9・呪われし、ほぼ恐竜ありがと武者
「糧食は分けてもいいけど、まず君は誰なのか答えてくれると嬉しい」
「わたくしはジゼロジゼロ。あなたこそ誰でして?」
「俺はジーロ、防険者の卵みたいなものかな……」
卵が孵ることはないが、嘘ではない。
「あら、防険者なら、こんなところに来ても意味はなくてよ。ここにスキルはないのだから」
「!」
知っているのか!
「じゃあ、何で君はここに……」
「そんなことよりお腹がすきましてよ」
ぐーぐー腹を鳴らすジゼロジゼロ。
名前が繰り返しになっているのは、この国の貴族の特徴だったはずだ。
議場で繰り返し名乗りを上げていた頃の名残だとかなんとか。
貴族にしては、フランクすぎる気がしないでもないが……。
ジーロと少し似た音だが、確か古い英雄譚にジゼロォという竜が出て来るので、それを由来とする同語源っぽいな。
「わかったわかった。保存食にはなるが」
干し肉を差し出すと、ジゼロジゼロは実家の飼い犬のようにだらだらよだれを垂らした。
今にも飛び掛からんばかりだが、理性で耐えているようだ。
「ふしゅるるる……」
ずいぶんギリギリだが。
「食べていいよ」
「ありがとむしゃ」
言い終わる前にもう食ってる。
ありがと武者爆誕だ。
「ご馳走様でしてよ」
食い終わるのも早い。
昔、スーファミで遊んでた緑の恐竜を思い出す。
「そんなに腹が減ってたの……」
「魔物を食べるか真剣に悩んでいたところでしてよ」
「それは相当だな……」
魔物は食えない……はずだ。
食べる人がいないのでわからないが……。
ただ、地球人が想像するより忌避感は強い。
人間の生気を吸い、時には死に至らしめる生き物なので、「人食いの熊を食えるか?」という感覚に近い。
よっぽど腹が減ってたんだなあ。
「勘違いしないでくださいましね! わたくしが腹ペコなのには理由があるのです」
「食料落としたとか……?」
「そんなおドジは踏みません。これは【呪い】です」
「【呪い】……?」
聞いたことがある。
スキル神殿で授かることが出来ない外法スキルがあると。
【呪い】はその一つ。
外れスキルとは全く意味合いが違うから、調べたりはしなかったが……。
「そう……あの恥知らずの元許嫁がかけた浅ましき【呪い】……!」
なんだ。
何か主人公っぽいじゃないか……!
「そう、【腹ペコの呪い】」
【腹ペコの呪い】て。
「すぐにお腹が空いてしまい、どんどん痩せていく恐るべき【呪い】なのですわ」
うん、名前こそあれだが、確かに恐るべき呪いだ……。
ん、ちょっと待て。
「どんどん痩せて……?」
「ええ、こんなにやつれてしまいましたわ」
どう見ても、ダイナマイトバディなのだが。
もう金のビキニが吹っ飛びそうなぐらいだぞ。
「元は、もっと……?」
「?」
ううむ、センシティブすぎて聞くに聞けない。
仕方ない。話を戻そう。
「それはそれとして、何でここに?」
「だから、【呪い】を解くためですわ」
「え? 【解呪】のスキルを使ってもらえばいいでしょ?」
【解呪】はレアスキルだが、大きな街には使い手はいる。
回復系の【スキル】が成長して派生するものだ。
あ、言っていなかったが、スキルは成長する。
授かったDスキルは上達に伴い、ツリーのように分岐していき、増えていき、より強くなる。
「効かなかったのです」
「……え?」
「父もほうぼう手を回しましたが、どんな術者も【解呪】出来なかった……どうやら、普通の【呪い】ではないようなのです」
「そ、そうか……でも何で……」
「ここは、誰も見向きもしない外れスキルが授かれると聞きましたの。だからもしかしたら、それは普通使い道がないような強力な【解呪】なのでは、と」
「なるほど……」
最後の可能性ということか……。
それなら理解は出来る。
「でも、それなら一人で来るべきじゃないでしょ。だって君はもうDスキルを持ってるじゃない」
「え?」
「外れスキルは、Dスキルと共存できないって聞くけど……」
「そうなの、ですの?」
ここは伝承としてもあやふやな部分だ。
Dスキルがあると授かれないのか、それとも上書きなのか。
前者の場合、取り返しがつかないので、俺はDスキルを授からずに来たのだ。
ただ、おそらくは上書きなんじゃないかと思う。
というのも、【万気】吸収と相性の悪い――肌の露出的な意味で――砂漠がいきなりあることから考えて、明らかにDスキルの使用を前提としているからだ。
だが、【神の嫌がらせ】というくらいだから、授与の段になって急にDスキル持ちは対象外とか言い出しかねなくもある。
「上書きされるにせよ、そしたらゴーレムは使えないし、帰れなくなるんじゃないか?」
「そんな……」
愕然として日傘を取り落とすジゼロジゼロ。
「……でも運は悪くない」
「へ?」
「俺はスキルがないんだ。もし外れスキルが上位の【解呪】だったら、俺がゲットすればいい」
「!」
感激のあまり、顔を両手で覆うジゼロジゼロ。
その指の間からは水が漏れている。
そうか泣いて――ない。
ぐううううううう、と鳴る腹。
「ごめんなさい、とても嬉しいんですけど、干し肉一切れじゃ足りませんの」
「ああ、うん。予備は多めにあるからどうぞ……」
「ありがとむしゃですの」
あまりに素早い食べっぷり。
こっちが差し出すや、無拍子での食いである。
「……ともあれ、お恥ずかしい話ですけど、他に手もありませんし、ジーロには甘えさせてもらいますの」
「気にしないでいいよ。こんな場所だし二人の方が安心だと思う。何せ――」
視線を、柱の間にある階段に向ける。
「この先には、何が待っているかわからないんだから」
「ふふん、まぁそれはわたくしに任せて下さいまし!」
「でも、ゴーレムは通れそうにないな……」
階段は明らかに人間用で、そう広くない。
「心配ご無用ですの」
ジゼロジゼロが指を鳴らすと、ゴーレムががらがらと崩れて石の塊になった。
「わたくしは、レアスキル【岩石】のスキルホルダー。岩石からなんでも生み出せますの。ゴーレムは現地調達出来ますのよ」
「おお~」
なるほど、この力で石塔を作ったわけか。
「ですから、大船に乗った気でどうぞ! 行きますわよ!」
と、止める暇もなく、我先に階段に駆けていくジゼロジゼロ。
精神年齢は逆だが、肉体的には2、3歳年上に見えるし、お姉さんぶって、敢えて先に行ったのかもしれない。
この辺は、転生者としては心苦しいが、転生などと言い出しても変人扱いされるのは目に見えている。
「……ま、頼もしい味方には違いないか」
俺も階段に足をかけ、そこで足が止まる。
不意に思い出したのだ。
そういえば入り口の足跡は、もっと小さかった。
ジゼロジゼロの他にも、誰かいる……?




