96・策謀合戦:白竜幕府サイド
「ええい! なんだあのサカナもどきは!!」
白竜帝がイラつきを隠さず、わめく。
階段への侵攻に従い、集まって来た砂竜たちは全てひき肉に変わっていた。
「(人間たちが砂竜と呼んでいる……と知れば我が君はより怒るだろうな……)」
「人間が砂竜とか言ってるやつでしょ」
「(だから、馬鹿か……!!)」
水宮君が心配していた白竜帝の逆鱗を炎天君の不用意な一言が逆撫でしていく。
「これのどこが竜だ!!」
怒りの雷撃があたりに、撒き散らされる。
炎天君は直撃しても痛いで済む程度だが、砂竜の死体は黒焦げになった。
爬虫類人たちが合流できていなくて幸いと言えるだろう。
「あだあ! すいやせん!!」
「だいたい、汝はなぜそんなことを知っている!!」
「(ああ、やはりこうなった)」
「えっ、あ、あぁえーっと……」
「(流石に、人間の姿になって人域をぶらついたなどとは言えまい。若い竜たちは角を帽子で隠してたまに出かけているが……)」
「か、風の噂で!」
さしもの炎天君も人化の件は言い出せず、水宮君は胸を撫でおろす。
とはいえ、クオリティーは低すぎる言い訳である。
「人域に潜入させた奉族たちから、様々情報は入りますので」
「ぬうう! 余計な情報を仕入れおって!!」
水宮君は、炎天君への怒りを奉族へすり替えることに成功した。
その残酷な気遣いに炎天君が気づくこともないであろうが……。
「ともあれ、周辺のサカナどもは駆逐し終わったようです」
「しかし、このようなけだものに、我が軍勢がやられるなど、情けない……!!」
次々集まって来た砂竜に襲われ、小型のドラゴンが何体か犠牲になっていた。
これは、飛行してやりすごせばいいものを、わざわざ攻撃させた白竜帝のせいでもあるが、帝王は自らの非など考えはしない。
「ところで苔転君はどうしているのだ」
噂をすれば影。
爬虫類人たちを背に乗せた苔転君がのしのしと現れた。
「おお、苔転君! ずいぶん遅かったではないか」
「ハイ……大きなイカに襲われまして……」
苔転君が体に張り付いたままになっていた足の一本を放り投げた。
それはまだびちびちと動いていた。
「むぅ、なんたる醜悪。まぁ撃退したならばよい」
「ヘェ……ありがたいお言葉……」
「それより、いつまで奉族などを背に乗せておる! 降ろして自ら歩かせよ!」
「ヘイ……」
苔転君が体をかがめると、爬虫類人たちがやや困惑しながら降りていく。
「ぐずぐずするな!! 目指す階段はもう目の前なのだぞ!!」
白竜帝の言葉通り、階段は目と鼻の先であった。
「おいらが掘ったマグマが溢れてるのが見えやすからね」
下り階段の位置は変わっていないので、当然、その周囲は炎天君が過去に火山帯へ改変したままとなっている。
溶岩が冷えて固まり、黒い岩になっているため、砂漠の中でのそれはオアシスを見つけるよりも容易い。
喋りながら移動――白竜帝らは飛んで、苔転君らは歩いて――していると、それはどんどん近づいて来た。
階段がある神殿跡以外は、ほとんど冷えた溶岩になっており、遠くには溶岩を噴き出し続ける小さな火山すら出来ていた。
「よくもあれほどまで火山帯を生み出せたものだね……」
水宮君がつぶやくが、実際、あんなことが出来るのは、少なくとも白竜幕府では炎天君しかいない。
「ま、おいらの【竜才】は、炎が完全に効かない体なんでね」
白骨公主が骨を操れたように、スキルとはまた別に、一部のドラゴンだけが持っている特異能力が存在する。
これを【竜才】と呼ぶ。
スキルと異なるのは、授かるのではなく生来備えた能力であること。
そのため、ある程度血統にその能力が影響しやすいとされる。
なお、雷を操る能力はどのドラゴンも可能だがその威力は角のサイズにより、高熱への耐久力も元来備えるが、それも個体差が大きい。
マグマに長時間浸かっても無傷なのは炎天君くらいである。
「ま、ここは地下のマグマが地表に近いんで出来るとも言えやすがね」
「そうなのか?」
「火山列島だとマグマのそばなんで簡単なんですが、普通はそんなに表層にマグマはないんでさ。たぶん、精霊の力で作られてる迷宮だから、火の精霊の影響だとは思うんですが……」
「ふむ、そういうものか。であれば、地下を掘って階段を無視することは出来そうにないな」
「すいやせん……」
「別に責めてはおらぬ」
炎天君はマグマそれ自体を操る能力ではない。
仮にそうだとしても、火山列島の沈下を止めることは出来ない。
ドラゴンたちも知らないが、列島の沈下はプレート活動によるものだからだ。
プレート活動が活発な火山活動を誘発し、島自体の沈下を引き起こしているのだ。
特に巨大なものは海底火山のため、これは炎天君にも手出しが出来ない。
それどころか巨大火山は下手に触る方が危険なのだ。
よかれと思ってマグマを逃がそうとした結果、そこから大噴火が起きたこともある。
火山列島と言っても、巨大なドラゴンが棲むのに適した島はもっとも巨大な本島しかない。
下手な刺激は危険すぎるし、そもそもドラゴン一体が扱える規模のエネルギー量ではないのだ。
「本島で待つ民たちのためにも、我らは領土を得ねばならぬ。古びた盟約に従い、巣に籠るような真似は出来んのだ。先を急ぐぞ」
世界の守護者たらんとする四雷の誓いを破った以上、もう後には引けない。
白竜幕府は突き進む。
そして、ほどなく階段に辿り着いた。
「……では、またわしが」
「頼むぞ」
「若の仰せのままに……」
苔転君がのしのしと階段に進み、苔を侵食させて道を強引に開く。
「(……やはり、苔ごときであの強固な階段が広がるはずがない……どうなっている……)」
水宮君は眉――に相当する部位――をひそめるが、答えは出ない。
苔転君の【竜才】は苔を操ることであって、物を侵食しもろくすることも出来る。
だが、これはその度を超えているように感じるのだ。
聞いて素直に答える保証はないし、忠臣と名高い苔転君へ疑念を差しはさむのは自らの立場も危うくしかねないため、それ以上水宮君に出来ることはないが。
いずれにせよ、彼の不可思議な能力により、通路は広がった。
悠然と進む竜の群れ。
最後に水宮君が階段に入った瞬間――
「なに!?」
背後の砂漠から無数のゴーレムたちが飛び出して来た。
そして、水宮君が体勢を立て直す間もなく、全員で体当たりしその体を階段に押し込んだ。
「なっ、うおおおおおおお!?」
水宮君の巨体が、ゴーレムごと階段を転げ落ちていく。
その先には、もちろん竜の群れが居た。
「な、なんだとおおおおおお!!??」
「若ぁああああああああ……!?」
巻き込まれた白老の叫び声が響く。
ドラゴンの巨体は今や、落石を超えるトラップとなり、軍勢を押し潰していった――




