89・ダンジョンTD
「迎撃のための準備をしましょう」
不意に、バトラーが切り出した。
「そうですわね。フォース様も行ってしまいましたし……」
「ああ……そうだな」
フォースは嵐のように現れ、嵐のように去って行った。
彼は単に、精霊を自分たちの総大将のように考えており、タイマンの前に筋を通しに来た、ということらしかった。
はるか古代に直接邪神の勢力と戦った世代の長老級ドラゴンと、それよりずっと後に生まれたフォースたち世代との認識の差はあるようだ。
とにかく、彼は邪神が動き出したのを知ったからこそ、人域に侵入した白竜幕府を止めるために飛び出してしまったのだ。
「フォース様が白竜幕府を止められれば良し、しかし、そうでないなら、ここを武装すべきです」
「待ってくれ。ドラゴンは王都に迫っているんだろう?」
「そうですわ! お姉様のお手紙にありましたもの!」
ファルケファルケの【氷鳥】が携えてきた情報には「ドラゴンの一団が王都に迫っている」と書かれていたのだ。
「確かにそれはそうですが、果たして王都を狙うのが目的でしょうか?」
「ほあ?」
「それは……」
いったん冷静に考えてみる。
白竜幕府は、自らの領域を出て人域に侵攻してきた。
パコニカによれば支配領域の火山列島が沈みそうだからという理由らしい。
その侵攻はドラゴンとしては許されないことで、他のドラゴンとの衝突は避けられない。
そこで、スキルを集め、戦力の足しにしようとした……。
その先遣隊と思われる白骨公主は、ここ外れ大迷宮を根城にした。
更に、王都に【千魔夜行】を仕掛けた――
「白骨公主が王都を狙っていたのは確かだ」
「いえ、あれはおそらく、ファルケファルケ様を釣り出すためでしょう」
「お姉様を?」
「そも、本気で王都を落とすつもりなら、魔物を操るなどより、複数のドラゴンで攻めればよいのです」
「それが今回なんじゃないのか?」
「これは想像になりますが、前回の襲撃は白骨公主による独断だったのではないでしょうか? つまり、白骨公主と白竜幕府の行動原理が同じとは限らないのです」
「ううん……?」
白骨公主自身は侵攻に乗り気でないようなことを言っていた。
その上で、白竜帝とやらの機嫌をやたらに気にしていた。
「白竜帝は侵攻をしたがってるんだろ?」
「ええ、ですから白骨公主は彼の機嫌を取るために、【国宝】のスキルを得ようとしたのではないでしょうか? しかしそれは、白竜幕府の第一の目的ではないはずです。
なぜなら、侵攻が先にあって、その成功確率を上げるためのスキル狩りでしょうから」
「なるほど……! そういうことか!」
「ちょっ、ちょっと二人で納得しないでくださいまし! 何が何だか……」
「白竜幕府は、そもそも火山列島が沈むから侵攻を決めた。彼らは火山に棲む生物だから。
でも、この国に火山はないし、真っ先に王都を落とす意味は薄いんだ。どうせそこに棲めないんだから」
「ああっ!?」
俺もそうだが、この国の人々がドラゴンに疎いのは、火山がないからだ。
火山だらけの日本生まれだと想像しにくいが、地球でも火山のない国はいくらでもある。
イギリスなんかもそうだし、オーストラリアに至ってはあれだけの国土を持ちながら火山がなかったはずだ。
……なぜ知ってるかと言えば、過酷な仕事の合間に世界中の温泉に入るのを想像して、各国の温泉事情を調べたことがあったからだ……。
「やつらが外れ大迷宮に来たのは、この周辺でここにしか火山がなかったからなんだ。ここのことはフォースのように、ドラゴンたちに情報はあったみたいだし」
「左様でございます。ですから、白竜幕府はここを根城にするため、再び狙って来るでしょう。
まぁ、白骨公主の復讐にジーロ様が狙われている可能性もバリバリございますが」
「ぶふっ!?」
確かにそうだ!
ドラゴンの集団から狙われて生き残れる奴なんかいるのかsr?
「そんなわけで、ここを武装した方がようございましょう」
「武装するって言ったって、精霊にその力は残ってないんだろ?」
「それが、雷の精霊が倒されてここに再起動しましたので、この大迷宮のリソースが増えたのですよ」
「あ、ああ……」
ドラゴン族に己の力を与え、記憶や知性を失ったという雷の精霊は、アルガスにまとわりついていた。
だが、それもユラーゲルに殺された。
どうなったのかと思っていたけど、ここでリポップしていたということか。
「そんなわけで電力を使えるようになりましたので、トラップやゴーレムをたくさん作れるようになったのです!」
「おお!」
「ですので――」
「ここからはタワーディフェンス、というやつです」




