83・バンババンバしてる場合か
「へー、変わった銭湯やなあ」
「不思議と涼しげですわね」
壁の向こうから声がする。
こちらは男性用の慣れ親しんだ脱衣所。
昭和初期の銭湯といった印象だ。
精霊が再現できないものはないのだろう。
扇風機やドライヤーのような家電や、石油化学製品はない。
鏡や、鉄製の体重計はあり、長椅子の上にうちわが置かれている。
ちなみに番台には誰もおらず、タオルは木製のロッカーに置かれているのを自由に使っていいシステムらしい。
「……落ち着く……」
この世界で十数年生きてきたが、前世ではその倍以上生きていたのだ。
故郷に帰ったような安心感がある。
感慨にふけりながら、大浴場へ。
富士山のタイル絵が描かれた大きな風呂と、体の洗い場だけがあるシンプルな作り。
まぁジェットバスや電気風呂は精霊には作れないのだろう。
雷の精霊に知性が残っていて、協力してくれていたら違っていたのかもしれないが……。
結局、サンデラの過去に何があったのか、そしてあのまま消えたのかすらわからない今は、考えてもしょうがない。
あと、死角になっていて入った際には気づかなかったが、左手側の入り口側に、サウナ室と水風呂があった。
サウナは特に興味がなかった――かつて同僚がサウナ後に脳卒中になったので――が、たまにはいいかもしれない。今は若いし。
それはともかく、体を洗う。
桶はプラがないので木製なのが寂しいが、置いた時にかぽーんといい音がはするのでヨシ。
常人の【水召喚】は水量的に体を洗うのには向いていないので、ちゃんと水道もある。
備え付け……というか単に置いてある石鹸でよく体を洗い、浴槽へ。
足をつけてみると――
「熱っ」
我慢すれば入れなくはないが、まぁ、玄人向け過ぎる。
蛇口の水でうめて熱さを和らげ、ゆっくり浸かる。
「ふぃー」
手ぬぐいを頭の上に乗せ、肩まで浸かる。
圧倒的、リラックス。
バトラーが俺の記憶から作ったものだから当然だが、やはり銭湯は性に合っている。
警官時代も、よく銭湯を利用していた。
流石に制服では行かないが、行きつけの銭湯は警官が立ち寄ると喜ばれる――タトゥーの入った半グレなど対策として――のもあって、家に風呂はあるが、ちょくちょく通っていたものだ。
その浴場を、独り占め出来るのが、更に気持ち良さを増す。
「極楽極楽……」
考えなければならない様々なことを、今は一旦忘れる。
「休む時は余計なことを考えずに休め」は先輩の巡査部長の言葉だが、今になってその言葉の意味がよくわかる。
あの頃の俺は、オンオフの切り替えも上手く出来ず、自家中毒のように壊れて――
いや、今はそんなことも忘れる。
お湯に身をゆだねるのだ。
そう、温泉に浸かる猿のように。
「ほあー、そういう風に浸かるんですのね」
「え?」
声のした方を見ると、男湯と女湯を隔てる壁の上に、ジゼロジゼロが身を乗り出していた。
「何してんだ!?」
「何をそんなに驚いてるんですの?」
上半身を乗り出しているせいでメロンが二つ、壁の上に陳列されているが、まるで意に介していない。
そりゃ、この世界では混浴が当たり前だから、そうかもしれないけど……!
「タオルは頭に乗せればいいんですのね」
「あ、ああ。湯船につけなければなんでもいいんだが……」
「うちはもう上がるでー」
風で飛び上がったガングレーナが言って来る。
丸出しの風神という感じだが、こっちも全然気にしてない……!
あと何気にバンダナ外しているのを初めて見たが、だいぶ印象が違う。
「ええっ、早すぎません?」
「はよ国に帰らなならんからな。いつもだったら熱燗で長湯するとこなんやが、もうそういうのもやめたしなー。てなわけでお先!」
ピッと指を振って、ガングレーナは飛んでいく。
おけつ丸出しだが気にもせず。
っていうか、空から番台行くなよ!
【酔歩する天災】と呼ばれた女は、酔ってなくてもなんだかんだ豪快に去って行った。
「わたくしたちはゆっくりしていきましょうか」
「そ、そうだな。しばらく強行軍が続いていたし……」
「あ、そっちに行ってもいいです? 一人だと寂しいですわ」
「それはダメ」
「なんでですの~~~~~~!!」




