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8・ゴールデンお嬢様

 悪魔の指にも見える石の尖塔は、近づいてみたが、生物ではなかった。

 作りは素朴で、無造作と言っていい。

 俺の身長の二倍くらいで、数百メートルでほぼ等間隔に建っている。


「なるほど、目印か」

 

 ランドマークが何もない砂漠で、自分の位置を把握するための。

 だとすると新たな謎が浮かんでくる。

 これは、「元々あった」のか?

 それとも、「誰かが作った」のか?

 前者なら、【神の嫌がらせ】というくらいだから、トラップの可能性がある。

 後者なら、敵か味方かもわからない。

 ただ、石塔は風化や埋没しておらず、後者の可能性が高い。

 もちろん、魔法みたいなダンジョンだから、そういうオブジェクトという可能性もある。

 少なくとも、神殿が打ち捨てられるより前に、初めに攻略した誰かが作ったという感じはしない。


「しかし、誰かが作ったなら何の目的で……?」


 このダンジョンは外れスキルしか貰えないところだ。

 どう考えても、行く動機がない。

 仮に俺以外に転生者が存在するのだとしても――会ったことはないし聞いたこともないが――それでも選ばない場所だろう。

 自分が相当なもの好きな自覚はある。

 ここが外れと知らずに来たという可能性はあるが……普通はダンジョンにはパーティーアタックするから、全員が情報を調べずに来たというのも考えにくい。


「……まぁ、今の時点じゃ考えるだけ無駄か」


 判断できる情報がない以上、進むしかない。

 

「有難く目印に使わせてもらおう」


 というわけで、砂丘を下り尖塔から尖塔に向かって進むことにした。

 砂が飛んでくるので、口に手ぬぐいを巻き、時々、指を突っ込んで【水召喚】で喉を潤す。

 道中、何度も魔物に遭遇した。

 中でもウミガメほどもあるカニの化け物は、刃が通らなくて難儀した。

 ただ、下部に剣をひっかけてひっくり返すと戻れなくなってじたばたしていたので、コツがわかれば楽勝だった。

 今のところ、幸い砂竜は出て来ていない。

 が、こう変化がないとメンタルに来るものがある。


「こういう嫌がらせがあるとは思わなかったぜ……」


 デストラップ的なものを想像していたし、今も急に蟻地獄が足元に出て来るんじゃないかと疑ってはいるが、単調なのは単調なので苦しい。

 尖塔があるだけマシで、先人に感謝したい。

 塔があるということは、それまでの道中の左右に、めぼしいものはなかったということだ。

 だから先に進んでいるはずだ。

 これも、防険者が作っていたという前提だが、ここまでの旅で、それはもう確信に変わっていた。

 理由は2つ。

 1つは、塔の間隔はまちまちだということ。

 ダンジョンにデフォルトで置かれたオブジェクトなら、正確な間隔で配置されているんじゃないかと思う。

 2つ目は、先に進むほど魔物に遭遇しなくなったことだ。

 つまり――


「……先に入った奴は、近くにいる」


 その予感は当たった。

 しばらく歩くと、砂に埋もれていない、魔物の死体が現れたのだ。

 化けガニがひしゃげて絶命していた。

 どういうスキルを使えばこんなことが出来るのか、想像がつかない。

 【怪力】のスキルだろうか?

 身体強化系スキル自体は、オーソドックスだ。

 もしそうなら、仮に敵対した際に厄介すぎる。

 火や風のスキルならかわしたり防御したり出来るが、身体強化系のスキルはごり押しされたら打てる手が少ない。

 無論、敵とは限らないし、それを祈る。


「ん?」


 次の塔が、ない。

 目の前には広大な砂漠。地平線。

 どういうことだ?


「何でここで終わって……いや」


 当然のことに気づいて顔を左右に振ると、左側の奥に何か見えた。

 砂漠の中の、大理石の列石群。

 明らかな人工物だ。


「下への階段か!?」


 パルテノン神殿を思わせる、白亜の柱が並び、一本だけ歪な柱がある。

 

 あれを見つけたから、ここで塔が終わっていたのだ。

 自然とテンションが上がり、思わず駆け出してしまう。

 そして、近づくと、自分が勘違いしていたことに気づいた。

 一本だけ歪なのは柱じゃない。


「【ゴーレム】か!!」


 岩を組み合わせて作ったような、小屋ほどもあるゴーレムが巨大なイカと戦っていた。

 カニを叩き潰したのもアイツだろう。

 ゴーレムを生み出すスキルもあるとは聞いていたが、非常に珍しいはずだ。

 そして、少なくともゴーレムなら、術者がいるはずだ。

 戦闘で巻き起こっている砂煙の奥に、それは居た。


「やーーーーっておあげなさい! ゴーレムちゃん!!」

 

 銀色のロングヘア―をドリルめいた縦ロールにし、ダイナマイトと形容するのが的確であろう体を、金色のビキニで覆った女性だった。

 お嬢様のようにも見えるが、水着で日傘を差しているのでどこかレースクイーンのようにも見える。

 ……。

 どちらにせよ、あまりに砂漠とミスマッチであった。


「おほほほほほ!! いいですわいいですわ! ナイスファイトでしてよ!!」


 自分のゴーレムの戦闘を、文字通りの砂被り席で応援している。

 イカ足を引き裂くゴーレムにご満悦だが、テンション上がりすぎて周囲に気づいていない。

 背後に、干しゴブリンが抜き足差し足で迫っている……!!


「おい! 後ろだ!!!」


 反射的に警告を飛ばした。


「ほ?」


 急な声に驚いた銀髪のお嬢様は、振り向くや、目の前に干しゴブリンがいることに気づく。


「オヒョーーーーー!?」

「……っ!!」


 銀髪のお嬢様は急なことに対応できていない。

 俺は即座に弓を取り出し、干しゴブリンに向かって矢を放った。


「ピギーッ!」


 矢は干しゴブリンの背中に突き立つ。

 一時的に動きこそ止まれど、菌類であるコイツは、それだけでは倒せない。

 全力で間合いを詰め、背後から斬りかかる。


「ピュギッ!?」


 反撃する間もなく、干しゴブリンは半ばまで裂けて倒れた。

 そこで、お嬢様と目が合う。

 お互い探り合うような視線。

 その間にも、ゴーレムはイカを殴り続けている。

 ややあって、口を開いたのは同時だった。


「えっと、君は誰?」

「ご飯余っていませんこと?」


 なにその第一声。

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