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98・最後の白竜サイド

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 白竜帝が啼いている。

 彼の両手の中には、血だらけでぐったりしている白老。

 既に息絶えていた。


「白老が……仲間が……」


 普段冷静沈着な水宮君すら、動揺し、震えている。

 体が潰れた小型や中型のドラゴンの亡骸が湿原の上に並んでいる。

 そこから湿原へ赤い染みが広がって行く。


「許さねえ……! 許さねえぞおおおおおおおおおおおおお!!」


 炎天君が涙を流し絶叫した。

 弱肉強食の白竜幕府において、戦闘での犠牲は「そいつが弱かったから」で済まされるところがある。

 実際、砂漠で砂竜の犠牲になったドラゴンに対しては、彼らは哀悼の意を示さなかった。

 だが、今回は違う。


「こんな卑怯な手で……! なぜ白老らが死なねばならんのだ!! サルどもには誇りもないのか!!!」


 まともに戦うことも出来ずに、戦士たちが死んだのだ。

 憤懣やるかたなき帝王は生まれて初めて滂沱ぼうだの涙を流した。

 もの言わぬ屍となった白老を見つめる水宮君。


「(……最悪だ……もはや、若を諫めることが出来る者は、いなくなった……)」


 事実、白竜幕府の行方はこれで決まったようなものであった。

 もはや、拠点を得たから手打ち……などとは行かない。

 これほど罠が仕掛けられている以上、敵は最下層にいると考えるのが自然だ。

 そこまで進軍するまで決して止まるまい。

 どれほどの犠牲を払おうとも。


「八つ裂きにしてやるぞ……サルども……!!」


 白竜帝が白老の遺体を地面に降ろしたのと、遠くで轟音がしたのはほとんど同時だった。


「何だ! 何が起きた!!」

「……敵ですな……」


 いち早く気づいたのは苔転君であった。

 あるいは、とうに気づいていたのかもしれない。

 霧のけぶる湿原の奥から、巨大な影が接近して来ていた。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 霧を咆哮で吹き飛ばし現れたのは50メートルほどもある、超巨大な魔物であった。

 その異形たるや、もはやキメラとすら呼べるものではない。

 様々な動物の部位がでたらめに混ざり合った肉塊であった。

 手足に尾に角に触手にと、数も大きさも滅茶苦茶な肉塊は、うじゃうじゃ生えたそれを動かし、転がるように突っ込んで行く。


「なんたる巨体か……!」

「ここはおいらが!」


 白竜帝をかばうように前に出た水宮君と炎天君を、主君がかき分ける。


「……よい。余がやる」


 白竜帝はその双角にエネルギーを集中する。

 角から吸収した【万気】が、ドラゴンの体内で加工され、再び角に戻って行くのだ。

 エネルギーの増大により角が巨大になっていく。

 バチバチと角の間で余剰なエネルギーが弾けだす。


「白老よ、これが余からの手向けだ!!

 【白光閃びゃっこうせん】!!」


 瞬間、角から全てを白に染める閃光が放たれた。

 それを見ることが出来たものはいない。

 あまりに眩しいそれは、何が起きたのか視覚でとらえるのが不可能だったのだ。

 ゆえに三将ですら雷撃が放たれたであろうことは想像に過ぎず、また結果から威力を推し量るしかない。


「なんと……なんたる……」

「流石、若だぜえ!!」


 あの巨大な肉塊が、跡形もなく消し飛ばされていた。

 そして正面には、もはや湿原は無い。

 あまりの熱量が、湿原を貫き、一本の焼け野の道を生み出していた。

 誰もがその威力に息を飲む。

 だから、気づかなかった。


「……」


 苔転君がどこか、()()()()()()()()()()()()

 まるで、友と会う約束が流れた後のような、そんな目をしていたことに……。

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