91・群竜迎撃戦:白竜サイド
白竜幕府の一群は、王都を素通りし、外れ大迷宮への進軍を続けていた。
途中、白竜帝の我儘で湖沼で休憩を挟む――あれだけ休まず進めと号令していた当の本人がであるが、王者とはそういうものだ――などしつつ、阻む者なく突き進んでいた。
彼らは想像していなかったが、ファスティバ王国の戦力は王都に立て籠もっていたのである。
王都は戦に備え、大きな壁が覆っており、要塞として使えるためだ。
戦争が少ないこの世界においては、王都くらいしかまともな要塞がないとも言える。
だが、そんなことを白竜幕府が知る由もない。
彼らは人間の作る要塞などハナから気にも留めておらず、強力なスキルを持つ【国宝】および国宝級防険者のみ、簒奪対象として調べていたのだ。
結果として全戦力を王都に集中させていたファスティバ勢力は素通りされ、何ら障害なく【神の嫌がらせ】へ到着してしまった。
「なんだ。拍子抜けではないか。猿どもが必死の抵抗をしてくるかとも思ったが」
白竜帝は嘆息しながら言う。
「がはは。恐れをなして巣に籠ったんでさ」
炎天君が能天気に笑う。
皮肉なことに、中らずとも遠からずである。
「……しかし、この入り口では我々は入れませんね……」
入り口を前に、水宮君がつぶやいた。
彼の言う通り、大型のドラゴンはとても入れるサイズではない。
白骨公主くらいの中型でようやく通れるかと言ったところだが、三将はとても無理だ。
「ヒト型になりゃいいじゃねえか」
「(馬鹿……)」
炎天君の一言に水宮君がああ、とばかりに目を瞑る。
「愚か者!! 余にサルの姿になれと申すか!!」
「だぁーっ!?」
白竜帝の怒りの雷撃が炎天君に直撃する。
マグマの温度にすら耐える尋常ならざる肉体の炎天君は痺れた程度で済むが、周囲の奉族は巻き込まれてイモリの黒焼きのように焼け死んだ。
「すいやせん大将!」
「こじ開けよ!!」
白竜帝の号令で入り口の階段を破壊にかかる奉族たち。
しかし、あまりに強固な壁は破壊できない。
それもそのはず、精霊がもっとも多くの力を費やして作り出したのがこの階段だからだ。
次元を接続する階段の破壊は、この迷宮の機能や意義の喪失に等しい。
ゆえに、その破壊は不可能と言わないまでも困難である。
「ええい、いつまでもたもたしておる!!」
白竜帝が怒声を飛ばそうが無意味である。
爬虫類人たちに破壊できるものではない。
「うぬぬぬーーーーっ」
「わしが……」
白竜帝がしびれを切らしそうなタイミングで苔転君が前に出た。
「おお、苔転君! 何をするつもりだ!」
「ンマ……見ていてください」
苔転君が入り口に体を寄せる。
体中の苔がざわめき、入り口にまとわりついてくる。
まるで日本の山奥のうち捨てられたトンネルのように、階段全体が苔に覆われる。
「ぬん」
苔転君が一声、それに合わせて階段の空間が広がった。
「おお! 流石は苔転君!」
「若の欲するところ成すのがわしらですので……」
「お前こそ最大の忠臣よ!」
大喜びの白竜帝。
少し離れた炎天君が首を傾げる。
「すげえなあ。どうやってんだろなあ……」
「……確かにどうやってるんだろうね……」
「なぁ! 不思議だよなあ!」
「……」
水宮君が、物理的に目を細める。
ともかく、軍勢は中に入っていく。
「あれ? おいらが引き込んだマグマが消えてるな……」
先頭で出口を覗き込んだ炎天君が怪訝な声を上げた。
だが、ほとんど誰も気にすることはなく、水宮君を最後尾に一団となって進んで行く。
そして、炎天君が砂漠に足をかけた瞬間、
「うおおおっ!?」
その巨体が、落とし穴に飲み込まれていった――




