85・招かれざる黒龍
慌てて装備をして銭湯を飛び出した俺たちが見たのは、バトラーの前に立つ男の姿だった。
長身で黒髪、スーツにも似た黒服は胸元をぱっくり開けている。
インテリヤクザといった風体だが、違うのはその頭に二本の角が生えていることだ。
「ド、ドラゴン人……!?」
「あぁ?」
黒服がガラ悪く睨んでくる。
俺は身構えるが――
「心配ございません。こちらの方は敵ではありません」
バトラーは満面の笑みを浮かべた。
「でも警報が鳴っただろ」
「まぁ……かなり強引な入り方でしたので……」
「悪ぃ! 急ぎだったんでな!!」
「な、何がなんだかわかりませんわ。説明してくださいませんか?」
同感だ。
白竜幕府の侵攻ではないのか?
「あァ、まぁそうか。俺ァ、黒龍領域のフォース。白竜のバカどもを止めに来た」
「え?」
「この方は、白竜幕府とは別のドラゴンの一族ですよ」
「ほあ!?」
「あァ、ここは狭ぇから人間の姿をしてるがよ、俺の正体はもっとドでかいドラゴンなのよ!」
フォースが鋭い犬歯だらけの口で笑う。
確かに、目の前のこの男から放たれる存在感は、人間の情報量を超えている感覚がある。
「ドラゴンは人型になれたのか……」
「まるでスパルネさんみたいですわ……」
「あ? ドラゴンが人型になれるの、知らねえのか?」
「知らないと思いますよ? というより、普通ドラゴンは自分たちの領域から出てこないので、人域に情報が極端に少ないのです。白竜幕府は人間を見下していますから、人型になることもないでしょうし」
「なんだァ、そうか。そんじゃアレか。俺らと白竜の区別もついてねえんか人間たちは」
「左様でございます」
「かーっ、めんどくせえな。せっかく助けに来てやったってのに、攻撃されちゃ世話ねえな」
頭をぼりぼりかくフォース。
「た、助けに来たって、どういう……?」
「言葉通りだ。白竜のボケナスどもは、四雷の誓いも忘れて人域に侵攻しやがったからな。古の約定に従い、精霊の元に馳せ参じたってわけよ。……んで、精霊はどこだ?」
四雷の誓い、古の約定……人域に伝わっているドラゴンの伝承はそう多くなく、ほとんどステレオタイプなものばかりだが……情報の断片から想像するに、ドラゴンと精霊は協力関係にあるのだ。
「残念ながら、ほとんど力を使い果たして顕現するのは難しいかと」
「マジかよ……しゃーねえな! 雷の名代として、俺がひと肌脱いでやらあ!!」
ばちんと拳と掌を合わせるフォース。
ユラーゲルが雷の精霊がドラゴンに力を与えたと言っていた。
雷の名代というのは、それを示しているのだろう。
「あ、あの、質問なのですけど」
「何だ?」
「おひとり、なんですの?」
「そうだぜ? じーさんばーさんは慎重すぎていけねえや」
「敵は、白竜幕府全部じゃないんですの? 流石に多勢に無勢と言いますか……」
「なぁに心配いらねえ! 白竜帝の野郎とタイマンしてぶちのめしゃあいいんだ!!!」
あ然。
俺たちは言葉を失った。
コイツ、インテリヤクザっぽく見えるが、大してなんも考えてない……!!
「で、白竜帝の奴はどこだ?」




