでもいいとか、思ってるかと言われてると違う。あと単純に、グロテスクなことになる現場を見たくない。
―― 氷……は、駄目だ
術で氷を構築しようとして、まずいことに気づく。勢いよく落下している状況で、氷で受け止めてもダメージがでかい。落下している格好をみても、下手したら首の骨を折りかねない。でっかい氷の水槽作って中に、水を―― いやあの落下速度だと、水でもコンクリートと同じような硬さになる。
―― 詰み?
頭の中にグロテスクな状態になったモブの姿が浮かんで、嫌すぎてすぐに追い出す。
迷ってる時間がない。急いで上肢を強化した氷で覆って、受け止めようと構える。
―― 止まった?
衝撃を覚悟していると受け止める直前で、落下が止まった。ほっとしてそのまま受け止めて、道路に転がしておく。もう知らん。モブはモブらしく背景に溶け込んでいろ。
「あの驚かせてしまって、申し訳ありません。ちょっと力が入ってしまって……」
「いえ……」
目の前の状況に気を取られすぎて、ジルベールの思い人から意識がそれていた。声をかけらえて、振り向く。どうやらさっきのグロテスク一直線のジェットコースターは、ジルベールの思い人がやったらしい。
目の前にいる人は優し気で、とてもさっきの状況を作り出したように見えない。
「助けて下さって、ありがとうございます」
「……怪我がなさそうで、良かったです」
―― 助けいらなかったような気がするけど
ただジルベールの思い人が絡まれてる状況で、見て見ぬふりする選択肢はなかった。
本当に気まずげな表情を浮かべている。俺は俺で、まだ少し混乱してる。
なんとも言えない空気のまま頭を下げれて、俺もつられるように返した。




