92・外伝・史上最も無駄な戦い
ファルケファルケは怒りに燃えていた。
騎士団と防険者を総動員し、王族を退避させ、王都に防備を固めていたのだが、白竜幕府に無視されたことが発覚した。
それだけなら爆笑――本来は集団での笑いを指すが、一人でそれくらい笑うからヨシ――していたのだろうが、進撃ルートが【神の嫌がらせ】を目指していることがわかったからだ。
王国的には打ち捨てられた場所であり、重要ではない。
そんな地点を目指しているということは、目的は明らかだ。
――そうファルケファルケは思ったのだ。
ドラゴンはジゼロジゼロたちに復讐をしようとしている、と。※本来彼女の中では、妹に冠する美辞麗句が並ぶが割愛させていただいた。
怒り狂った彼女は、周囲の制止など聞くことなく、飛び出した。
「総大将が一人で行ってどうすんすか!!」
ダンバドの言葉も虚しく、ファルケファルケは街道を氷漬けにし、その上を氷で生成したスケートで滑走して行った。
スピードスケートは時速60キロに達し、世界記録――無論地球の――は時速100キロを超える。
ファルケファルケのそれは時折背中から氷を放出することで人智を超えた加速を可能にしている。
あまりの速度に、追いつけるものはいない。
しかしそれは、大群で動く白竜幕府の進軍速度を遥かに超えていたのだ。
白竜幕府は王都を通らず北方から最短距離で進んでいるため、街道は通っていない。
王都から街道を進むファルケファルケとは長辺三角形を描く軌道であり、目的地まで交わらないルートである。
結果、怒りのまま飛び出した彼女は、白竜幕府に出会うことなく、かなりの距離を進んでしまっていた。
都合の悪いことに、そこには一匹のドラゴンがいたのだ――
「どこだオラァ!!!」
天を駆ける、巨大な黒い翼。
雷纏う二本の角。
黒龍フォース。
具体的に白竜幕府がどのあたりにいるかも知らずに飛び出して来た雄。
「見つけたぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ファルケファルケは、黒龍に向かって飛び上がった!
足の裏から氷を生み出し、まるで氷のエレベーターのように一気に肉薄する。
「なんだてめえは!?」
「妹に手出しはぜえええええええええええええええったいにさせん!!!!」
自身の背後に、まるで光背のように氷の槍を組み合わせた幾何学文様を生み出すファルケファルケ。
「何だオラア!! タイマンかこらァ!! ドラゴン相手にいい度胸じゃねえか!! ヒマだったら受けてやっけどよお!! 今はそれどこじゃねエんだ!!」
牽制の雷を放つフォース。
「何度も食らうと思うてか!!」
ファルケファルケは稲妻の発生を角でのスパークの時点で読み、正面に地面まで突き立つよう槍を配置することで、身代わりとした。
すなわち、避雷針である。
「やんじゃねえか!! そんなら、どこまでやれっかみてやるぜェ!!」
「さえずるなドラゴン!!!」
既にフォースの頭に白竜幕府の事はない。
目の前の勝負で頭がいっぱいであった。
かくして、史上最も無駄で、始末に負えず、勝者のいないことが約束されている死闘が始まった――




