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10・外れ大迷宮・地下1F

 砂漠の階段を降り、突き当たりのドアを開けた瞬間、広大な空間が現れた。

 先に降りたジゼロジゼロも茫然としている。

 それも無理はないほど、あまりに予想外の光景だった。


「まさかですわ……」

「大湿原とは……」


 目の前には、地平線まで遥かに続く大湿原。

 葦原をトンボが舞い、カエルのケロケロという鳴き声が響き、水面にはメダカの群れが見える。

 おそらくゲンゴロウやタガメなどもいるだろう。

 地球なら、間違いなくラムサール条約の対象だ。


「またこの広さを探索するのか……」

「ここなら、食べ物にも困らなそうですわね」


 視点が違う。

 ジゼロジゼロは、いつの間にか釣り竿を担いでいた。

 彼女には、広大な釣り堀なのかもしれない。

 ちなみに折り畳み式なだけで、別に収納スキルとかそんな便利な物はない。

 元は大きな背嚢を持ち込んでいたそうだが、食料を食べつくして最低限の荷物だけ小ぶりなバッグに詰めているようだ。


「……っと待って」

「心配しなくてもジーロのぶんも釣って差し上げますわよ」

「いや、そんなことは心配してないよ」

「あら、いつの間にそんなに信頼されたのかしら。わたしく生来の慈悲深いところがバレている……?」


 くれる前提で考えてたって意味じゃない。

 だが、いちいちツッコんでたら話が進まないのでスルーする。


「俺より先に入った人がいたみたいなんだけど、遭わなかった? 入り口に小さな足跡があったんだけど……」

「いえ? いませんでしたわよ」

「おかしいな……君の作った石塔を追って行ったんだけど、途中に誰にも遭わなかったんだよ」

「わたくしより前に入ったのではなくて?」

「いや、君の足跡は見当たらなかった」

「わたくしも入って半日というところですが……」

「たぶん、積もってたのは、ほこりじゃなくてゴブリンの胞子だったんだろうね」


 ゴブリンがうろつくあたりでは、胞子が舞うので、足跡がつきやすい。


「誰かが野良ゴブリンを倒して入ったんじゃないかな」

「ふむふむ。まぁ気を付けていきましょう」


 全然、話をちゃんと聞いてない。

 もう、魚釣りしか考えてない目をしている……。

 今話しても無駄だこれ。

 そんなわけで、ジゼロジゼロは腰を下ろせそうな岩場の上で釣りを始めた。

 

「……」


 考えるのはこっちの担当だと考えておこう。

 しかし、パーティーを追放されたがっていた俺が、こうしてジゼロジゼロとパーティーを組んでいるのは、不思議な感覚だ。

 もちろん、外れスキル取得を軸に考えた人生設計だったから、自然と追放されるはずだっただけで、パーティーを組むこと自体に抵抗があったわけじゃない。

 ただ、追放予定だったから、人間関係に深入りはしなかっただけだ。

 ……。

 改めて、腰かけで会社に入る奴みたいで、ヤな奴だな俺……。

 スパルネたちにまた会ったら、上手いものでも奢ろう……。

 と、それより周囲の確認だ。


「魔物の姿は見えないが……」


 ただ【神の嫌がらせ】だ。

 全部が罠の前振りにしか思えない。

 何しろ、砂漠で出てきたのが海産物ばかりだったし。

 こっちの事前準備を全部ぶっ壊す前提な気がする。

 少なくとも、この湿地ではジゼロジゼロのゴーレムは使えない。

 あんな重いもの、泥に沈んでしまうだろう。

 よし、まずは足場の確保からだな。


「あそことあそことあそこと……」


 点在する岩場を通れば、体力の消費を抑えられる。

 というか、靴をぐしゃぐしゃにしたくない。

 一応、ブーツのロールアップした部分を伸ばせば長靴代わりに使える防険者仕様なんで、浅いところなら問題ないんだが……。

 などと考えていると岩場の配置が、何か変だ。

 さっきあんな近かったか?

 だって、ジゼロジゼロはもうちょっと離れた場所で釣りをしていた。

 なのに、彼女が座ってた岩場がすぐ近くに。

 これは王道の――


「魔物だ!!」

「はい?」


 岩場に見せかけた亀の化け物が飛び出して来た!!


「オヒョーーーー!?」


 いや違う!

 亀じゃない!!


「なんでアルマジロ!?」


 どこまでひねくれたダンジョンなんだよ!!

 巨大な水マジロがジゼロジゼロを乗せたまま突っ込んでくる。


「くそっ! 俺と相性最悪だ!!」


 剣も矢も通る相手じゃない。

 【氷】や【雷】のスキルが有効な相手だろう。

 もちろんそんなものは使えない。

 だが、そんな相手を想定してないわけじゃない。

 準備はしてきていたが――


「助けて下さいましーーーーーー!!」


 ジゼロジゼロが振り落とされまいと甲羅にしがみついている状態では、巻き込みかねない攻撃はできない。


「……仕方ない。あんまり同じことはしたくないんだが……!!」


 浅瀬を駆けて階段の入り口に向かっていく。

 まだほとんど探索していなかったのが幸いした。

 また階段でハメてやる!


「……!」


 そんな心理を読まれたのか、入り口付近の水中から次々とゴブリンが浮かび上がってきた。


「くっそ!!」


 構うもんか。

 突っ込むしかない。


「ピギ?」


 ゴブリンも驚いたのか、混乱している。

 ジャンプして、その頭を踏んづけ、更にジャンプ。

 反転して水マジロの頭を踏んづける。


「ブェッ!!」


 更にジャンプして、甲羅の上に飛び上がる。


「ふぇ?」


 落下地点にはジゼロジゼロがしがみついていたが、慣性と重力で避けられない。



「悪い!」

「ふぎゃす!!」


 思いっきりジゼロジゼロの上に落ちてしまった。

 スーファミの緑の恐竜みたいとか言ってたけど、ほんとにそんな感じになってしまった。

 振り落とされないようにジゼロジゼロを掴んだが、もうセンシティブとか言っていられないので、どこを掴んでいるかはわからない。

 法律上の緊急避難だ。許して欲しい。

 水マジロは突如、俺が目の前から消えたため、止まることが出来ずにゴブリンを巻き込みながら階段に突っ込んだ。


「ファゴッ!?」


 激しい衝撃。

 まだ暴れていたら振り落とされていただろうが、階段がよほど硬かったのか、絶命していた。

 その証拠に口元から赤い気珠を零している。


「……っと、ごめん」


 いつまでもジゼロジゼにしがみついているわけにはいかない。

 慌てて離れたが、返事はない。


「ど、どうしたの? 痛かった?」

「よく見たら、この魔物、わたくしの竿にかかってますわ」

「え?」


 なるほど、よく見たら口元に糸が続いている。

 それを辿ると、ジゼロジゼロの手元の竿に辿り着く。

 あの状態で竿を手放さない根性もすごい。


「つまり、釣果ですわよね。食べてもOKということですわよね」


 顔を輝かせるが、これは言わねばならない。


「だから、魔物を食うな!!」

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