95・群竜進軍:ジーロサイド
マップ上に表示された▲が小さな凸に向かって行き、そこに△が現れ、▲の一つが消えた。
上手く行ったらしい。
「ほあー。あのゴーレムは砂竜を誘導するためだったんですわね」
「ああ。砂の振動で砂竜をおびき寄せさせたんだ」
前にも言ったが砂竜は竜とついているがドラゴンではない。
砂の中を泳ぐオオトカゲだ。
収斂進化なのかむしろサメに近い姿になっている。
知性があるわけでもないので、ドラゴンだから襲わないということもない。
単に獲物を、砂を伝わる振動で感知しているだけだ。
ゴーレムの足音でおびき寄せつつ、近づいてきたら止まればただの岩なので襲って来ることはない。
上手く利用すれば、生体トラップに使えるわけだ。
「やりますわね! 流石はジーロですわ!」
「褒めすぎだよ。これはたまたまだ。ドラゴンは遠距離攻撃できるから、無駄に終わる可能性も高かったし」
「しかし、それならそれで僅かでも体力を消耗させられると考えていたのでしょう? なんと性格の悪 い……いえ、深謀遠慮なのでしょうか」
ジゼロジゼロはともかくバトラーは絶対褒めてないだろ。
「確かに性格が悪いのは認めるよ。ただ、思ったよりドラゴンたちが素直な気はするが」
入り口の罠は、大型のドラゴンがほとんど全て食らったようだ。
多少のダメージがあるのか、▲マークがなかなか動かない。
「長らく本格的な異界の侵攻はありませんからね。若い竜は戦自体が初めてだと思いますから、駆け引きに不慣れなのでしょう」
「……みたいだな」
地球は戦争の無い時なんてないようなところだった。
日本はともかく、世界のどこかではいつも戦争が起きていた。
戦争とはまた違うが、俺も前世では警官として様々な犯罪と戦ってきた。
人間が悪事のために考え出す創意工夫は、想像を超える。
決して胸は張れないノウハウが、今ドラゴンたちを追い詰めている。
「ところで、改めて確認なんだが、フロアボスは一回倒されたら終わりじゃないんだよな?」
「ええ。基本的には何度でも再生します」
これは、トラップを配置中に教えてもらったことだ。
あの巨大イカがまた発生しているなら、それも使わない手はない。
「あれは、異界律の侵食を敢えて偏らせることで発生させているものですから。侵食を試練に転用するとは、精霊も上手いことを考えたものです」
「ああ、そういう仕組みなのか……」
この迷宮自体が、異界律の侵食を封じ込めるためのもの。
広大なエリアに広く侵食を散らすことで影響を抑えているのだろう。
で、それを意図的に偏らせれば、異形の化け物が生み出すこともできるわけか。
先に聞いておけば良かったな……。
まぁ、そこまでの余裕はなかったが……。
「だったら、次の階は全部一か所に侵食を集められないか?」
「おやおや、また意地悪なことを考えますね」
「こっちも必死なんでね。今からやって間に合うか?」
「既に発生しているキメラに集中させてみましょう。それなら何とかなるかもしれません」
「あのライオンもどきがもっととんでもなくなるんですのね……ゾッとしませんわ……」
ジゼロジゼロのげっそりした表情もむべなるかな。
なにしろあの時点でも、マーライオンとキメラとメデューサが混ざっていたくらいだ。
それを超える化け物など想像もつかない。
「などと言っている間に、ドラゴンたちが砂王イカと遭遇したようですね」
バトラーの言う通り、いつの間にやらドラゴンたちは進軍していた。
そして、大きな▲と大きな△がぶつかっている。
流石にドラゴンが負けるとは思えないが、てこずる相手ではあるだろう。
自慢の雷や炎も、砂中に潜られては意味がない。
無視して飛行するのが一番だろうが、全員が飛べるわけではないようだ。
悪いが存分に足止めしてもらおう。
その間にも、キメラは成長していくのだ。
「あら?」
「どうした?」
「何かおかしいですわ。あのイカの動き、ヘンじゃありませんか?」
「ヘン……?」
ひときわ大きな▲とぶつかったイカが、逃げ出していた。
「まぁ、ドラゴンには勝てないだろうから……」
「違いますわ。魔物は決して逃げたりしませんもの」
「あっ!?」
ジゼロジゼロの言う通りだ!
今度は地球の常識に囚われていた!
猛獣でも勝てないなら逃げだす。
だが、魔物はそうではない。
【万気】を含む人間の生気を狙い、いかなる大怪我を負おうが、殺されない限り止まることはない理不尽な存在だ。
ドラゴンも角から【万気】を吸収できる以上、人間同様に狙われるはず。
事実、砂竜もドラゴンを襲ったのだ。
「何で……イカは逃げたんだ?」
「わかりません。尋常ではないとしか言いようがありません。あるいは、魔物を操るスキルかもしれません」
「なるほど……それはない話じゃないな。【千魔夜行】もやつらが起こしたんだし」
白骨公主はおそらく骨を操作する力で無理やり魔物を操っていたようだし、蛇を召喚する奴もいた。
そういう能力と考えれば説明がつく。
しかし……。
「どうしましたの?」
「いや……根拠はないんだけど、何か嫌な予感がする」
「やっぱりライオンもどきのパワーアップはやめたほうがいいかもしれませんわ。もしドラゴンが魔物を操れるのでしたら、手下にされてしまうかもしれませんし」
「うーん……」
ジゼロジゼロの提案はもっともだ。
だが、違和感がぬぐえない。
「それを確かめるためにも、キメラはそのままにしておこう。流石にアイツは階段を潜れないだろうし」
「それもそうですわね。でも、ドラゴンはどうやって入ったのでしょう? 白骨公主よりずっと大きそうですし」
「ああ、それはたぶんフォースみたいに人間に変化したんじゃないかな。だからキメラは潜れないと思うよ」
「ああ、そういうことですのね」
話している間にも、ドラゴンはどんどん進撃していた。
ひときわ巨大な▲は遅れ気味だが、飛行していると思しきドラゴンたちはかなり先行している。
下り階段へも、すぐに着いてしまうだろう。
もともと、初期設定の場所は火山地帯に変えられてしまったので、その反対側に入り口の階段を再設定した。
下り階段の位置はそのままなのだが、これは流石に神殿ごと移動させるのは不可能だったためだ。
そこへ、先行したと思しき三体の大きな▲と、中くらいの▲が集まってくる。
階段はもう見つかったと見ていい。
「やっぱ空から地形を見れるのはズルいな」
「わたくしたちがあれほど苦労した砂漠もお姉様はすぐに突破出来ちゃうのでしょうね……」
だからフロアボスを用意する必要があったのかもしれないな。
飛べるスキル持ちが来たら、簡単に突破出来てしまうから。
「ま、だからって楽にクリアさせてやるわけにはいかないけどな」
俺はマップに触れると、階段近くに埋めていたゴーレムたちに、命令を送った――




