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寝たて休んだら、本来のテンションが戻ってきた。
告白されて顔を赤くしていたのだから、付き合うのは確定だろう。なんて素晴らしい。これから萌えの供給が始まる。
―― そうだ
なにかした方が良いだろうか。腐男子としては、見つからないように萌えを摂取する。それは変わらないけれど、友達として何かするべきなのか。
―― 友達に恋人が出、来たとき?
頭を捻って考える。そもそも初友達がジルベールだから、こういう状況になったことがない。
『レイザード』になる前の記憶を、参考にしようと思っても出来ない。なんせ俺の記憶は自分が腐男子であることと、好きなBLのあれやこれくらいしか覚えて無いんだ。あとは基本的な日常生活くらい覚えている。色んな知識もそこそこは、記憶にある。ただ前の自分がBL関係以外で、どんなだったかという大事な事を覚えていない。友達がいたといか恋人がいたとか、そういう人間関係はさっぱりだ。
―― それにしても
自分と周りの関わりや根本的な事を覚えてないで、BL関連は覚えていると―― うん、腐男子の鏡だな。色んな事を覚えていなくても、自分のアイデンティティは失わない。立派な腐男子だ。褒めてやりたい。
―― 今はそれは、置いておこう
俺が根っからの腐男子であることは、ただの事実だ。今、考えることは、友達に恋人が出来たとき何かするべきかどうかである。
―― ヴァルに、聞いて見るか
ジルベールとロイは、当事者であるから聞けない。そうなると後は、ヴァルしかいない。
一人で考えても、しょうがない。残っているお茶を飲み干してから、ヴァルの家に向かう。向かうと言っても隣だから、直ぐに付く。近いって良いな。
―― 相変わらず物が、少ないな
いきなり尋ねたのに嫌な顔せずに、向かい入れてくれた。お茶を入れてくるとヴァルが、席を外してから部屋を見渡す。
テーブルとか食器棚とかの家具と、数冊の本はある。なんというか必要最低限という感じで、殺風景だ。物が少なすぎて、明日引越すことになっても困らない気がする。
―― あれは……
前に俺があげた氷の置物が、棚の上にあるのが見えた。飾ってくれていたらしい。それだけで何故が、ほっとした。ヴァルが此処にいる証明のように思えたんだ。
「待たせたな。どうした?」
「いやあれ、まだ持っていてくれたんだな」
「当たり前だろう。宝物だ」
お茶を入れたカップを持って戻ってきたヴァルが、少し首を傾げる。顔の向きとあれで、通じたらしい。目を細めた後に、意外なことを言ってきた。
置いてある氷の置物は、宝物なんて言われるような出来じゃない。形も歪で作り直して良いと言われたら、すぐに直したいくらいの出来映えだ。
「……良い物じゃないだろう」
「そうか? 俺は、好きだよ。気に入ってる」
嬉しいと思う反面、恥ずかしいとも思う。なんせだいぶ前に作ったものだからだ。当時はアレが精一杯だったけれど、今見ると色々と粗が目立つ。
そう最初の頃、市場に店を出す前に、何度も作っては失敗の繰り返しだった。商品に出来るような出来じゃないから、氷から水に戻すを繰り返す。あの時も上手く作れなくて、水に戻そうと思った。
『これ貰って、良いか?』
『構わない』
何が楽しいのか不出来な置物が出来るのを、見ていたヴァルが声をかけてくる。利用価値があるのかは分からない。けど世話になっているから、断らないで渡す。
そのあと予想に反して、お金を渡された。売れるような出来じゃないから断ったのだけれど、ヴァルは気に入ったから買いたいと思ったといって譲らない。
結局は根負けして、受け取ることにしたんだ。
―― 嬉しかったな
ごねはしたが、自分が作ったものが初めて売れたんだ。上手くいかなくて困っている俺を、気遣ってくれたのだとしても嬉しかった。
―― 懐かしいな
今ではだいぶまともな物が、作れるようになった。そこそこ売れるし評判も良い。でもあの時が、一番嬉しいと思ったかも知れない。
「どうした? お茶が冷めるぞ」
「飲む」
面倒をかけたり世話になったりしているのだから、礼の一つくらいは言おう。そう思っているところに、声をかけられて短く返す。
―― なんかタイミングを、逃したな
今なら言えそうな気がしたのだけれど、上手くいかない。今度、機会を見てちゃんと言うことに決めて、カップを傾けた。




