表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

第2話

 そして現在――


「……なるほど、内容はわかりました。まさか今回も『久和蛇』の名前を聞くとは思いませんでしたがね」


 黒澤さんは開いていた手帳をパタリと閉じた。


「今回も……って、あの人は他にもこんなことを……?」


「そうですね。ここ最近は同じような案件ばかりでして……。失礼、水分補給させてください」


「ええ、どうぞお構いなく……」


 すると、黒澤さんはソファーの後ろに手を伸ばし、日本酒の一升瓶を取り出して、豪快に飲み始めた。


「ぷはぁ〜!! いや〜申し訳ないれすねぇ! 水分補給は大切なもんで!」


「はっ、はぁ……」


 えっ、待って。まだ相談の途中でしたよね?


「まずねぇ、白流ちゃん。他人の言葉なんて簡単に信じちゃだめなんれすよ。ましてや、契約書にサインする時ならなおさらねぇ?」


「で、ですからしっかり一枚目は読みましたよ! でも、残り二枚は久和蛇が『同じ内容だから』と……」


 冷や汗が頬を伝った。


「ほらぁ! そこですよぉ。最初の一枚で安心させて、残りに条件の違う契約書を混ぜたんれしょうね♪」


「そ、そんな……」


「それに久和蛇はねぇ、ネットで弱者を誘い込んで借金を膨らませてお金か土地を奪うっていうなっさけないやり口なんれすよ」


「弱者……ですか」


 何も言い返せず、膝の上で拳を握った。


「おばあさまを守りたい白流ちゃんの弱みにつけ込んで、元本や利息、手数料もろもろを含めて借金は一千万円。しかも、おばあさまはお店を畳むつもりだと――」


「それはっ!!!」


 思わずテーブルに勢いよく両手を叩きつけた。


「確かに……全部、私のせいです。だけどおばあちゃんとあのお店だけは! なんとしてでも守りたいんですっ! どうか私に、融資をお願いします!!」


 私は額が膝につきそうなほど、深く頭を下げた。


「白流ちゃん……ひっく」


 しばらくして――


「……顔を上げてくらさい?」


 その声に、ゆっくりと顔を上げると――


「却下れ〜す!」


 黒澤さんが首を傾げて笑った時、しゃらんと深紅の耳飾りが揺れる。


「……えっ……きゃ、却下……ですか?」


「うん! どー考えたって返せるわけないじゃん!! それに全くお金にならないもんっ!」


「まっ……待ってください!! 時間はかかっても必ずお返ししますので!!」


「み〜んなそう言うんだよね。まっ、素直に久和蛇にお店を渡すしかないねぇ〜」


「そんなの絶対嫌です!! お願いします! この体でも何でも差し出して必ず返済を――がぁっ!?」


 突然、黒澤さんが私の喉を掴んだ。


「……お金にならないと言ったでしょう?」


 黒澤さんはテーブルに片膝を乗せ、私の喉を掴んだまま、ソファーへ押し倒した。


「久和蛇に嵌められたことには同情します。ですが、あの店はいずれ潰れる。貴女が一番わかってますよね? 資料を見る限り、利益など出ていない。赤字を垂れ流しているだけです」


「っ……それ……は……!」


「いいじゃないですか。お店を手放せば、貴女の重荷も消える。新しい人生でも始めればいい」


 ……嫌だ。


「……いい加減にしてくださいっ!!」


 喉を掴む黒澤さんの手を、力任せに振り払った。


「……ほう?」


「はぁ……っ、久和蛇の被害者は、私だけじゃないんですよね? 他にも何人も、ここへ相談に来たんでしょう?」


「……ええ。それが?」


 黒澤さんの赤眼が、突き刺すように私を捉えた。


「これだけ事情を知っていて、助けられる力もあるのに……お金にならないからって、全部見捨ててきたんですか!」


「――見捨てる?」


 黒澤さんは、きょとんとした顔で私を見つめた。


「何を……そんな当たり前のことを」


「……はっ?」


「久和蛇も、貴女のおばあさまも、あのお店も、私には何の関係もありません。私が興味を持つのは、利益になるか否か。ただそれだけです。誰が『最後の砦』なんて言い出したのか、知りませんがね」


「それだけ……って」


「それに……私からしてみれば、貴女の方がよっぽどおかしいですよ?」


「私が……?」


「不気味なんですよ。どうして自分以外の人間の為に、そこまでしようとするのです?」


「……えっ……な、何を……」


「唯一のご家族であるおばあさまを大切に想う。そこまでは理解出来ます。ですが、自分名義で借金を背負い、財産も身体も差し出そうとする……」


 黒澤さんは、子供を諭すように笑った。


「そんな自己犠牲、洒落臭すぎて反吐が出ます」


「……そう、ですか」


 私は黙って、帰り支度を始めた。


「おや、もうよろしいのですか?」


「ええ……貴女みたいな酔っ払いに相談したのが間違いでした!」


「それはごもっともです! 警察や弁護士へどうぞ――まだお時間が残っているなら、ですが」


「……だからここに来たんですよ!!」


 私は黒澤さんを睨みつけた。


「……悪くない目です。お気をつけて」


「貴女の顔なんて、二度と見たくありません!」


 荷物をまとめ終えた私は、駆け足で事務所を抜け出した。


『そんな自己犠牲、洒落臭すぎて反吐が出ます』


 ふと黒澤さんの言葉が蘇る。

 それでも、私一人を差し出して全て解決するのなら……構わない……!


 それになによ『最後の砦』って。

 あんな酔っ払い女に、何が出来るっていうの!? 

 こんな話に飛びついてしまった自分に腹が立つ……!


 その帰り道、私は親戚達へ片っ端から連絡を取り、お金の工面が出来ないか相談をした。

 けれど、誰一人として首を縦に振らなかった。


 ……気がつけば、約束の期日まであと二十四時間を切ってしまった――


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけますと嬉しいです。


また、【ブックマーク】や【感想】、【イチオシレビュー】、【リアクション】なども、私にとって大きな励みになります。


これからも作品を更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ