7・砂漠とハメ技
山の洞窟の中にあるはずの大迷宮の中は、広大な砂漠が広がっていた。
明らかに外から見た山のサイズより、中の空間の方が明らかに広い。
慣れ親しんだ某アニメのドアのように、入り口の門だけが砂漠に生えている。
スキルなんてものがある世界だから物理法則もあってないようなものかもしれないが、流石に予想外すぎて驚いた。
太陽はないが、星のようなものが浮かんでいて、空間を照らしている。
「砂漠は2面からだろう……」
ファミコンだとだいたいそうだったのに。
……というのは冗談だが、砂漠用の装備など準備してきていない。
おそらく地下への階段がどこかにあるはずだが、探すのにどれほどかかるのかわからない。
「神の嫌がらせとは、言い得て妙だな……」
基礎スキルで水が出せる以上、渇き死にはないだろうが、逆にそれを前提とした生かさず殺さずの作りになっている。
しかも、じりじりと肌を焼く日差しは、肌の露出を許さない。
つまり、肌から【万気】の吸収がしにくい。
そう、スキルを発動しにくいということだ。
その上で攻略させるあたり、意地の悪さを感じる。
「……まぁ俺は問題ないが」
元からDスキルは持っていない。
洞窟の寒さに備えて用意してきた長袖に着替え、つば広の帽子でとりあえずはOK。
問題は、暑さというより――
「ピギー!!」
砂から飛び出して来たゴブリンたちだ。
「おちおち攻略法も考えてられないな!!」
水分がないのか干しシイタケに似たゴブリンに剣を叩きこむ。
キノコではあるので、真上から斬らないと斬りにくい。
干しゴブリンは初めてだが、やり方は変わらない。
落ち着いて斬るだけだ。
「ピギャーッ」
一匹を倒しても、残りのゴブリンたちはひるまない。
セカンダールにおける魔物の定義は、「人間だけを襲う」、「生気を吸う」、「致命傷を受けても逃げない」の3つだ。
生気は、生命力と万気が混ざったものだとされている。
この世界にもライオンや狼などもいるが、生気は吸わないので魔物にはあたらない。
「面倒だな、と!」
干しゴブリンは、太刀筋さえ気を付ければ難しい相手じゃない。
ゴブリンは人間を昏倒させることの出来るパンチを振り回してくるだけの魔物だ。
こん棒めいた木片を持っていることはあるが、間合いに気を付けていればいい。
生気は昏倒しないかぎり吸われることはない。
近い順に全てのゴブリンを倒し切る。
問題は――
「サメだよな……あれ」
砂の海を、無数の背びれが泳いでいる。
背びれのサイズから考えて、2、3メートルだろうか。
流石にスキルなしであんなのと渡り合うのは危険すぎる。
魔物は生気を吸うために人間を襲うため、単に吸われただけなら治療スキルで生気を回復できる。
だが、牙や爪で裂かれ、損傷が激しい場合は治療できない。
いずれにせよ一人旅では昏倒しただけでアウトだが。
などと考えていると、サメの背びれが突っ込んでくる。
「プシャアアアアアアアアア!!」
「はぁ!?」
砂から飛び出して来たのは、竜だった。
サメの背びれに見えたのは、そいつの背にいくつかあるもので、たった一匹によるものだったのだ。
丸太がそのままうねりながら襲って来ると思ってほしい。
よく漫画にあるほど巨大ではないが、人間が正面からやりあえるサイズではない。
「……仕方ねえ!」
この手は使いたくなかったが、手段を選んではいられない。
竜に背を向けて入り口に飛び込む。
そして手と顔だけ出し、弓を構える。
「プシャア……」
今にもとびかからんばかりだった砂竜が、戸惑っている。
そりゃそうだ。
コイツは外に出られない。
もし出られるなら、こんな危険なダンジョン、封鎖されているはずだ。
つまり、入り口に陣取れば、一方的に攻撃が出来る。
「ファミコンのハメ技みたいだが、悪く思うなよ!」
近づくに近づけない砂竜に、射かけまくる。
「プギャアアアアア!!」
胸は痛むがそんなこと言ってられない。
こっちにはチート能力もないのだ。
魔物はダメージを受けても逃げない性質を持つ。
だが、門もくぐれない。
ただの的と化した砂竜。
地道に矢を射て、矢筒の中身が心もとなくなったころ、顔面をハリネズミにした砂竜はその場に倒れこんだ。
「勝った……」
卑怯すぎる手だが、贅沢は言っていられないのだ。
砂竜が死んでいるのを確認し、口元に近づく。
「お、あったあった」
大型の魔物は、たいてい【気珠】を体内に持つ。
死ぬとそれを口から吐き出すのだが、人間から吸った生気が混ざって結晶化したものだとされる。
ゴブリンはほとんど持っていないが、倒される人間が少ないからだと推測される。
逆に言えば、持っているということは――と嫌な想像をしてしまうが頭を振り払う。
ちなみに、この気珠を国家が買い取るシステムが確立しているので、防険者などという職業が成り立っている。
まぁ、俺は登録していないから買い取ってもらえないが、あって困るものじゃない。
一応回収しておく。
ふと違和感を覚えたが、見たことのない紫色だ。
気珠は赤か青で、違いはないとされている。
だが紫なんて聞いたことがない。
「……やっぱり普通じゃないダンジョンなんだろうな……」
だが、それも覚悟の上。
油断せず進む以外の道はない。
とはいえ、今の砂竜が群れを成したりしていたらどうにもならない。
とりあえずは、目の前に見える砂丘の一番上まで進むことにする。
そうすれば、何か見えるかもしれない。
「ふぅ……ふぅ……」
何度も足を取られそうになりながら、登っていく。
幸い、他の魔物が襲って来ることはなかった。
これだけ広い砂漠だ。
魔物も偏在してるんだろう。
やがて、砂丘の上に上がることが出来た。
そこからは、先を見下ろせたのだが――
「あれは何だ……?」
そこには、三角錐の石の塔が、一直線に何本も立っているのが見えた。
それはまるで、地面から突き出した悪魔の指だった。




