97・策謀合戦:ジーロサイド
「まさかここまで……」
罠を考えた俺自身も、二の句を告げなかった。
それほどに、効果は劇的だった。
中くらいの▲ややや大きめの▲が全て消えたのだ。
すなわちそれは、小型と中型のドラゴンが全滅したことを示している。
おそらく現場は地獄絵図となっているだろう……。
雑踏での将棋倒しは、前世で警官としてイベント警備に出る中で最も注意していたことだ。
一歩間違えば、これほどの事態になる……ということでもある……。
背筋に冷たいものが走る……。
「ジーロ……」
「……大丈夫だ。ちょっと現場を想像してしまっただけだ。それより、次の手だ」
残るのは四つの巨大な▲と小さな▲が10足らず。
強力なドラゴンは、やはり健在だ。
だが、全くの無事というわけではないだろう。
あれほどの勢いで進軍していた群竜が、いまや動揺が手に取るようにわかるほど、その動きを鈍くしていた。
モニターは監視カメラがあるわけではなく、内在【万気】に反応しているに過ぎないから、確実なことは言えないが、おそらく巨竜たちも負傷している。
「キメラはかなり成長したようです」
巨竜たちを遥かに超える巨大な△がマップには出現している。
俺たちが攻略した際ですら30メートルはあったが、そんなものではないだろう。
高層建築に匹敵するキメラが誕生しているに違いない。
普段でもあれほど魔獣が混ざっていたのに、いまやどんな姿になっているかは、想像だに出来ない。
先ほどとはまた異なる種類の寒気がする……。
「……俺たちが入った時もお前が作ったんじゃないだろうな?」
「あり得ません。私は攻略者に呼応して生成されますから」
「わかってるよ。冗談だ」
実際、モザイク世界は俺の知識から生成されていた。
前々から準備されていたというのは考えにくい。
「ただ、こんな機能が揃ってるなんて、案外精霊も力を残してるんだな」
このマップとトラップやゴーレムのシステムは、地球の現代戦争に通じるものがある。
少なくともどんなスキル使いでも再現不能だろう。
いかに雷の精霊が回帰したとはいえ、あれほど小さくなっていたのだ。
そこまで極端なプラスではないだろう。
「いいえ。これは迷宮攻略者が出た時のために、あらかじめプールされていたものです。今の精霊にこれほどの力はありません」
「そうか……じゃあ、やっぱり俺たちで頑張るしかないな」
また小ゴーレムを使って、キメラを誘導する。
歩幅が違いすぎてゴーレムはあっさり粉砕されてしまったが、ドラゴンたちの前に連れて行くことは出来た。
巨大な▲と超巨大な△がにらみ合い――
「は?」
巨大な△が、消滅した。
「ど、どうなってますの?」
「やられたんだ……一瞬で……」
「そんなお馬鹿なですわ!? わたくしたちが戦った時ですら、とんでもない大きさでしたのよ!?」
「……それを瞬殺できる力を、ドラゴンは持っているんだろう……」
「そんな……」
ジゼロジゼロの顔面が蒼白になる。
きっと俺もそうなっているだろう。
そんな化け物が、ここに向かって進撃している、その怖ろしさを改めて痛感する。
「……もし戦闘になっても……」
「え?」
「もし戦闘になっても、巨大化は絶対にしないでくれ」
「どうしてですの?」
「おそらく的になる。それをキメラが教えてくれたんだ……」
ドラゴンは、異界の軍勢と戦うための存在。
すなわち、この世界が生み出した破壊兵器のようなもの。
本来その火力は、敵が巨大なほど使いやすいのだろう。
「わかりましたわ……」
ジゼロジゼロは、己の体をきつく抱きしめる。
巨大な△が消えた地点を見て、自らがそうなる姿を想像したのかもしれなかった。
重苦しい空気を破るように、バトラーがコホンと咳をした。
立体映像にのどの炎症などあるはずもない。
人間臭い気の利かせ方しやがって……。
「それでどうなさいますか? 次の階層はもともと火山ある温泉ですし、ボスも存在していません」
「……それでも下り階段からは引き離した。時間は稼げるはずだ」
単に拠点を手に入れるだけのつもりなら、進軍はそこで止まるはずだ。
だが、軍団を壊滅させられて止まるとは思えない。
そもそもここに来てるのは白骨公主の復讐だろうしな……。
「しかし、すぐに突破されるでしょう」
「ああ……だけど次の宇宙は、そう簡単に突破できないはずだ。その間に、こちらも準備をしよう」
「次は、決戦だ……!」




