84・牛乳問答
番台前の休憩エリアで、ごきゅごきゅといい音を立ててジゼロジゼロがフルーツ牛乳を飲んでいる。
俺はコーヒー牛乳派。
ちなみに、ジゼロジゼロはバスタオルを巻いているが、これは単に湯冷めを防ぐためだ。
「っ、めちゃくちゃうめえですわ!?」
言葉遣いがおかしくなるくらい美味かったらしい。
冷蔵庫はないが、キンキンの井戸水で冷やされた乳飲料は、火照った体にとんでもなく美味いのは確かだ。
しかしよく考えれば、精霊はどうやって牛乳を出しているのだろう?
生命の創造はおそらく出来ないから、合成……しかし味は本物としか思えない。
どこか牧場でもあるのだろうか。
そんなことを考えていると、不意に会話が途切れる。
「……ずっと気になっていたのですけど……この際だから聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「何を?」
「ジーロは何のために戦っているんですの?」
「……!」
それ、は。
「なーんて、ひとの事を言えた義理ではないのですけれど……」
ジゼロジゼロが笑う。
「わたくしは、【呪い】を解くのが目的でした。しかし、それはジーロが居れば、解いても解かなくても別に大差ないものになりました。だから、わたくしも目的らしい目的はないんですの。もちろん、スパルネさんはお友達ですから、あの方を助けるのは最優先ですわ。
でも、それが終わったらどうするか、実は何も思いついていませんの」
「……例えば【呪い】をかけた相手に復讐するとかは考えなかったのか?」
それは、今まで聞けずに居た事だった。
センシティブだからというのもあるが、天真爛漫なジゼロジゼロが復讐に燃える姿を見たくなかったというのも、おそらくある。
「うーん、そうですわねえ……本当に【腹ペコ】には苦労させられましたから、犯人を許せない気持ちはありますわ。あ、言っていませんでしたわね。犯人が誰かはわかっていないんですの。たぶん、わたくしというより、一族に恨みがあったのではないかと思うのですが……」
そうだったのか……。
でも、ジゼロジゼロを【飢餓】で苦しめて殺そうとまで思う人間が早々いるとは思えない。
おそらくは、【国宝】である姉への嫌がらせ……。
「まぁ、そんな悪いひと、お姉様が許さないと思いますし、わたくしがどうこうしたいという気は別にないんですの」
「……そうか」
ファルケファルケの怒りは激烈なものだろう。
それを思えば、自身が復讐どうこうをわざわざ考えないというのは、わかる。
あるいは、ジゼロジゼロのシンプルな善性なのかもしれないが……。
「ですから、わたくしに目的らしい目的はないんですの。防険者になったのも、【呪い】を解くためでしたし……。
ジーロの戦う理由が知れたら、参考になるかもって思ったんですの」
「……俺のは、参考になんかならないよ」
考えていなかったわけじゃない。
物心ついた頃に前世の記憶が目覚めて記憶を引き継いだとはいえ、約十年はこの世界で生きてきたのだ。
本当の意味で熱に浮かされていられたのは最初の方だけで。
そんなもの、何年も続くはずがない。
それから目を逸らして、外れスキルを求め続けてきた。
なぜなら、そうしないと前世が辛すぎたから。
あの時苦しんだ前世の自分が、今世では報われないと、おかしいと思ったから。
社会に見捨てられた氷河期世代のためのボーナスステージ。
そう思わなければ、耐えられなかった。
だけど――
「今の俺が戦うのは――」
答えようとしたその時、警報が鳴り響いた。




