29
「ところでなんで、扉の前にいたんだ」
「一緒に行きたくて、誘いに来たんだ」
「ならさっさと、呼び鈴をならせばよかっただろう」
学園に着いた。受ける講義が違うから別々の場所に向かおうとして、気になっていたことを尋ねる。返ってきた答えに、首をかしげる。迎えに来たのなら、来たと知らせればそれで済む。なにもあんな扉の至近距離に、いる必要はないだろうに。
「約束してなかったし、迷惑かなって。あと調子に乗りすぎて、気持ち悪いと思われたら立ち直れ……」
「見知らぬ奴が誘いに来て扉の前で待っていたら怪しいし気持ち悪いが、お前が迎えにきて気持ち悪いなんて思うわけないだろ。今度来るときは、さっさと鳴らせ」
だんだんと小さくなって良く声に、思わず眉間にしわが寄る。ところでこういう時だけ、表情に出るのはやめてほしい。ジルベールが気にするだろうが。
思わず最後まで聞かずに、言葉をさえぎってしまった。なぜかやたらと後ろ向きなジルベールが、気にする前にそんなことは思わないと伝える。
「また誘ってもいいのかい?」
「かまわん」
「ありがとう」
短く返して、向けられた笑顔に良心が痛む。なんだ『かまわん』って。もうちょとこう、なんというか。穏やかというか、やわらかい感じとか、なんというかそんな感じに――無理だな。いきなり俺がコミュ力、普通並みになれるわけがない。
「あのレイザード良かったら、お昼を一緒に食べないか」
「周りに人が、いないところならいい」
口に出してから、後悔する。これだとお前と食事しているところを、人に見られたくないと言っているようにも受け取られかねない。
―― 間違っては、ないけれど
ジルベールは、もてる。とてつもなくもてる。そんなジルベールと、学園で生徒の目のあるところで食事をとる。いらぬやっかみを買うにきまってる。今までもあったけれど中庭の端っこにあるところでだ。きっと置いた人も忘れたんじゃないかってところに、椅子とテーブルがあって、そこでだ。
あとバグが直ったときに、ジルベールが困ることになるという理由もある。本命に俺と食事しているところを、見られていらぬ誤解でも与えてみろ。ジルベールの恋を邪魔することになってしまう。モブがそんなことを、するなんて前代未聞だ。
「うん、もちろだよ」
気にしてないように振舞っているが、どっちなのだろうか。気にしてても、隠しそうでもある。だが別にそう意味じゃないとか、言ってもなんかわざとらしい。だがフォローくらいは、した方がいいかもしれない。俺だって好き好んで、ジルベールを傷つけたいわけじゃない。
「たっ……楽しみにしている」
「うん、俺も」
苦肉の策だ。否定したところで逆に、あやしい。だから頑張って昼食を一緒に食べることに対して、肯定的な言葉を口にした。
―― 頑張った
頑張ったはずだ。ない知恵振り絞って、ジルベールを傷つけないように……疲れた。やたらと脳みそを、使っている気がする。
それもこれもバグのせいだ。さっさと解消しろ。俺の頭が持たないだろう。
そうだバグよ、早く直れ。そして俺に萌えを、摂取させてくれ。あとジルベールの恋も、成就しろ。
「それじゃあ、また後でね」
「ああ」
―― 嬉しそうだな
嬉しいって感情が前面に出ている笑顔を向けてから、ジルベールが背を向けて去っていく。
―― そうだ、早くバグよ直れ
そうすれば、あの笑顔は本当に好きな相手に向けることができる。ジルベールにとっても、それが一番良い。
―― バグが、直ったら
俺はどうなるのだろうか。ジルベールとの関係は、どうなる。だいぶ前から発生していたのなら、友達ですらなくなるのだろう。
―― 別に問題ない
またボッチに戻るだけだ。俺は腐男子だから、萌えが摂取できればそれでいい。あとキャラが幸せなら、なお嬉しい。
―― そう何一つ、問題ない
何度も問題ないと思いながら、何故だかもやもやしたものが沸いて出てくる。よくわからないが、気分が沈む。
―― なんでもない。
気のせいだ。もう講義が始まる。急がないと遅刻してしまう。なぜだが釈然としない気持ちになりながら。急いで講義室に向かった。




