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―― コミュ力を、高めた方が良いだろうか
だいぶ今更なことを、考える。
あのあと約束通りにジルベールと、昼食を共にした。ジルベールが何くれと話を振ってくれたのだが、上手く話を広げられない。ロイが相手なら良い感じに話が盛り上がりそうだが、残念なことに受け手が俺だ。そうもいかない。だいたい一言二言返して、終わってしまう。
それならせめて愛想良くでもすれば違うのだろうが、差分がないというモブ特有のしがらみのせいで笑顔も作れない。
いつも通りといえば、そのとおりで代り映えしない。だがバグのせいで俺を好きだと思ってしまっているジルベールが、一生懸命なのが伝わってくるから申し訳ない気持ちになってくるんだ。
―― 本屋に行くか
一緒に帰った時も、碌な返しができなかった。少しは努力を、したほうがいいかもしれない。バグが解消されれば、こんな悩みもなくなるが何時になるか分からない。毎回申し訳ない気持ちになるよりは、改善できるか分からないが努力することにしよう。
思い立ったが吉日というやつだ、無駄かもしれないという思いが浮かんだのを端に追いやって立ち上がった。
『相手が何をしてほしいか。表情をよく見て、察しましょう』
―― いったい何を、言ってるんだ?
思わず本を広げたまま、ツッコミを入れてしまいそうになった。
この世界はコミュ力が高い人の比率が多いのだろうか。はたまたリア充すぎて、人間関係に悩む人が少ないのか。やっとそれらしき本を店の片隅で、一冊見つけた。
いくら一冊しかないからと言って、参考にならなければ意味がない。少しは中身に目を通してから、買おうとしたらおかしな一文を見る羽目になった。
そもそもだ、相手のを表情を見て察せるくらいなら、コミュニケーション云々で悩んだりはしない。分からないから、コミュ力ゼロなんだ。
何なんだこの本は、まさかコミュ力MAXの人が、俺みたいなやつを憐れんで書いたのか。他のページも見たが、どこを見ても参考にならない。難易度が高すぎる。
―― 無駄足だった
ため息をつきたい気分になりながら、本屋をあとにする。きっとあの本はコミュ力レベルが50くらいの人向けなんだろう。俺のようにレベルゼロが、見る本じゃなかったんだ。
『レイザード』
嬉しそうに俺の名を呼ぶジルベールが、脳裏に浮かぶ。俺が『ああ』だとか『そうだな』くらしか返せなくても、浮かべてるのは笑顔だ。
―― バグが、発生しなければ
こんな俺のコミュ力がゼロなんて、今更なことで悩まなくても済んだというのに。そうだ。そもそもバグがおこるにしても、ジルベールが俺を好きになるなんてものじゃなければ悩まずに済んだんだ。
―― 意味が、ないか……
モブ風情がいくらバグが発生しなければと考えたところで、現状はなにも変わらない。
ジルベールは俺のことを好きなままで、俺のコミュ力は低いままだ。
―― 自力でバグ解消してくれたりは、しないだろうか
ジルベールが俺のことを好きだと思っていることに、疑問を抱いてはくれないだろうか。
それが切っ掛けで、一気にバグ解消なんて―― 無理か。
いくらジルベールが攻略キャラでも、出来ることと出来ないことがある。バグなんて対処のしようがない。だから今の状況なのだから。
―― あれは、ジルベール?
本屋から家に向かっているはずだった。なのに考え事をしているせいで、高級住宅街まで来てしまっていたらしい。自分に呆れながら戻ろうとしたとき、遠目にジルベールの姿が見えた。
―― 誰だ?
見たことのない相手と、喋っている。なんだか楽し気に、しているように見える。
誰なんだろうと考えて、ジルベールの人間関係をあまり知らないことに気づく。学園だと女子生徒に囲まれてるのと、あとはロイと話しているのは見たことがある。切っ掛けがあれだけれど、仲は良いほうだと思う。あとはあの胡散臭い従兄くらいだ。
―― あまりどころか、ほとんど知らないな
なんだかんだと関わっていたから、知った気になっていた。だがそうでもなかったらしい。
―― 別に、ちょっと陰から見るだけだ
やましい気持ちはない。なにも腐男子だからと言って、いつも腐っている訳じゃないんだ。
心の中で色々と言い訳を上げながら、見つからないように足を進めた。




