81・リバース再び
「選択肢の中にユラーゲル追跡が無かったんは、そういうわけか~」
「ええ……奴がどこに向かったのか、全くわかりません。でも、パコニカと繋がりがあるなら、彼女が手掛かりを持っているはずです」
「そしたら、うちを外すのはちゃうんやないか?」
「ま、まぁそうなんですけど、追うのは個人的な理由なので……それにドラゴンの方が優先度高いと思いますし」
「いや、アイツの能力を考えたらそうとも言い切れんな。確かにドラゴンの大移動は国が滅ぶレベルやから危険度は桁違いなんやが……不可逆の悪質さをアイツからは感じたわ。攻撃すらまともに効かへんし……」
ガングレーナは血が乾いた額を触る。
パリパリと血が砕けるが、ユラーゲルとの激闘の跡を感じさせる。
「そうだ。ユラーゲルに、おそらく通用する攻撃方法があります」
ゼフィーとの戦いの中での直感したことだ。
マイナスの生命というあり方への対処法――
「なんやて? それはアンタのスキルとは違う方法か?」
「ええ。単純な話なんですけど……たぶん素手なら効きます」
「は?」
「ヤツは、概念としてこの世界の生命体と反対の存在なんです。最初から死んでいるようなものなのでスキルで殺しても死なない。だからこそ、生身の生物に触れることが、ダメージになるはずです」
「そうか!! それがわかっとったらなあ……!」
指をバキバキ鳴らすガングレーナ。
よほど悔しかったのだろう。
「ただ、あまり長く触れると侵食されるかもしれません。だから――」
「殴る蹴るが有効っちゅうことやな」
「そうです。生身を使いつつも、接触時間は減らす。それが基本になるでしょう」
「勝算が見えてきたのは助かるわ」
ガングレーナが凶暴な笑みを浮かべた。
なんだかんだ、彼女も規格外の存在【国宝】なのだ。
ファルケファルケほどどうかはしてないけど。
「ところで、パコニカさんの居場所はわかるんですの? 何も言い残してなかったと思うんですけど……」
「……前に言ったろ。俺は、あの人を信用してないって。だから、スパルネにはこれを持たせていた」
ポーチから取り出したのは、ツイコンだった。
「あっ! それは!」
「パコニカが持っていた奴と同じなんだが、バトラーが持っていたんだ。それをこっそり分けてくれてな」
厳密にはバトラーは立体映像なので、保存場所を教えてくれただけだが。
パコニカが設置したものとは別に、外れ大迷宮に挑んだ防険者は数多く、彼らが残して行ったものらしい。
精霊の意を汲んで動くゴーレム的なものがおり、それがダンジョンの保守作業の中で拾って来るという。
「これと対になるコンパスを、パコニカの荷物の中に忍ばせておいた。だからパコニカのいる方向はわかる」
「ほあ!」
ちょうど、サバゲー場での修業後に戦いの準備をしたり、腹ごしらえをしたあのタイミングだ。
だから、ジゼロジゼロが気づいていないのも無理はない。
バナナしか見えてなかったし。
「もしかしたら気づかれて捨てられてるかもしれないが、今のところそれしか手掛かりはない。何もないよりはましだろう」
「なるほど……悩ましいところですわね……」
「とりあえず、うちは、琥珀にされた人らを外れダンジョンまで運ぶわ。ホンマは国に戻るべきやろうが、これはうちのワガママやな。それから国に帰って【深魔】の件を報告して、国の指示に従うつもりや。ドラゴン戦に参加するかは政治の駆け引き次第やろうが……」
ガングレーナの判断は、納得できる。
ある種の公務員としての責務と、仲間を思う気持ちの、落としどころとしては妥当なところだろう。
国に戻らなければ指示も出ないというのをうまく利用している。
まぁ、そもそも【国宝】のワガママを止める手段などないが。
「ジゼロジゼロはどうしたい?」
「お姉様が心配ではないと言ったらウソにはなりますが……でも、あのお姉様ですからきっと大丈夫ですわ。ですから、私たちはまず、ゼフィーさんを外れ大迷宮に連れて行って、先のことはそれから考えましょう」
「同感だ。俺もスパルネは心配だが……まずはゼフィーを回復させることだと思う」
「なら、行先は一緒やな。ほんなら、また【竜巻】で連れたったるわ」
「「え」」
忘れてた!!
この人の移動方法はあれだった!!!
かくして、またしても空中でリバースし、大地に肥料を散布しながら移動する羽目になったのだった……。
だが、そんなのは振り返ってみれば、これから起こる事件に比べれば、日常の一コマに等しかった。
なぜならば――
ドラゴンの一団は、王都を素通りして、外れ大迷宮へ進軍していたのだから。




