36<ラージヴァル>視点
『どうしたの?』
『レイザードが、いたんだけど……』
話をしているとき、ジルベールの顔が輝く。そのまま腕を上げて手を振ろうとしていたけれど、すぐにおろしてしまう。理由を聞けばレイザードさんが、ジルベールがいることに気づいていたようだけれど行ってしまったという。
―― まさか
そこまで聞いて、少し嫌な予感がした。前にもというか今まで、何度もあった。ただ普通に話しているだけで相手の恋人が勘違いして、喧嘩や破局寸前まで行くことがあった。全て僕の女顔が、原因で―― 兄さんは、父さんに似ている。そして僕は母さん似だ。どうやったらそんなに、完全に分けられるのかってほど両極端な似かたをしている。
僕の要因に加えて、さっきのジルベールはレイザードさんを思い笑顔を浮かべ、顔を赤らめ―― もし遠目に見て、それが僕に向けられているものと勘違いしていたら。
―― あっ、最悪
血の気が引く。今まで散々そんな目にあってきて、恋人同士のいらぬ諍い巻き込まれてうんざりすることも多かった。なんなら勝手な憶測で勘違いしてないで、恋人である本人に確かめてほしいとも思ってた。むしろ僕を巻き込まずに、勝手にやってくれとも思ってた。
―― けど
その他人たちと、ジルベールを一緒にする気にはなれない。
『顔色悪いけど、大丈夫?』
『あのジルベール、万が一万が一なんだけど……』
誤解されてないなら、それでいい。僕の早合点で、笑い話になるだけだ。けど考えた通りなら、取り返しがつかなくなる前に誤解を解きたい。
理由を説明してレイザードさんの特徴を聞いてから、駆けだした。
―― どうしよう
凄く引かれている気がする。
助けてくれた人―― レイザードさんが殴られそうになって、思わず力が入りすぎた。
自分が絡まれているときは、ちょっと風の力を使って浮かせる程度にしようと思ってた。
質の悪い人に絡まれたからって、大事にする気もない。それより早くレイザードさんを見つけたかった。
だからなるべく穏便に済ませようとして、なのに相手は助けてくれたレイザードさんを殴ろうとする。
ジルベールが好きになった人
周囲に失望すら抱いていたジルベールを、笑顔にしてくれた人、あんなに嬉しそうにしていた。そんな相手を傷つけようとされて、ちょっとだけ力が入ってしまった。
―― 物理的に殴った方が、良かったかな
術より物理攻撃のほうが得意だ。見た目の印象と違うっていわれるけれど、繊細な術の構築は苦手だしなんなら術を構築する前に相手を物理的に倒す方が得意なんだ。
でも風で空にあげるより、殴った方が視覚的に色々とあれな気がする。手加減が下手だから、服の上から見えるとこだとどんな惨状か見えてしまう。それはそれで、引かれる気がする。
―― シュレイバーも、連れてくれたば良かったかな
涼やかに執事服を着こなしている彼の姿が浮かぶ。中身は全く涼やかではないけれど、見た目は清潔感があって真面目そうに見えて何も問題ない。
彼は色々と僕に対する感情面で問題があるけれど、他はなんでも器用にこなす。だから術の加減を間違って誰かを空高くあげたりしないし、もっとこう器用な感じで事態を回避できたはずだ。
でもちょっと近所についてきてもらうんじゃなくて、他国に行くことになる。手間も負担もかけるから、彼自身は連れて行ってほしそうにしてたけど置いてきた。
けどこんなことになるなら、連れてくれば良かった。兄さんとジルベールの話を総合すると、兄さんはレイザードに失礼なことをしている。心象は最悪だと思う。加えて僕だ。今の一連の行動で、危険人物だと思われてもおかしくない。
いや僕たちがどう思われても良いのだけれど、ジルベールに申し訳がない。失礼なのと危険なのが親戚にいるって思われて、距離を置かれでもしたら申し訳なくてしょうがない。
―― 兄さんが失礼なことしなければ、まだマシだ……失礼?
お礼は言ったけれど、名乗っていなかったことに気づく。僕のほうはジルベールから聞いた特徴に、名前を確認したから『ジルベールの好きなレイザードさん』だってことは分かっている。けど彼からしたら身も知らぬ危険人物に、名前を知られている状況だ。
慌ててけど確実に誤解が解けるように、従兄を強調して名乗り頭を下げた。




