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「友達に恋人が出来たときに、なにかするべきか?」
茶を飲み終わってから、ヴァルに本題を切り出す。
固まったように動きを止めた後に、眉間にシワを寄せて黙ってしまう。怒っているより、悩んでいるように見えた。
―― そうだった
聞いてから思い出した。ヴァルに友達がいないことを。友達がいないヴァルに、友達がいる前提の話題を振ってしまった。なんて酷なことを、してしまったのか。
「悪い。聞かなかった事に、してくれ」
「誤解しているようだから、訂正しておく。俺にも一応、友達らしき相手はいるからな」
少し焦ったような表情で、続けて来た。別にムキ向きになって友達がいるということにしなくても、良いと思うが気になるのだろうか。
「一応とか、らしきが付く相手は、友達なのか?」
「……多分」
「そうか」
余計なツッコミをしてしまったらしい。肩が落ちている。
―― もう、よそう
相談するだけのつもりが、落ち込ませてしまった。そんなつもりじゃなかったんだ、すまない。謝ろうとしたが下手なフォローをいれると、逆効果な気がして短く返すのに止めた。
「ただあいつに、恋人がいたのを見たことがなくてな……その大げさにしないで、良かったなと言うくらいでいいんじゃないか? ずっと好きな相手だったなら、おめでとうもつけるとか」
「そうだな。そうする」
あいつは超奥手だから、変に騒がれるのは苦手かも知れない。ヴァルの言うとおりに、普通に祝いの言葉をかけるだけが無難だろう。
「ありがとう。参考になった」
「それなら、いいんだが」
ちょっと自嘲めいた表情をしている。やっぱり色々と、傷つけてしまったらしい。謝ろうと思ったが、気にするなと言われるのが分かっていたから止めておいた。今度、何か別の形で、詫びをすることにしよう。
「おめでとう。良かったな」
戻ってから、鏡に向かう。さっきヴァルに言われたとおりの言葉を、練習を兼ねて口にしてみた。なぜだが釈然としない。何だって言うんだ。好きな相手と、付き合えるんだ。超奥手のジルベールの恋が、やっと実ったんだ。良い事しかないだろう。
―― そうだ
良いことだ。あれだけ俺を練習台にして、デートのシュミレーションもしていたんだ。きっと良い感じにデートできて、イベントも見れる。
―― そうか、笑顔か
鏡を見て気付いた。
なにかしっくりこないと思ったが、おめでとうと言うときに何時もの表情だと似つかわしくない。
「おめでとう、良かったな」
精一杯表情筋を意識しながら、繰り返してみる。だが悲しいかな表情筋は、仕事をしてくれない。せめて親友に恋人が出来て、祝うときくらい動いてくれないものか。ほんの数秒でいいんだ。少しは、やる気を見せてほしい。
「……はあ」
思わず溜息が、こぼれた。
―― すまない、ジルベール
しばらく頑張って見たが、成果はでなかった。
何時もの無愛想な表情で、おめでとうと言われるジルベールを想像して心の中で謝っておく。まあ俺がいつも通りなんて、気にもしないだろう。なんといってもロイと付き合えるのだから、些末なことだ。
―― これでやっと、イベントが見れる
長い道のりだった。俺の好きなあれやこれを、見ることが出来る。なんて僥倖だろうか。
最初のイベントは学園で起るのが多いから、なるべく二人の傍にいることにしよう。張り付くようにしていたら不審がられるだろうから、さりげなく壁のように存在感をなくすことにしよう。
―― いや別に大丈夫か
俺はモブだ。意識などしなくても、壁―― いやそれ以下の存在感しかない。露骨に視線を向けなければ、問題ないだろう。あとさすがに二人きりの場面では、物陰に隠れることにしよう。せっかくの萌えイベントの邪魔をしたくないからな。
―― ああ、楽しみだ
脳裏にお気に入りの場面が、次々と浮んでいく。一時はロイ以外が好きなんだと、誤解して諦めていた萌えを拝むことができるんだ。
「ふっふふっ」
―― 誰もいなくて良かった
人目のあるところでだったら、引かれるような声が漏れてしまう。表情筋は動いてないから、笑みを作って笑い声が漏れる倍以上に不審度が増幅している気がする。けれど別に気にしない。今は誰もいないから、心置きなく妄想しながら萌えに浸れる。間に萌えたぎって、変な声が漏れても全く問題ない。
―― ああ、明日が楽しみだ
明日から訪れる至福の時を、好きなだけ妄想しながら一人幸せに浸った。




