86・竜の使命
フォースは、ダンジョンの入り口から、全てをぶち抜いて一気にこの階層まで到達したという。
本来の攻略手順とは違い、次元の接合点に突っ込む荒業らしく、普通はドラゴンでも出来ないという。
本人曰く「カチコミみたいなもの」らしいが……全部が雑すぎる……。
「ま、とにかく大船に乗ったつもりでいろや。っていうかここでのんびり待ってろ。全部カタつけてくっから」
「ちょ、ちょっと待って! 一人で行くのは無茶だろう!?」
「だからタイマンするって言ってるだろうが」
「相手が受けてくれるとは限らないじゃないか!」
「それは無ぇ」
急に、温度が変わる。
休み時間の雑談と始業チャイムが鳴って業務が切り替わるように。
「ドラゴンの誇りにかけて黒龍領域からタイマン挑まれて逃げやしねえ。そうなったら、もうドラゴンじゃねえ」
まるで岩山のような揺るぎなさ。
これは山脈や河川のような長い年月を生きる生命にしか出せない重さ――
「わかった……疑って悪かった」
「わかりゃいい。ま、ドラゴンの誇りを人間が理解できるたぁ思えねえから気にもしてねえが」
「しかし、問題は他にありますね」
「あ?」
にこやかに割って入るバトラー。
「【深魔】が復活しました」
「【深魔】? なんだそりゃ?」
「おや、ご存じない?」
「持って回った言い方すんなよ。お前、精霊が用意した案内人なんだろ? ダチみてえなもんじゃねえか」
ダチ認定早すぎる……。
「それは光栄ですが……【深魔】とは邪神の一味と思われるモノです」
「ハァ!?」
顎が外れんばかりに大口を開けたフォース。
まさか、知らなかったのか?
「ウルトラヴァイオレットの下僕が侵入してんのか!? マジかよ!! それでジジババたちは動かなかったのか……」
茫然と立ち尽くすフォース。
その様子からも、衝撃の大きさは伝わってくる。
「他のドラゴンさまたちは気づいているということですの?」
「おそらく、長老格は感知しているでしょう。精霊の力は衰えておりますが、そのくらいのアラートは出せたかと」
「いったん整理させてくれ。精霊とドラゴンの関係ってどういうものなんだ? そして邪神との関係は?」
「うーん、私もそこまでの情報を貰っているわけではないのですが……特に神に関する情報はほとんどありませんし」
「……俺が教えてやる」
フォースが、意を決したかのように口を開いた。
「あんまりベラベラ話すことじゃねえが、ここまで関わってる奴らだ。知る権利はあるだろ……」
すぅ、と一呼吸。
「ドラゴンってのはな、精霊からこの世界の守護を任された種族だ。何から守護するのか。そりゃあもちろん、ウルトラヴァイオレットの下僕たちからだ」
「なるほど……」
それはこれまで得た情報と符合する。
雷の精霊が、その力の大半をドラゴンに渡したのは確かなのだ。
「精霊の力は、邪神の下僕と相性がとにかく悪い。当初は殺しきれずに、封印するのがやっとだったそうだ」
「そうか! 【精霊琥珀】はその時の――」
「大体は封印ごとドラゴンたちで破壊したんだがな。人域にあるものはそうもいかねえ。大方、【深魔】とやらもそこから復活したんだろ?」
「ええ、その通りですわ。……でも言ってくれたらよかったですのに」
「ドラゴンは人域に関わらねえのが基本だ。それに精霊の封印を破壊できる人間なんかいねえからな」
「……」
「どうした? ヘンな顔して」
……黙っておくのも、真摯ではないだろう。
もしかしたら、バラバラに引き裂かれるかもしれないが……。
俺が言おうとするのを、ジゼロジゼロが手で制する。
心配してくれるのは嬉しいが、その手をそっとどける。
「ジーロ……!」
「いいんだ……これはちゃんと言うべきだ」
「何なんだよ、だからもったいぶるなって」
「【精霊琥珀】を破壊して、【深魔】を解き放ってしまったのは……俺なんだ」
「ンだとォ!?」
フォースの両角の間に雷が走る。
「てめえ、何してくれてンだ……!!」
「知らなかったんだ……中にいるのは精霊だと思っていたし……でも、俺がやったことには変わりない。その責任から逃れるつもりはないよ」
「……」
フォースは固まったように動きを止めた。
それから何秒経ったか……。
「……まぁ、やっちまったもんは仕方ねえ。わざとだったら焼き殺してるけどな。ガハハハ」
カラッとしているのが逆に怖い。
ドラゴンほどの生物になると、相手をいつでも殺せるからこその余裕があるのかもしれない。
「……で、どうやって破壊したんだよ? まさか素手じゃねえよな?」
「ここ【神の嫌がらせ】で得たスキルだよ。【死】を付与するスキル……」
「なんだそりゃあ……物騒だな」
物騒の一言で済ませてしまえるのも、器がでかすぎる。
これも生命としてのスケールの違いだろうか。
「まぁ心配すんな。ドラゴンは奴らの天敵だからよ」
「え、そうなんですの?」
「精霊の力が効かねえから、ドラゴンが必要だったんだ。生身で奴らを引き裂ける生き物がな」
「あーっ、なるほどーーー!!」
ジゼロジゼロのリアクションの良さに、フォースも上機嫌になっていく。
「【深魔】っつうのは聞いたことなかったけど、封印されてたってんなら相当古いんだろうよ。どっちにしろ、俺らドラゴンで八つ裂きにしてやるから安心しな」
「【深魔】というのは、私に与えられた知識にもありませんでした。失伝していたのかもしれませんね。もしくは、偽装のために身分を偽っている、という可能性もありますが」
「まさか【侵深邪将】クラスってことかァ?」
「【侵深邪将】ってなんですの?」
「ウルトラヴァイオレット直轄のバケモン……と聞いてる。【侵深邪将】、【侵深邪神官】、【三副侵】が将官クラスって話だが……流石にそんなもんが出てきたら、全ドラゴンが同盟組んで追討しなきゃなんねえだろうな」
ドラゴンが言うバケモノとはどんなレベルなんだ……?
でも――
「だとしたら何で――」
「あァ。こんな時に、白竜幕府のバカどもは何を考えていやがる……!!」




