99・巨竜大決戦開戦
宇宙フロアは時間こそかかったが、あのボス――バトラーによれば吸星鬼だという――では竜を防ぎようもなく、突破された。
こちらはその間に準備を整え、神殿だったフロアに布陣した。
神殿の核である珠は、モザイク世界に避難させている。
ここは、管理者権限があれば任意に組み替えることが出来るフロアなのだ。
【Eスキル】を授かった俺にはその権限があるとバトラーが教えてくれた。
そこで、パネルを組み換え、壁を広げて広大なフロアへと変形させた。
ここなら、巨竜とも戦える。
「危ないと思ったら、赤いパネルの床を破壊して逃げるんだぞ」
「わかってますわ」
ジゼロジゼロが頷く。
赤いパネルは、下り階段へのショートカットになっていて、それをあちこちに配置してある。
ドラゴンが入れるサイズではないが、仮に人化しても塞ぐことも出来るようにしてある。
そんなジゼロジゼロだが、金ビキニを着替えていた。
と言っても、黒いビキニになっただけだが。
本人いわく、ノリが違うらしい。
色以外の大きな差異は腰にかかるヒモが増えたくらいだと思うのだが、まぁそこをどうこういうのは野暮というものだろう。
とにかく、気合が入っていた。
「大湿原のボスを一瞬で倒す相手ですから、なるべく矢面に立たないようにしますわ。
そのぶん、ゴーレムもたくさん用意いたしましたし」
大理石のパネルから生み出されたマーブルゴーレムが、小隊を成していた。
ジゼロジゼロの生み出すゴーレムは、精霊のリソースを消費しない。
そうして待ち構えている俺たちの前に、白竜幕府の軍勢が姿を現した。
下り階段を苔が覆ったかと思うと、トンネルのように大きく口を開き、そこから巨竜が現れたのだ。
「!」
全く予想外の出現だった。
てっきり人型になって階段を降りてきていると思っていたし、巨大化する前に攻撃する算段もあったのだ。
ただ、思っていたよりずっと、巨竜たちは負傷していた。
侍の具足に似た装備をしているが、衝撃はそれでは防げなかったようで、何よりその具足もあちこち壊れている。
岩のようにごつごつした赤い竜は翼が折れているし、しなやかな青い竜は傷だらけだ。
白い竜――おそらくは白竜帝もあちこちに血を滲ませている。
ただ、苔に塗れた巨竜に関しては、負傷しているかは繁茂した緑のせいで全くわからない。
下の階で見たマップ表示上は爬虫類人たちもいたはずだが姿が見えないので、巨大な苔竜の裏にでも隠れているのかもしれない。
「貴様らが白骨公主を殺害し、卑劣な罠で我が配下を殺した者か!!」
大音声で白竜が言う。
まだ距離は離れているのに、言葉の圧で周囲のパネルが振動するほどだ。
だが、飲まれるわけにはいかない。
「まずは名乗るのが礼儀じゃないのか?」
「サルがいっぱしの口を聞きおって!! だがよかろう!! ここまで余の軍勢を苦しめたことは評価してやる……」
怒りは隠しきれていないが、それを抑えて王者であることを見せようとしている。
幕府といい具足といい、侍めいたところがあるようだ。
「余こそ白竜帝・轟雷天!! 白竜幕府の大将軍にして帝王である!!」
「おいらは炎天君!! 白竜幕府三将の一角!!」
「同じく水宮君」
「苔転君……」
白竜帝、炎天君、水宮君、苔転君か。
いずれ劣らぬ圧力を見せる巨竜たち。
全身に鳥肌が立つが逃げるわけにはいかない。
この下には治療中のゼフィーたちがいるのだ。
「こっちも名乗るのが礼儀だな。俺はジーロだ」
「わたくしはジゼロジゼロですわ!!」
「なんだと?」
俺たちの名前を聞いたドラゴンたちに、どこか困惑めいたものを感じる。
「まさかその名は、祖竜ジゼロォに由来するものか」
そういうことか。
【神の気まぐれ】とも称される、古い竜の話は人域で人気がある。
邪悪な軍勢と一人で立ち向かった名もなき英雄を、最強の竜が助けてくれた……そんな話だったはずだ。
祖竜なんて話は知らないが……ともかく、人域でそんな物語があるなど想像していなかったのだろう。
「たぶんな。古い英雄譚に出て来る竜、ジゼロォからのはずだ」
「なぜ人間が竜の名をつける」
「【神の気まぐれ】とまで言われる強さに憧れたんだと思う」
「なるほどな……不敬なれども憧れる心情は理解できる。
なればこそ理解出来ぬ。なぜその矮小な身で我らに抗うか!!」
「一寸の虫にも五分の魂ってやつだよ!」
足が震える中切った啖呵に、白竜帝が口の端を歪めた。
「よくぞ申した!! その気概も無き者に殺されたのでは、公主も配下も浮かばれぬからな!! さぁ、粉砕してくれよう!!」
白竜が翼を広げ、吠える。
意識どころか魂まで吹っ飛ばされそうな存在の圧。
だが、意外にも真っ先に突っ込んできたのは、苔転君だった。
「あっ、汚え! 先駆けしやがって!!」
炎天君の非難など意にも介さず突っ込んで切る巨竜。
「……!」
やるしかない!
両手に【死】を纏う。
「ジゼロジゼロは、離れてろ!!」
「がってんですわ!」
苔転君の突進の圧は、もはや小山が突っ込んできているに等しい。
だがギリギリまで引き付ける!
「無抵抗で死ぬつもりか!!」
悪いな白竜。
そんなつもりはさらさらない。
俺は足元のプレートを操作し、その上に乗り一気に移動する。
「なに!?」
そのスピードは、相当なもの。
何しろあっという間に神殿を組み立てられるほどなのだ。
苔転君の突進をかわし、カウンターで【死】を叩きこむ!!
「ぬ?」
苔転君が気づいた時にはもう遅い。
【死】が一気に広がり、表面の苔を枯らし、薄茶色に変えていく。
おそらく、その奥にまで【死】は広がって行っているはずだ。
「お、おおおおおおお……」
再突進のために方向転換しようとしていた苔転君が、動きを止め、苦しみの声を上げた。
全身を震わせると、体を覆う苔がどんどん剥がれ落ちていく。
苔の奥にも苔があり、奥は見えないが、体は確実に小さくなっている。
「どうした苔転君!!」
「若……すいませぬ……」
けたたましい音を立て、苔転君がくずおれた。
全身を薄茶色にし、手足をひっこめた亀のようにその場にうずくまり、やがて動かなくなった。
「い、今のは何だぁ!! なぜ、苔転君が倒れている!!」
「【Eスキル】で【死】を叩きこんでやった。
奴は、もう立ち上がることはない」
「な……」
情報を与えるのは、迷わせるためだ。
何も考えず大暴れされる方が、こっちには遥かにつらいのだ。
「なんだと!? なぜ貴様が、【エイリアンスキル】を持っているのだ!!」
エイリアン……スキルだと?
それに気を取られた瞬間、水宮君が奥から水流を吐いて来るのが見えた――




